堀井元議員略式起訴 裏金の使途解明を怠るな(2024年8月31日『河北新報』-「社説」)
「政治活動以外への使用、違法な使途は把握されていない」。岸田文雄首相が国会などで繰り返してきた説明はいったい何だったのか。
事務所スタッフから寄付の違法性を指摘されても「慣例としてやってきた。いきなりやめられない」と継続するよう指示していたとされる。立法に携わる身にあるまじき順法精神の欠如だ。
さらに、こうした違法な寄付の原資に裏金が充てられた疑いが濃いことも看過できない。東京地検特捜部の任意の事情聴取に対し、事務所関係者は、これらの裏金が香典の原資や元議員の私的な靴代、スーツ代、サウナ代などに充てられたと供述している。
一連の捜査で立件されたのは、虚偽記入の額が3000万円以上の議員らだった。
時効にかかる2018年分を含めても虚偽記入額が2196万円だった堀井元議員が立件されたのは、特捜部が裏金の使途が悪質と判断したからでもあろう。
自民が2月に公表したアンケート結果では、18~22年に収支報告書に不記載があった現職議員や選挙区支部長は計85人。ほとんどがその後、相次いで収支報告書を訂正したものの、使途を「不明」としたままの議員も5人いた。
裏金に関わった現職議員82人のうち73人は政治倫理審査会への出席を拒み、説明責任を果たそうともしていない。
理解できないのは、党所属国会議員の2割を超える裏金議員が来月の総裁選で何の制約もなく投票できることだ。 これでは裏金議員をも代表する人物を党総裁に選び、日本の総理大臣にしようとしていることにならないか。
総裁選候補が裏金議員の票をあてにしているようでは、誰が選ばれても幅広い支持が集まるはずはない。国民の政治不信の深さを決して侮ってはなるまい。
堀井元議員、略式起訴 自民裏金、疑念深まった(2024年8月31日『秋田魁新報』-「社説」)
起訴状によると、堀井元議員は2023年10月までの2年間に地元北海道9区の有権者ら52人に、香典計38万円や枕花計約23万円相当を提供。また、21年までの3年間に自民安倍派から受領した計約1700万円の裏金を収支報告書に記載しなかったとされる。
秘書らから複数回、違法性を指摘されても「慣例としてやってきた。いきなりやめることはできない」として続けるよう指示したそうだ。カネで有権者とつながろうという、あからさまな姿勢に映る。
加えて重大なのは、この違法な寄付に裏金が使われた疑いがあることだ。事務所関係者が特捜部にそう供述したという。
自民派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡っては、裏金を受領した議員の多くがその額などを理由に刑事処分を免れている。特捜部は今回、裏金の使途の悪質性を重視し立件したとみられている。
堀井元議員は香典提供の経緯や裏金との関連などを公に説明しないまま自民を離党し、今月28日に議員辞職した。説明責任の放棄は不誠実極まりない。
自民は裏金事件を受け、堀井元議員を含め関係議員に聞き取り調査した報告書を2月に公表している。裏金については「違法な使途に使用したのは一人もいなかった」との総括だった。
調査の信用は地に落ちたといえよう。他にも同様の例があるのではないかと国民が疑念を深めても無理はない。自民には徹底した再調査が求められる。
先の通常国会では、政治資金パーティーの券購入者名の公開基準額を引き下げるといった法改正がなされた。だが政治資金の透明性確保には疑問符がついたまま。付則に盛り込まれた政治資金をチェックする第三者機関の設置も具体化していない。
自民総裁選は来月行われる。新しいリーダーに求められるのは「政治とカネ」の再発を防ぐ仕組みの構築だ。その土台となる裏金の実態解明をうやむやにしておくことは許されない。
堀井氏略式起訴 不正許さぬ体制づくりを急げ(2024年8月30日『読売新聞』-「社説」)
「政治とカネ」の問題が再び刑事事件に発展した。国民の不信を 払拭 ふっしょく するためには、カネがかかる政治の慣行を改め、資金の透明性を高めることが急務である。
堀井氏は2021~23年、北海道の自身の選挙区内で行われた有権者52人の葬儀などに秘書らを派遣し、香典や花代計61万円を提供したほか、自民党安倍派から受け取った1700万円を収支報告書に記載しなかったとされる。
21年には、菅原一秀・元経済産業相が香典などを配った罪で罰金刑を受け、公民権が停止された。堀井氏はこの事件を知らなかったわけではあるまい。違法性を認識しながら香典の提供を続けたことは悪質性が高いと言えよう。
しかし、堀井氏の秘書が配った香典は、「裏金」から捻出された可能性が高いとされている。自民党の報告書の信頼性にも疑念を抱かざるを得ない状況だ。
派閥の「裏金」事件を受け、政治資金パーティー券の購入者を公開する基準を引き下げるなどの法改正が行われた。
ただ、政治資金の監査を担う第三者機関の設置などの検討は今後に持ち越された。外部のチェックを導入し、不正を許さない体制を整えねばならない。
堀井学前衆院議員=自民党を離党、辞職=が政治資金規正法違反と公職選挙法違反の罪で罰金などの略式命令を受けた。東京地検特捜部による裏金事件の捜査で発覚した。「政治とカネ」をめぐる不正の連鎖は深刻だ。自民党の自浄能力を疑わざるを得ない。
堀井前議員は任意聴取で「違法性は認識していた」と説明したという。順法意識の欠如にはあきれるほかないが、自民党内に金権選挙を容認し、ルールを軽んじる土壌があったのではないか。
裏金をめぐる一連の捜査では、還流を受けた議員の大半が不記載の金額などを理由に立件されなかった。しかし堀井前議員は裏金を違法な香典の原資に充てていた疑いがあり、特捜部は悪質性が高いと判断して略式起訴した。
自民党が公表した調査報告書では、裏金を政治活動以外や違法な使途に充てたと答えた議員はいなかった。もはや調査の信用性はゼロに等しい。ほかの議員についても徹底した捜査が必要だ。
堀井前議員とは別に、広瀬めぐみ前参院議員=同=が先月、勤務実態のない公設秘書の給与を国からだまし取った詐欺の疑いで特捜部の強制捜査を受けた。岸田文雄首相(自民党総裁)を筆頭に党の責任は重い。離党や議員辞職したからといって済む話ではない。
自民党の総裁選に名乗りを上げた各議員は「政治の信頼回復」を訴える。その言説が本心なら、事件を招いた党の体質に踏み込んだ徹底的な検証が前提だ。そのうえで再発防止に向けた具体的な道筋を示さない限り、信頼を取り戻すことはおぼつかない。
裏金で略式起訴 実態解明が全く足りぬ(2024年8月30日『東京新聞』-「社説」)
自民党派閥の裏金事件を巡り、東京地検特捜部が堀井学元衆院議員=写真=を政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪で略式起訴した。85人いた「裏金議員」のうち立件されたのは4人目。捜査が尽くされたとは言い難く、自民党による調査も不十分だ。実態の徹底的な解明を重ねて求めたい。
堀井氏は2021年までの3年間で、安倍派から還流された政治資金パーティー収入計約1700万円を政治資金収支報告書に記載しなかった。罪を認めて議員辞職したが、説明責任を果たさず、けじめをつけたとは言い難い。
特捜部は今年1月、裏金議員3人と派閥の会計責任者らを起訴。3千万円の虚偽記入が起訴の基準額だったとされる。それに満たない堀井氏の立件は、裏金を原資に地元・北海道の有権者に違法な香典を配った公職選挙法違反との二重の罪を重くみたからだろう。
1千万円超の不記載・虚偽記入があるにもかかわらず、刑事責任を問われていない議員がほかに20人近くいる。巨額の裏金づくりは公表できない使い方が目的だったと疑われて当然で、残る議員の使途もさらに捜査が必要だ。
岸田文雄首相は裏金に関し、先の国会で「違法な使途に使用した例は把握されていない」と言明した。徹底的な党内調査を避けた結果の虚偽答弁というほかない。
数々の問題を放置したまま、自民党は首相交代で裏金事件に幕を引こうとしているのではないか。岸田氏の後継総裁候補に名乗りを上げた議員から実態解明や抜本改革の意欲がまったく伝わってこないのが、その証左だ。
堀井氏略式起訴 裏金の実態明らかにせよ(2024年8月30日『中国新聞』-「社説」)
2021年には菅原一秀・元経済産業相が同じような香典問題で罰金と公民権停止の略式命令を受けている。堀井氏は事務所内で複数回、違法性を指摘されていたが「慣例としてやってきた。いきなりやめられない」と秘書らに継続を指示していたという。
政治家の自覚を欠いた、悪質な法令違反に開いた口がふさがらない。議員辞職に追い込まれたのも当然と言える。
とりわけ見過ごせないのは香典の原資が何だったのかという点だ。東京地検特捜部の調べに、堀井氏の事務所関係者は「裏金が使われた」と認めているという。
ところが、岸田文雄首相は裏金づくりの温床と指摘された政治資金パーティーの全面禁止を拒んだ。裏金についても「違法に使われた例は把握されていない」と国会で開き直った。ならば今回の事件にどう対処するのか、きちんと説明してもらいたい。
堀井氏はスピードスケートの五輪メダリストである。政界入り当初から、裏金づくりの手法などを熟知していたわけではなかろう。自民党内で裏金づくりを学んだとすれば党の責任も当然免れまい。
まさに的外れな発言だ。国民が求めているのは、金のかかる政治の一掃のはずだ。政治資金を透明化もせず、パーティーを開かなければ活動できないという政治家が今の政治に必要とも思えない。
国民は、ザル法といわれる規正法を政治家が守りさえすればいいとは受け止めていないはずだ。にもかかわらず、お茶を濁すような法改正で収めようとした結果、岸田政権の退陣につながったことを理解できていないのではないか。
来月の自民党総裁選には多くの政治家が立候補の意欲を見せている。だが、政治とカネに踏み込んだ発言がほとんど聞かれない。裏金議員の支持や票を当てにしているのかしれないが、これでは党の体質が改まるはずもなかろう。
政治不信はこれまでになく高まっている。岸田首相に代わる新リーダーは裏金の実態を明らかにする責務がある。堀井氏の事件は紛れもない、その試金石である。
辞職は遅きに失したと言うほかない。だが辞職すればけじめが付くという話ではない。
まずは自ら記者会見を開き、有権者に対して事件の実態をつまびらかにするのが筋だろう。
何より気になるのは裏金との関連だ。特捜部は裏金の一部が違法な香典の原資になった可能性があるとみて調べている。
自民党の多くの議員が関与した裏金は実際に何に使われたかいまだにはっきりしていない。
今回の事件は氷山の一角の恐れもある。9月に総裁選を行う自民党は裏金の全容解明の議論から逃げてはいけない。
堀井氏はこれまで一切、公の場で説明をしていない。極めて不誠実と言わざるを得ない。
立件が近いタイミングでの辞職は情状酌量を狙った判断とみられても仕方ないだろう。
正式裁判によらず、書面審査の手続きで済ませる略式起訴は事実関係が白日の下にさらされにくい。有権者から負託を受けた者としての説明責任が、より問われることを自覚すべきだ。
裏金事件で立件された国会議員はこれまでに安倍派の3人にとどまっていた。堀井氏は安倍派から5年間で計2196万円の還流を受け、政治資金収支報告書に記載していなかった。
今回の事件は裏金問題が全く終わってはいないことの証左だ。疑惑はかえって深まったとさえ言える。
自民党総裁選では、出馬に意欲を示す候補者たちの裏金解明に向き合わない姿勢が目立っている。
既に出馬表明した河野太郎デジタル担当相は、裏金議員に対して不記載額の返納を求める考えを示した。安倍派議員からは反発も出ているという。
だが、返還すれば解決するという発想はあまりにも本質からずれている。実態解明なしに国民の信頼は回復できないことを肝に銘じるべきだ。
堀井氏は特捜部の任意聴取に対し、違法と認識しながら秘書らを通じた香典配布を指示していたことを認めたという。
自民党はなぜ「カネのかからない政治」を実現できず、どうすれば改められるのか。
次期総裁はそれに答えを出す必要がある。
政治とカネ 自民の腐敗体質深刻だ(2024年8月3日『北海道新聞』-「社説」)
自民党の「政治とカネ」を巡る疑惑発覚が止まらない。
広瀬、堀井両氏とも、立件事例が多く政治家が心得るべき初歩の法規を守らなかった疑いで、あぜんとさせられる。
自民党の金権体質の根深さや順法意識の欠如の表れと言うほかあるまい。
まずは実態を徹底的に解明することだ。腐敗した政治風土を根本から改めねばならない。
広瀬氏の事務所では、公設第2秘書の勤務実態がないにもかかわらず、国から計数百万円の給与が支払われていたという。
秘書給与詐欺事件は過去にも与野党で相次いでいる。弁護士出身の広瀬氏は当然認識していたはずで、疑惑が事実なら悪質性が強いと言わざるを得ない。
3月には週刊誌が疑惑を報じていたが、広瀬氏はリモートワークなどをしていて勤務実態はあると反論していた。それでも捜査を受けたのはなぜなのか、改めてつまびらかにすべきだ。
広瀬氏は自民党女性局のフランス研修に参加し、交流サイト(SNS)に投稿された写真が「観光旅行のようだ」との批判を受けたこともある。
1強体制が生んだおごりや緩みが自民党内にまん延しているのは疑いようがない。それが一向に改まる気配がない自浄能力のなさは深刻だ。
堀井氏はいまだ事件について語っていない。有権者への説明は負託を受けた国会議員が当然果たさなければならぬ責務だ。
香典代には裏金が充てられた疑いがある。違法な使い方をしても分からないのが裏金だ。事件が氷山の一角と勘ぐられても仕方あるまい。他の裏金議員を含め使途の究明を急ぐべきだ。