自民議員不祥事 説明責任しっかり果たせ(2024年8月18日『新潟日報』-「社説」)
疑惑を持たれた議員は事の経緯を自らしっかり説明しなければならない。「政治とカネ」の問題がうやむやに片付けられては困る。
広瀬氏は7月、勤務実態があるように装って公設第2秘書の給与を国からだまし取ったとして、詐欺容疑で東京地検特捜部の家宅捜索を受けていた。
第2秘書は2022年12月から23年8月まで在籍しており、この間の給与総額は300万円台後半に上る。広瀬氏が大半を受領したとみられている。
広瀬氏は、第2秘書に勤務実態はなかったと説明しているという。辞職に際して発表したコメントでは「事務所の経費捻出のため、第1秘書の配偶者に第2秘書をお願いし、給与から資金提供を受けたことは事実だ」と認めた。
公設秘書の給与は国民の税金で賄われる。秘書給与詐取は過去に国会議員が何人も立件されている。広瀬氏は弁護士でもある。違法と分かっていたはずで悪質だ。
堀井氏は自民党の派閥裏金事件で、所属していた安倍派から2196万円の還流金を受領しながら政治資金収支報告書に記載せず、政治資金規正法違反容疑の告発状も出されている。香典の原資が捜査の焦点の一つとなっている。
秘書による政治家名義の香典提供が禁じられていることは政治家なら知っていて当然だ。事務所内で違法性を指摘する声があったものの、堀井氏が「慣例としてやってきた」と提供を続けるよう指示していたとも報じられている。
広瀬氏と堀井氏はいずれも、本人や事務所がコメントを出しただけで、記者会見での説明はいまだにしていない。
捜査中だとして説明を避ける議員が少なくないが、理由になっていない。逃げているようでは、国民の代表である政治家としての責任を果たしたとは言えまい。
法に触れる行為をする議員に議員を務める資格はない。カネがかかる政治や選挙の在り方は、根本から改めるべきだ。
不祥事を起こした議員が離党したからといって、自民党が責任を免れるわけではない。
秘書給与疑惑/自民の腐敗体質は深刻だ(2024年8月13日『神戸新聞』-「社説」)
自民党の「政治とカネ」を巡る不祥事がまたしても発覚した。東京地検特捜部は公設秘書の給与を国からだまし取ったとする詐欺容疑で、広瀬めぐみ参院議員=自民離党=の関係先を家宅捜索した。実態解明へ徹底した捜査を求めたい。
「政治とカネ」の問題では7月中旬、選挙区内の有権者に秘書らを通じて香典を配った公選法違反の疑いで堀井学衆院議員=自民離党=の関係先が家宅捜索を受けたばかりだ。派閥裏金事件で政治不信が増幅する中、自民の腐敗体質の深刻さが浮き彫りになっている。
疑いがかかるたび議員に「説明を尽くせ」と人ごとのように語る自民幹部の当事者意識の欠如は目に余る。議員が離党しても、党の責任は免れないことは言うまでもない。
広瀬氏は2022年参院選岩手選挙区で初当選した。事務所などによると、広瀬氏は同年12月から23年8月まで、公設第1秘書の妻を第2秘書としていた。勤務実態がないにもかかわらず、第2秘書の給与として国から支払われた計数百万円をだまし取った疑いが持たれている。
この疑惑は今年3月の週刊新潮で報じられたが、広瀬氏は事務所のホームページで、第2秘書は事務作業や広瀬氏の送迎などの業務に当たっていたなどとして「事実無根」と反論していた。
事務所関係者は特捜部の事情聴取に対し、第2秘書には勤務実態がなかったと供述している。国会法は議員1人当たり3人の公設秘書を認め、国家公務員特別職として給与が公費で賄われている。弁護士でもある広瀬氏が違法性を認識していたとすれば極めて悪質であり、議員辞職に値する。広瀬氏は真偽について公の場で自ら語らねばならない。
公設秘書の給与を巡っては、1990年代後半から2000年代前半にかけて、与野党の国会議員による詐取事件が相次いだ。社民党衆院議員だった辻元清美参院議員(現立憲民主党)らが詐欺罪に問われ、有罪判決が確定した事例もある。
04年には国会議員秘書給与法が改正され、給与は秘書本人に直接支給されるようになったほか、議員による秘書への寄付の勧誘や要求が禁じられた。ただ、秘書が受け取った後で議員に渡す抜け道があると以前から指摘されていた。広瀬氏の疑惑が事実であれば、法改正の趣旨を踏みにじる行為である。
裏金事件を受け成立した改正政治資金規正法は、政策活動費の温存などの問題点を残した。裏金の経緯や使途など全容解明も不十分では腐敗体質は断ち切れまい。今度こそ自民党は不正を働いた議員を厳しく処分し、再発防止策を講じるべきだ。
秘書給与疑惑 税金をだまし取る行為だ(2024年8月7日『西日本新聞』-「社説」)
新たな「政治とカネ」の疑惑に、国民はうんざりしているだろう。徹底した捜査で真相を明らかにしてほしい。
広瀬氏は2022年12月から23年8月まで、公設第1秘書の妻を公設第2秘書として国に申請し、勤務実態がないことを知りながら、国から秘書給与をだまし取った疑いが持たれている。
国会議員の公設秘書は特別職の国家公務員で、給与は法律で規定されている。第2秘書には年齢や秘書歴によって30万円台から40万円台の月給と賞与が支払われる。
振り込まれた給与は広瀬氏の事務所関係者が毎月引き出し、広瀬氏が現金で受け取っていたようだ。
3月に週刊誌が疑惑を報じた際、広瀬氏は自身のホームページで、第2秘書が事務作業をしたり、広瀬氏を送迎したりするなど「勤務実態があった」と反論していた。
実際には、送迎はほとんどなかったとみられる。広瀬氏は給与受領について事務所関係者とのLINE(ライン)で「やっぱり違法なこと」などと記していたという。
特捜部は広瀬氏が当初から給与をだまし取る目的だったとみている。
違法性を認識していたとすれば言語道断だ。広瀬氏は弁護士でもある。容疑が事実なら議員を辞職すべきだろう。
国会議員による公設秘書給与の詐取事件は過去に何度も起きている。1990年代後半から2000年代前半にかけて相次いだ。
これを受けた04年の法改正で、給与は公設秘書の口座に直接振り込むことになり、議員が秘書に寄付を要求することは禁止された。国会議員なら当然知っているはずだ。
広瀬氏は疑惑について国民の前で何も語っていない。不祥事のたびに国会議員が口にする「政治家の説明責任」はもはや信用できない。
広瀬氏にも言い分があるだろう。自ら進んで一連の経緯を語るべきだ。
離党したからといって無関係にはならない。公設秘書給与の詐取は税金をだまし取る行為である。党として広瀬氏に説明を促す責任がある。
自浄能力のなさは目を覆うばかりだ。なぜ不祥事が絶えないのか。来月の自民党総裁選でこの問題を避けて通ることはできない。
秘書給与疑惑 公金詐取は国民への背信だ(2024年8月6日『読売新聞』-「社説」)
またしても「政治とカネ」の問題が発覚し、あきれた人は多いはずだ。政治不信の増幅にどう歯止めをかけるのか。与野党の責任は重い。
自民党の広瀬めぐみ参院議員が公設秘書の給与をだまし取っていた疑いが浮上した。2022年末から23年夏にかけて、勤務実態のない人を公設第2秘書として登録し、国から数百万円の秘書給与を自ら受け取っていたとされる。
第2秘書は広瀬氏の公設第1秘書の妻で、岩手県内の社団法人で働いていた。広瀬氏は第1秘書に対し、第2秘書の給与を自分に渡すよう指示していたという。
広瀬氏は、第2秘書は土日に地元で送迎や事務作業をしていたと主張している。だが特捜部は、勤務実態が秘書というには程遠く、違法性を指摘されるのを防ぐためのアリバイ作りとみている。
公金の詐取が事実なら、国民への背信行為だ。断じて許されない。しかも広瀬氏は弁護士であり、自身の行為の違法性は容易に認識できたに違いない。自ら出処進退を判断するのが筋だろう。
当時は秘書の給与を議員事務所の口座などに振り込ませ、議員が流用する手口が政界で横行していた。再発防止のため与野党は04年に法改正し、公設秘書の給与は秘書本人に支給する形に改めた。
与野党は法律の抜け穴を封じる手立てを講じる必要がある。
井上ひさしさんの戯曲『泣き虫なまいき石川啄木』にこんな場面がある。金に困った歌人の啄木が同じ盛岡出身で言語学者となる金田一京助にこんなことを言い出す。「米櫃(こめびつ)の底がガラガラと鳴る音を聞いたことがありますか」。それを聞いた金田一さん、情に負けたか、ありったけの金を差し出す
▼金田一の著書によると「石川君は借金の天才を持っていた」。情に訴えるのがうまかったようで「誰だって石川君の困っているのを見て、一時の融通をして上げずには居られなかった」-。あちこちで借金を踏み倒し、評判を下げた啄木だが、金田一は弁護している。金を返せぬ苦み。その苦みに啄木は「ひとりでどんなに苦しんでいたか」
▼先週、家宅捜索を受けた。勤務実態のない公設第2秘書を届け出て、国に給与を支払わせていたと伝えられる
▼受け取った給与の大半は議員本人に渡っていた疑いがあるというから事実とすれば、でたらめにも程がある
▼<はたらけど/はたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざり/ぢつと手を見る>は啄木。捜査の進展を待つが、「ぢつと」見てやりたくなるのは「幽霊秘書」で金を得たとささやかれる議員の手の方か。
政治とカネ 自民の腐敗体質深刻だ(2024年8月4日『北海道新聞』-「社説」)
自民党の「政治とカネ」を巡る疑惑発覚が止まらない。
広瀬、堀井両氏とも、立件事例が多く政治家が心得るべき初歩の法規を守らなかった疑いで、あぜんとさせられる。
自民党の金権体質の根深さや順法意識の欠如の表れと言うほかあるまい。
まずは実態を徹底的に解明することだ。腐敗した政治風土を根本から改めねばならない。
広瀬氏の事務所では、公設第2秘書の勤務実態がないにもかかわらず、国から計数百万円の給与が支払われていたという。
秘書給与詐欺事件は過去にも与野党で相次いでいる。弁護士出身の広瀬氏は当然認識していたはずで、疑惑が事実なら悪質性が強いと言わざるを得ない。
3月には週刊誌が疑惑を報じていたが、広瀬氏はリモートワークなどをしていて勤務実態はあると反論していた。それでも捜査を受けたのはなぜなのか、改めてつまびらかにすべきだ。
広瀬氏は自民党女性局のフランス研修に参加し、交流サイト(SNS)に投稿された写真が「観光旅行のようだ」との批判を受けたこともある。
1強体制が生んだおごりや緩みが自民党内にまん延しているのは疑いようがない。それが一向に改まる気配がない自浄能力のなさは深刻だ。
堀井氏はいまだ事件について語っていない。有権者への説明は負託を受けた国会議員が当然果たさなければならぬ責務だ。
香典代には裏金が充てられた疑いがある。違法な使い方をしても分からないのが裏金だ。事件が氷山の一角と勘ぐられても仕方あるまい。他の裏金議員を含め使途の究明を急ぐべきだ。
秘書給与詐取事件 政治不信に危機感ないのか(2024年8月4日『中国新聞』-「社説」)
公金で賄われる秘書の給与をだまし取ったとする詐欺容疑で、東京地検特捜部が広瀬めぐみ参院議員(自民離党)の事務所や自宅を家宅捜索した。政治とカネを巡る議員の不祥事がまた浮上した。言語道断であり、徹底した事実の解明を求めたい。
広瀬氏は弁護士で、2022年に岩手選挙区から初当選した。22年12月~23年8月に公設第1秘書の妻を第2秘書として参院に届け出たが、特捜部は勤務実態がなかったとみている。国から第2秘書に支払われる給与は月30万~40万円台。詐取の総額は300万円台後半とみられる。最終的に広瀬議員に渡っていたとすれば、国民への背信行為であり、許せない。
公設秘書は国家公務員特別職で議員1人に3人まで認められる。うち1人は政策秘書で資格が要るが、公設第1、第2秘書は資格が要らない。
端緒になったのは、第2秘書に勤務実態がないと報じた3月の週刊誌である。広瀬氏はホームページで「事実無根」と反論していた。うそをついていたのであれば、法律家としての資質も問われる。事実関係を公の場で説明するべきだ。
広瀬氏は昨年、フランス研修中の写真が「観光旅行のよう」と批判され、党女性局の役員を辞した。今年3月に報じられた不倫疑惑については事実と認めながらも説明責任を果たしていない。
自民党は危機感を持って襟を正すべきだ。離党したら関係ないと言わんばかりの素っ気ない対応はいかがなものか。広瀬氏、堀井氏とも疑惑は党所属時代のものであり、調査、説明する責任は党にもあるはずだ。議員は離党で党に対する責任を取ったかもしれないが、国民への責任は果たしたとは言えない。
国民は物価高で生活が苦しい。税金や社会保険料といった国民負担率も一昔前より大幅に上がった。そんな中で議員が公金をくすねるような疑惑が浮上すれば、国民と政治の距離はますます開いていくだろう。
秘書給与の詐取では、与野党の国会議員が1990年代末から00年代前半にかけて何人も逮捕された。社民党衆院議員だった立憲民主党の辻元清美参院議員は02年に議員辞職し、後に執行猶予付きの有罪判決を受けている。
再発防止策として04年に国会議員秘書給与法が改正され、議員の配偶者を公設秘書に採用するのを禁じ、給与は秘書の口座に直接振り込むようにした。ただ秘書が受け取って議員に渡す抜け道があると当初から指摘されていた。
議員のモラルに任せた運用ではもう無理かもしれない。公設秘書の勤務実態や給与の支払い状況を第三者機関がチェックし、結果を公表するなどさらなる対策を考えるべきではないか。
政治とカネ 腐敗根絶へ 慣れず諦めず(2024年8月4日『熊本日日新聞』-「社説」)
開き直りとも取れるこの発言から40年余を経ても、自民党国会議員の本音は1ミリも変わっていないのか。党派閥の裏金事件が、政治資金規正法の極めて曖昧な改定で幕引きされようとするさなかに、新たな「政治とカネ」にまつわる疑惑が立て続けに浮上した。
一つは有権者に違法な香典を渡したとされる堀井学衆院議員(自民離党、比例北海道)の公選法違反容疑事件。さらに、公設秘書の給与を国からだまし取ったとされる広瀬めぐみ参院議員(同、岩手選挙区)の詐欺容疑事件だ。いずれも東京地検特捜部が家宅捜索するなど強制捜査に入った。
国民は何十年も同じ三文芝居を眺める心持ちだろうか。しかし、決して現状に慣れ、諦めてしまってはなるまい。あしき「政治とカネ」の横行は、政策をゆがめ、国家経営にまで悪影響を及ぼしかねない。政治腐敗に明確な「ノー」を突きつけ、根絶する仕組みを、有権者の投票行動と法整備の両面から構築するべきだ。
堀井議員をめぐっては、選挙区である北海道9区内の複数の有権者に、「堀井学」と記した香典を秘書らに持参させた疑いがあるという。公選法は議員本人が葬儀に参列した場合を除き、選挙区内で香典を渡すことを禁じている。過去には菅原一秀元経済産業相が2018~19年に選挙区内で香典を配ったなどとして略式起訴され、罰金と公民権停止が確定した。
一方、広瀬議員は、公設第2秘書の勤務実態があるように装い、国から給与を詐取した疑いが持たれている。3月に「週刊新潮」が疑惑を報じた際は、事実無根と否定していた。秘書給与詐取でも複数の国会議員が立件された。立憲民主党の辻元清美参院議員は社民党衆院議員だった02年に秘書給与の不正受給が発覚。議員辞職の後、詐欺容疑で逮捕され執行猶予付きの有罪判決を受けた。
「政治とカネ」をめぐる最大の懸念は、深刻な政治不信と政治的無関心が投票率の低下につながり、民主制の土台である有権者の政治参加をむしばむことにある。日本でも長期にわたりこの過程が進み、主として自民党を利してきたといえる。
野党が自民党の腐敗を厳しく追及するのは当然だが、与党政権の失敗、失政に対する最も有効なペナルティーが政権交代であることは、7月の英国下院総選挙の結果を見れば明らかだ。野党は政権の受け皿として十分に認知されたとは言い難い自らの姿も受け止め、何が足りないか考えてほしい。
カネの醜聞 不信底なし/秘書給与詐取事件(2024年8月3日『東奥日報』-「時論」)
異常事態だ。自民を巡る「政治とカネ」の醜聞は底なしの様相と言わざるを得ず、国民の政治不信は深まる一方だ。
両事件の全容解明には捜査の進展を見守る必要があるが、その前に自民は離党で済ませず、2人に説明責任を果たさせなければならない。特に広瀬議員は弁護士であり、捜索後、報道陣に「後でしっかり説明する」と約束した。速やかに実行させるべきだ。
広瀬議員は2022年初当選。同年12月から23年8月まで公設第2秘書として届けていた女性に勤務実態がなく、この間に国から給与として支給された数百万円の大半を詐取した疑いが持たれている。
女性は公設第1秘書の妻。国からの給与は全額が本人に直接支給されることになっており、その先の資金の流れや使途が焦点の一つだ。広瀬議員はどう関与したのか。女性はどう説明しているのか。明らかにしてもらいたい。
また週刊誌が今春、この問題を「幽霊秘書」疑惑として報じた際、広瀬議員は「事実無根」とする反論を事務所のホームページに掲載していた。その中で、もう一つの焦点である勤務実態について「平日は主としてリモートワーク、土日は私の駅への送迎などをしていた。目に留まりにくい活動中心とはいえ、しっかり勤務実態があった」と強調していた。
この説明に間違いはないのか。スケジュール帳などの根拠も示しながら、さらに詳細に説明すべきだ。
公設秘書は特別職の国家公務員だ。その職を利用した給与の詐取は税金の流用にほかならず、国民の信頼に真っ向から背く悪質な犯罪と言わざるを得ない。
1990年代末から2000年代前半にかけて、与野党を問わず国会議員による秘書給与の詐取事件が頻発し、議員本人が何人も逮捕された。
詐取総額が2千万円を超すケースも複数あった。動機は個人財産を蓄えるためであったり、政治資金の確保であったりと裁判で認定され、実刑判決も多く確定した。
再発防止策として04年に国会議員秘書給与法が改正されたが、議員配偶者の公設秘書への採用禁止などにとどまり、当時から実効性を疑問視する批判が根強かった。
広瀬議員の今回の容疑が事実なら、20年前の法改正がやはり不十分だったことは明らかだ。捜査の行方を見極めながら、再発防止策を強化することが不可欠だ。
公設秘書の勤務実態や給与の支払い状況などを第三者機関がチェックし結果を公表する制度の導入などが考えられる。政府与党が議論を主導すべきなのは言うまでもない。
派閥裏金事件を受け、自民は改正政治資金規正法を成立させたが、肝心な対策の多くは検討事項として先送りした。こんな対応を繰り返すなら、地に落ちた信頼の回復など望むべくもない。
【政治とカネ疑惑】自民の腐敗体質は根深い(2024年8月3日『高知新聞』-「社説」)
自民党に所属していた国会議員による「政治とカネ」を巡る不祥事が相次いで判明した。派閥裏金事件で高まった政治不信は深まるばかりだ。議員個人だけでなく党の責任も改めて問われている。
国会議員の秘書には議員が個人的に雇う私設秘書と、特別職の国家公務員である公設秘書がいる。国会法上、公設秘書は3人の雇用が認められ、給与は国から支払われる。
広瀬氏は2022年12月から23年8月まで、公設第1秘書の妻を第2秘書としていた。第2秘書には勤務実態がないにもかかわらず、国から数百万円をだまし取った疑いが持たれている。
この問題は今年3月の週刊誌で報じられたが、広瀬氏は、第2秘書は事務作業や広瀬氏の送迎などの業務に当たっていたと主張していた。一方、給与受領について違法性の認識があったともみられている。
広瀬氏が法に触れることを認識していたなら言語道断というほかない。まずは説明責任を果たさなければならない。
公設秘書の給与を巡っては、1990年代後半から2000年代前半にかけて、与野党の国会議員が有罪判決を受ける詐欺事件が相次いだ。国会議員秘書給与法は改正され、給与は秘書本人に直接支給されるようになったほか、秘書への寄付の勧誘や要求が禁止された。容疑が事実なら、法改正の精神から逸脱するものと言わざるを得ない。
2週間前には、選挙区内で違法に香典を渡したとされる公選法違反容疑で堀井学衆院議員=自民離党=も特捜部の家宅捜索を受けた。堀井氏は安倍派から裏金2196万円を受け取ったとする政治資金規正法違反容疑で告発されている。特捜部は捜査過程で違法性が疑われる資金の流れを把握したとされる。
堀井氏は選挙区の有権者に対し、秘書らを通じて本人名義の香典を渡したとされ、額は少なくとも数十万円に上るとみられる。故人の枕元に飾る枕花を送った疑いもある。
裏金を香典の原資に充てた疑いも持たれている。裏金の実態は経過や使途などあいまいな部分が多い。全容の解明が必要だ。堀井氏も説明を尽くさなければならない。
裏金数百万円をスーツ代やサウナ利用代などに私的流用したとの疑惑も出ている。だが、党内調査は「違法に使った例はない」と総括し、党総裁の岸田文雄首相も「政治活動以外への使用、違法な使途は把握されていない」と繰り返した。調査の信ぴょう性が揺らいでいる。
他にも、岸田首相が処分対象から除外されるなど身内に甘い対応が目立つ。全容をあいまいにしたままでは腐敗体質を断ち切れまい。
秘書給与詐取事件 地元への説明に誠意尽くせ(2024年8月2日『河北新報』-「社説」)
自民党国会議員による「政治とカネ」絡みの疑惑がまたしても浮上した。
第2秘書には第1秘書の妻を登録。2022年から23年ごろまで、国から給与の支給を受けていたという。
広瀬氏は週刊新潮が3月に疑惑を報じた際、自身のホームページで「しっかりした勤務実態で働いていた」などと反論していたが、捜索を受けたことで、改めて真偽について説明を尽くす責務が生じたのは言うまでもあるまい。
事件の頻発を受け、04年には国会議員秘書給与法が改正され、議員経由で支払われていた秘書給与が本人に直接支給されるようになったほか、議員が秘書に寄付を求める行為が禁じられた。
第2秘書に支給された給与がどんな形であれ、広瀬氏側に渡っていたとすれば、法改正の趣旨を逸脱しているばかりか、社会人としてもあるまじき公私混同に他ならない。
秘書給与を巡る疑惑に先立ち、広瀬氏は2月の週刊新潮で外国人男性との不倫も報じられ、「しっかり仕事をする姿を見せることで、少しでも信頼を取り戻せるよう誠心誠意努める」と述べていた。
地元の有権者は、きっと裏切られた思いでいるに違いない。地元への説明に誠意を尽くした上で、自ら進退を判断するべきだろう。
秘書給与 詐取疑い 自民離党でお茶濁すな(2024年8月2日『沖縄タイムス』-「社説」)
「政治とカネ」の問題が終わらない。
異常事態である。自民を巡る「政治とカネ」の不祥事は、底なしの様相だ。
広瀬氏は2022年に初当選。同年12月から23年8月まで公設第2秘書として届けていた女性に国から給与として支給された数百万円の大半を詐取した疑いが持たれている。
事務所関係者は地検の事情聴取に対し、第2秘書には勤務実態がなかったと供述している。
公設秘書は特別職の国家公務員だ。その職を利用した給与の詐取は、税金の流用であり、国民の信頼に背く悪質な犯罪だ。
疑惑は今年3月に週刊誌が報じて発覚した。広瀬氏はホームページで「記事の内容は事実無根」などと反論していた。
家宅捜索を受けた後、「後でしっかり説明する」と約束したが、その後、取材には応じていない。説明責任を果たさず、逃げ切ろうとするのが自民党のやり方なのか。
秘書給与を詐取していたのであれば、議員辞職に価する。
■ ■
1990年代末から2000年代前半にかけて、与野党を問わず国会議員による秘書給与の詐取事件が頻発し議員が何人も逮捕された。詐取総額が2千万円を超すケースも複数あった。
04年に法律は改正され、秘書給与は全額、本人へ直接支給されることになった。悪用された「公設秘書の寄付」は、勧誘や要求をする行為も禁じられた。
広瀬氏が、秘書の給与を詐取していたとすれば、法改正の趣旨を踏みにじる行為である。
にもかかわらず、不祥事が続いている。もはや、党としての統治能力や自浄能力を失っているのではないか。
堀井、広瀬の両氏も自民を離党した。しかし、自民党には両氏を擁立した責任がある。離党届は受理せず、本人から事実関係を聴取し処分を下すことが、責任ある対応だ。
■ ■
「政治とカネ」に関して、緊張感が生まれないのは、ある意味では当然である。
自民党の政治資金への甘い対応が、今日の異常な状況を招いている。
公設第2秘書について勤務実態があるように装い、国から支給される秘書給与数百万円をだまし取った疑いがもたれている。第2秘書には第1秘書の妻を登録し、令和4年末~5年夏まで、毎月数十万円が国から支給されていたという。
広瀬氏が違法行為であると認識して、詐取行為に及んでいたのであれば言語道断だ。国民に対する背信行為で、自ら進退を判断すべきではないか。
疑惑は今年3月に週刊新潮が報じて発覚した。このとき広瀬氏はホームページで「勤務実態があったことに間違いありません」と反論していた。本当にそうなのか。国民の負託を受けた政治家として、説明を尽くす責務がある。
離党したとはいえ、自民の責任も問われよう。週刊新潮に指摘されてからこれまでの間、党として何をしてきたのか。事態を放置していた責任は重い。執行部は広瀬氏に説明責任を果たすよう強く促すべきだ。
秘書給与の不正受給を巡る事件は平成10~15年頃にかけて相次いだ。15年7月には、当時社民党衆院議員だった辻元清美参院議員(現立憲民主党)が政策秘書2人分の給与約1880万円をだまし取ったとして、議員辞職後に逮捕され、翌年2月の判決で有罪となった。
事件の頻発を受け、国会議員秘書給与法が16年に改正された。議員経由で支払われていた秘書給与は、秘書本人に直接支給されるようになった。同時に国会議員が秘書に寄付を要求する行為も禁じた。
第2秘書は広瀬氏側に給与を上納していた可能性がある。もしそうなら法改正の趣旨を逸脱している。
「政治とカネ」を巡っては、派閥パーティー収入不記載事件に続き、堀井学衆院議員(比例北海道、自民を離党)が、選挙区内の有権者が関係する複数の葬儀で、秘書らを通じて堀井氏名義の香典を渡していたとして、公職選挙法違反容疑で関係先の家宅捜索を受けた。
政治不信は増幅するばかりである。自民は候補者選考の在り方についても見直さなければならない。
違法な寄付行為 政治家の常識ではないか(2024年8月1日『西日本新聞』-「社説」)
違法性を認識して続けていたなら政治家失格である。国民への説明責任を果たした上で辞職すべきだ。
裏金を香典の原資に充てた疑いもある。捜査で全容を明らかにしてほしい。
堀井氏の秘書らが配った香典の総額は少なくとも数十万円に上るとみられ、故人の枕元に飾る花も贈った。
3年前の公選法違反事件を思い起こしたい。自民党の菅原一秀元経済産業相が香典など約80万円相当を配ったとして略式起訴され、罰金40万円と公民権停止3年の略式命令を受けた。堀井氏がこれを知らないはずはない。
堀井氏は特捜部の任意の事情聴取に対し、違法と知りながら秘書らに指示したことを認めているという。
事務所内で違法性を指摘する声が上がったにもかかわらず、堀井氏主導で提供を続けたとみられる。故意に違法行為を働いていたとすれば悪質極まりない。
違法な寄付は慣例として継続していた可能性がある。これも「カネをかける政治」のあしき一面だ。
堀井、広瀬両氏は家宅捜索直後に離党したが、自民党の責任は免れない。「政治とカネ」の問題が絶えないのは、党の統治力が欠如しているからではないか。再発防止のかけ声が空虚に響く。
堀井氏が裏金を香典に充てた疑いは、裏金に関する党の実態調査の甘さを露呈したと言える。党を率いる岸田文雄首相は「政治活動以外への使用、違法な使途は把握されていない」と国会などで繰り返し述べていた。
寄付行為の禁止は政治家の常識のはずだが、これまでもたびたび問題となった。ちょうど政治家が選挙区回りに精を出すお盆の時期を迎える。仏前の供え物、線香代の提供も寄付行為に当たることを有権者に知ってほしい。
国会議員に限らず、首長や地方議員もそうだ。政治家が違法な寄付をしてはならないのはもちろん、有権者が政治家に寄付を要求することも禁止されている。何度でも確認しておきたい。
広瀬氏詐欺容疑 根深い自民の腐敗体質(2024年7月31日『東京新聞』-「社説」)
裏金事件では1月、自民党の衆参両院議員3人が政治資金規正法違反の罪で起訴され、東京都江東区長選を巡る買収事件では元衆院議員の有罪が確定。今月、香典を違法に配った疑いで衆院議員の事務所などが家宅捜索された。
広瀬氏の詐欺容疑も、自民党の腐敗体質の一端が表面化したとみるべきであり、一議員の問題と片付けることはできない。
広瀬氏は2022~23年ごろ、公設第1秘書の妻を公設第2秘書として届け出て、勤務実態がないにもかかわらず、給与として国から計数百万円をだまし取った詐欺の疑いが持たれている。事実なら直ちに議員辞職するよう求める。
勤務実態があったと主張するとしても、給与の不正受給を疑われること自体、不注意が過ぎる。
裏金事件に限らず、自民党内で不祥事が相次いでいるのは、「自民1強」の政治状況が続き、法を犯しても政権転落の心配はないという驕(おご)りや慢心が、党内にまん延しているからではないか。
岸田文雄首相の総裁任期満了に伴う9月の自民党総裁選は、党の腐敗体質を改め、カネをかけない政治を実現するために議論を深める好機のはずだが、現状は誰が総裁に就けば、次期衆院選での敗北を最小限にとどめられるのか、という議論に終始している。
自民党の自浄能力や刷新には、もはや期待できない。次の国政選挙では、政治腐敗は許さないという民意を投票行動で示したい。
秘書給与疑惑 公金詐取は国民への背信だ(2024年8月6日『読売新聞』-「社説」)
またしても「政治とカネ」の問題が発覚し、あきれた人は多いはずだ。政治不信の増幅にどう歯止めをかけるのか。与野党の責任は重い。
自民党の広瀬めぐみ参院議員が公設秘書の給与をだまし取っていた疑いが浮上した。2022年末から23年夏にかけて、勤務実態のない人を公設第2秘書として登録し、国から数百万円の秘書給与を自ら受け取っていたとされる。
第2秘書は広瀬氏の公設第1秘書の妻で、岩手県内の社団法人で働いていた。広瀬氏は第1秘書に対し、第2秘書の給与を自分に渡すよう指示していたという。
広瀬氏は、第2秘書は土日に地元で送迎や事務作業をしていたと主張している。だが特捜部は、勤務実態が秘書というには程遠く、違法性を指摘されるのを防ぐためのアリバイ作りとみている。
公金の詐取が事実なら、国民への背信行為だ。断じて許されない。しかも広瀬氏は弁護士であり、自身の行為の違法性は容易に認識できたに違いない。自ら出処進退を判断するのが筋だろう。
当時は秘書の給与を議員事務所の口座などに振り込ませ、議員が流用する手口が政界で横行していた。再発防止のため与野党は04年に法改正し、公設秘書の給与は秘書本人に支給する形に改めた。
与野党は法律の抜け穴を封じる手立てを講じる必要がある。
井上ひさしさんの戯曲『泣き虫なまいき石川啄木』にこんな場面がある。金に困った歌人の啄木が同じ盛岡出身で言語学者となる金田一京助にこんなことを言い出す。「米櫃(こめびつ)の底がガラガラと鳴る音を聞いたことがありますか」。それを聞いた金田一さん、情に負けたか、ありったけの金を差し出す
▼金田一の著書によると「石川君は借金の天才を持っていた」。情に訴えるのがうまかったようで「誰だって石川君の困っているのを見て、一時の融通をして上げずには居られなかった」-。あちこちで借金を踏み倒し、評判を下げた啄木だが、金田一は弁護している。金を返せぬ苦み。その苦みに啄木は「ひとりでどんなに苦しんでいたか」
▼先週、家宅捜索を受けた。勤務実態のない公設第2秘書を届け出て、国に給与を支払わせていたと伝えられる
▼受け取った給与の大半は議員本人に渡っていた疑いがあるというから事実とすれば、でたらめにも程がある
▼<はたらけど/はたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざり/ぢつと手を見る>は啄木。捜査の進展を待つが、「ぢつと」見てやりたくなるのは「幽霊秘書」で金を得たとささやかれる議員の手の方か。
政治とカネ 自民の腐敗体質深刻だ(2024年8月4日『北海道新聞』-「社説」)
自民党の「政治とカネ」を巡る疑惑発覚が止まらない。
広瀬、堀井両氏とも、立件事例が多く政治家が心得るべき初歩の法規を守らなかった疑いで、あぜんとさせられる。
自民党の金権体質の根深さや順法意識の欠如の表れと言うほかあるまい。
まずは実態を徹底的に解明することだ。腐敗した政治風土を根本から改めねばならない。
広瀬氏の事務所では、公設第2秘書の勤務実態がないにもかかわらず、国から計数百万円の給与が支払われていたという。
秘書給与詐欺事件は過去にも与野党で相次いでいる。弁護士出身の広瀬氏は当然認識していたはずで、疑惑が事実なら悪質性が強いと言わざるを得ない。
3月には週刊誌が疑惑を報じていたが、広瀬氏はリモートワークなどをしていて勤務実態はあると反論していた。それでも捜査を受けたのはなぜなのか、改めてつまびらかにすべきだ。
広瀬氏は自民党女性局のフランス研修に参加し、交流サイト(SNS)に投稿された写真が「観光旅行のようだ」との批判を受けたこともある。
1強体制が生んだおごりや緩みが自民党内にまん延しているのは疑いようがない。それが一向に改まる気配がない自浄能力のなさは深刻だ。
堀井氏はいまだ事件について語っていない。有権者への説明は負託を受けた国会議員が当然果たさなければならぬ責務だ。
香典代には裏金が充てられた疑いがある。違法な使い方をしても分からないのが裏金だ。事件が氷山の一角と勘ぐられても仕方あるまい。他の裏金議員を含め使途の究明を急ぐべきだ。
秘書給与詐取事件 政治不信に危機感ないのか(2024年8月4日『中国新聞』-「社説」)
公金で賄われる秘書の給与をだまし取ったとする詐欺容疑で、東京地検特捜部が広瀬めぐみ参院議員(自民離党)の事務所や自宅を家宅捜索した。政治とカネを巡る議員の不祥事がまた浮上した。言語道断であり、徹底した事実の解明を求めたい。
広瀬氏は弁護士で、2022年に岩手選挙区から初当選した。22年12月~23年8月に公設第1秘書の妻を第2秘書として参院に届け出たが、特捜部は勤務実態がなかったとみている。国から第2秘書に支払われる給与は月30万~40万円台。詐取の総額は300万円台後半とみられる。最終的に広瀬議員に渡っていたとすれば、国民への背信行為であり、許せない。
公設秘書は国家公務員特別職で議員1人に3人まで認められる。うち1人は政策秘書で資格が要るが、公設第1、第2秘書は資格が要らない。
端緒になったのは、第2秘書に勤務実態がないと報じた3月の週刊誌である。広瀬氏はホームページで「事実無根」と反論していた。うそをついていたのであれば、法律家としての資質も問われる。事実関係を公の場で説明するべきだ。
広瀬氏は昨年、フランス研修中の写真が「観光旅行のよう」と批判され、党女性局の役員を辞した。今年3月に報じられた不倫疑惑については事実と認めながらも説明責任を果たしていない。
自民党は危機感を持って襟を正すべきだ。離党したら関係ないと言わんばかりの素っ気ない対応はいかがなものか。広瀬氏、堀井氏とも疑惑は党所属時代のものであり、調査、説明する責任は党にもあるはずだ。議員は離党で党に対する責任を取ったかもしれないが、国民への責任は果たしたとは言えない。
国民は物価高で生活が苦しい。税金や社会保険料といった国民負担率も一昔前より大幅に上がった。そんな中で議員が公金をくすねるような疑惑が浮上すれば、国民と政治の距離はますます開いていくだろう。
秘書給与の詐取では、与野党の国会議員が1990年代末から00年代前半にかけて何人も逮捕された。社民党衆院議員だった立憲民主党の辻元清美参院議員は02年に議員辞職し、後に執行猶予付きの有罪判決を受けている。
再発防止策として04年に国会議員秘書給与法が改正され、議員の配偶者を公設秘書に採用するのを禁じ、給与は秘書の口座に直接振り込むようにした。ただ秘書が受け取って議員に渡す抜け道があると当初から指摘されていた。
議員のモラルに任せた運用ではもう無理かもしれない。公設秘書の勤務実態や給与の支払い状況を第三者機関がチェックし、結果を公表するなどさらなる対策を考えるべきではないか。
政治とカネ 腐敗根絶へ 慣れず諦めず(2024年8月4日『熊本日日新聞』-「社説」)
開き直りとも取れるこの発言から40年余を経ても、自民党国会議員の本音は1ミリも変わっていないのか。党派閥の裏金事件が、政治資金規正法の極めて曖昧な改定で幕引きされようとするさなかに、新たな「政治とカネ」にまつわる疑惑が立て続けに浮上した。
一つは有権者に違法な香典を渡したとされる堀井学衆院議員(自民離党、比例北海道)の公選法違反容疑事件。さらに、公設秘書の給与を国からだまし取ったとされる広瀬めぐみ参院議員(同、岩手選挙区)の詐欺容疑事件だ。いずれも東京地検特捜部が家宅捜索するなど強制捜査に入った。
国民は何十年も同じ三文芝居を眺める心持ちだろうか。しかし、決して現状に慣れ、諦めてしまってはなるまい。あしき「政治とカネ」の横行は、政策をゆがめ、国家経営にまで悪影響を及ぼしかねない。政治腐敗に明確な「ノー」を突きつけ、根絶する仕組みを、有権者の投票行動と法整備の両面から構築するべきだ。
堀井議員をめぐっては、選挙区である北海道9区内の複数の有権者に、「堀井学」と記した香典を秘書らに持参させた疑いがあるという。公選法は議員本人が葬儀に参列した場合を除き、選挙区内で香典を渡すことを禁じている。過去には菅原一秀元経済産業相が2018~19年に選挙区内で香典を配ったなどとして略式起訴され、罰金と公民権停止が確定した。
一方、広瀬議員は、公設第2秘書の勤務実態があるように装い、国から給与を詐取した疑いが持たれている。3月に「週刊新潮」が疑惑を報じた際は、事実無根と否定していた。秘書給与詐取でも複数の国会議員が立件された。立憲民主党の辻元清美参院議員は社民党衆院議員だった02年に秘書給与の不正受給が発覚。議員辞職の後、詐欺容疑で逮捕され執行猶予付きの有罪判決を受けた。
「政治とカネ」をめぐる最大の懸念は、深刻な政治不信と政治的無関心が投票率の低下につながり、民主制の土台である有権者の政治参加をむしばむことにある。日本でも長期にわたりこの過程が進み、主として自民党を利してきたといえる。
野党が自民党の腐敗を厳しく追及するのは当然だが、与党政権の失敗、失政に対する最も有効なペナルティーが政権交代であることは、7月の英国下院総選挙の結果を見れば明らかだ。野党は政権の受け皿として十分に認知されたとは言い難い自らの姿も受け止め、何が足りないか考えてほしい。
カネの醜聞 不信底なし/秘書給与詐取事件(2024年8月3日『東奥日報』-「時論」)
異常事態だ。自民を巡る「政治とカネ」の醜聞は底なしの様相と言わざるを得ず、国民の政治不信は深まる一方だ。
両事件の全容解明には捜査の進展を見守る必要があるが、その前に自民は離党で済ませず、2人に説明責任を果たさせなければならない。特に広瀬議員は弁護士であり、捜索後、報道陣に「後でしっかり説明する」と約束した。速やかに実行させるべきだ。
広瀬議員は2022年初当選。同年12月から23年8月まで公設第2秘書として届けていた女性に勤務実態がなく、この間に国から給与として支給された数百万円の大半を詐取した疑いが持たれている。
女性は公設第1秘書の妻。国からの給与は全額が本人に直接支給されることになっており、その先の資金の流れや使途が焦点の一つだ。広瀬議員はどう関与したのか。女性はどう説明しているのか。明らかにしてもらいたい。
また週刊誌が今春、この問題を「幽霊秘書」疑惑として報じた際、広瀬議員は「事実無根」とする反論を事務所のホームページに掲載していた。その中で、もう一つの焦点である勤務実態について「平日は主としてリモートワーク、土日は私の駅への送迎などをしていた。目に留まりにくい活動中心とはいえ、しっかり勤務実態があった」と強調していた。
この説明に間違いはないのか。スケジュール帳などの根拠も示しながら、さらに詳細に説明すべきだ。
公設秘書は特別職の国家公務員だ。その職を利用した給与の詐取は税金の流用にほかならず、国民の信頼に真っ向から背く悪質な犯罪と言わざるを得ない。
1990年代末から2000年代前半にかけて、与野党を問わず国会議員による秘書給与の詐取事件が頻発し、議員本人が何人も逮捕された。
詐取総額が2千万円を超すケースも複数あった。動機は個人財産を蓄えるためであったり、政治資金の確保であったりと裁判で認定され、実刑判決も多く確定した。
再発防止策として04年に国会議員秘書給与法が改正されたが、議員配偶者の公設秘書への採用禁止などにとどまり、当時から実効性を疑問視する批判が根強かった。
広瀬議員の今回の容疑が事実なら、20年前の法改正がやはり不十分だったことは明らかだ。捜査の行方を見極めながら、再発防止策を強化することが不可欠だ。
公設秘書の勤務実態や給与の支払い状況などを第三者機関がチェックし結果を公表する制度の導入などが考えられる。政府与党が議論を主導すべきなのは言うまでもない。
派閥裏金事件を受け、自民は改正政治資金規正法を成立させたが、肝心な対策の多くは検討事項として先送りした。こんな対応を繰り返すなら、地に落ちた信頼の回復など望むべくもない。
【政治とカネ疑惑】自民の腐敗体質は根深い(2024年8月3日『高知新聞』-「社説」)
自民党に所属していた国会議員による「政治とカネ」を巡る不祥事が相次いで判明した。派閥裏金事件で高まった政治不信は深まるばかりだ。議員個人だけでなく党の責任も改めて問われている。
国会議員の秘書には議員が個人的に雇う私設秘書と、特別職の国家公務員である公設秘書がいる。国会法上、公設秘書は3人の雇用が認められ、給与は国から支払われる。
広瀬氏は2022年12月から23年8月まで、公設第1秘書の妻を第2秘書としていた。第2秘書には勤務実態がないにもかかわらず、国から数百万円をだまし取った疑いが持たれている。
この問題は今年3月の週刊誌で報じられたが、広瀬氏は、第2秘書は事務作業や広瀬氏の送迎などの業務に当たっていたと主張していた。一方、給与受領について違法性の認識があったともみられている。
広瀬氏が法に触れることを認識していたなら言語道断というほかない。まずは説明責任を果たさなければならない。
公設秘書の給与を巡っては、1990年代後半から2000年代前半にかけて、与野党の国会議員が有罪判決を受ける詐欺事件が相次いだ。国会議員秘書給与法は改正され、給与は秘書本人に直接支給されるようになったほか、秘書への寄付の勧誘や要求が禁止された。容疑が事実なら、法改正の精神から逸脱するものと言わざるを得ない。
2週間前には、選挙区内で違法に香典を渡したとされる公選法違反容疑で堀井学衆院議員=自民離党=も特捜部の家宅捜索を受けた。堀井氏は安倍派から裏金2196万円を受け取ったとする政治資金規正法違反容疑で告発されている。特捜部は捜査過程で違法性が疑われる資金の流れを把握したとされる。
堀井氏は選挙区の有権者に対し、秘書らを通じて本人名義の香典を渡したとされ、額は少なくとも数十万円に上るとみられる。故人の枕元に飾る枕花を送った疑いもある。
裏金を香典の原資に充てた疑いも持たれている。裏金の実態は経過や使途などあいまいな部分が多い。全容の解明が必要だ。堀井氏も説明を尽くさなければならない。
裏金数百万円をスーツ代やサウナ利用代などに私的流用したとの疑惑も出ている。だが、党内調査は「違法に使った例はない」と総括し、党総裁の岸田文雄首相も「政治活動以外への使用、違法な使途は把握されていない」と繰り返した。調査の信ぴょう性が揺らいでいる。
他にも、岸田首相が処分対象から除外されるなど身内に甘い対応が目立つ。全容をあいまいにしたままでは腐敗体質を断ち切れまい。
秘書給与詐取事件 地元への説明に誠意尽くせ(2024年8月2日『河北新報』-「社説」)
自民党国会議員による「政治とカネ」絡みの疑惑がまたしても浮上した。
第2秘書には第1秘書の妻を登録。2022年から23年ごろまで、国から給与の支給を受けていたという。
広瀬氏は週刊新潮が3月に疑惑を報じた際、自身のホームページで「しっかりした勤務実態で働いていた」などと反論していたが、捜索を受けたことで、改めて真偽について説明を尽くす責務が生じたのは言うまでもあるまい。
事件の頻発を受け、04年には国会議員秘書給与法が改正され、議員経由で支払われていた秘書給与が本人に直接支給されるようになったほか、議員が秘書に寄付を求める行為が禁じられた。
第2秘書に支給された給与がどんな形であれ、広瀬氏側に渡っていたとすれば、法改正の趣旨を逸脱しているばかりか、社会人としてもあるまじき公私混同に他ならない。
秘書給与を巡る疑惑に先立ち、広瀬氏は2月の週刊新潮で外国人男性との不倫も報じられ、「しっかり仕事をする姿を見せることで、少しでも信頼を取り戻せるよう誠心誠意努める」と述べていた。
地元の有権者は、きっと裏切られた思いでいるに違いない。地元への説明に誠意を尽くした上で、自ら進退を判断するべきだろう。
秘書給与 詐取疑い 自民離党でお茶濁すな(2024年8月2日『沖縄タイムス』-「社説」)
「政治とカネ」の問題が終わらない。
異常事態である。自民を巡る「政治とカネ」の不祥事は、底なしの様相だ。
広瀬氏は2022年に初当選。同年12月から23年8月まで公設第2秘書として届けていた女性に国から給与として支給された数百万円の大半を詐取した疑いが持たれている。
事務所関係者は地検の事情聴取に対し、第2秘書には勤務実態がなかったと供述している。
公設秘書は特別職の国家公務員だ。その職を利用した給与の詐取は、税金の流用であり、国民の信頼に背く悪質な犯罪だ。
疑惑は今年3月に週刊誌が報じて発覚した。広瀬氏はホームページで「記事の内容は事実無根」などと反論していた。
家宅捜索を受けた後、「後でしっかり説明する」と約束したが、その後、取材には応じていない。説明責任を果たさず、逃げ切ろうとするのが自民党のやり方なのか。
秘書給与を詐取していたのであれば、議員辞職に価する。
■ ■
1990年代末から2000年代前半にかけて、与野党を問わず国会議員による秘書給与の詐取事件が頻発し議員が何人も逮捕された。詐取総額が2千万円を超すケースも複数あった。
04年に法律は改正され、秘書給与は全額、本人へ直接支給されることになった。悪用された「公設秘書の寄付」は、勧誘や要求をする行為も禁じられた。
広瀬氏が、秘書の給与を詐取していたとすれば、法改正の趣旨を踏みにじる行為である。
にもかかわらず、不祥事が続いている。もはや、党としての統治能力や自浄能力を失っているのではないか。
堀井、広瀬の両氏も自民を離党した。しかし、自民党には両氏を擁立した責任がある。離党届は受理せず、本人から事実関係を聴取し処分を下すことが、責任ある対応だ。
■ ■
「政治とカネ」に関して、緊張感が生まれないのは、ある意味では当然である。
自民党の政治資金への甘い対応が、今日の異常な状況を招いている。
公設第2秘書について勤務実態があるように装い、国から支給される秘書給与数百万円をだまし取った疑いがもたれている。第2秘書には第1秘書の妻を登録し、令和4年末~5年夏まで、毎月数十万円が国から支給されていたという。
広瀬氏が違法行為であると認識して、詐取行為に及んでいたのであれば言語道断だ。国民に対する背信行為で、自ら進退を判断すべきではないか。
疑惑は今年3月に週刊新潮が報じて発覚した。このとき広瀬氏はホームページで「勤務実態があったことに間違いありません」と反論していた。本当にそうなのか。国民の負託を受けた政治家として、説明を尽くす責務がある。
離党したとはいえ、自民の責任も問われよう。週刊新潮に指摘されてからこれまでの間、党として何をしてきたのか。事態を放置していた責任は重い。執行部は広瀬氏に説明責任を果たすよう強く促すべきだ。
秘書給与の不正受給を巡る事件は平成10~15年頃にかけて相次いだ。15年7月には、当時社民党衆院議員だった辻元清美参院議員(現立憲民主党)が政策秘書2人分の給与約1880万円をだまし取ったとして、議員辞職後に逮捕され、翌年2月の判決で有罪となった。
事件の頻発を受け、国会議員秘書給与法が16年に改正された。議員経由で支払われていた秘書給与は、秘書本人に直接支給されるようになった。同時に国会議員が秘書に寄付を要求する行為も禁じた。
第2秘書は広瀬氏側に給与を上納していた可能性がある。もしそうなら法改正の趣旨を逸脱している。
「政治とカネ」を巡っては、派閥パーティー収入不記載事件に続き、堀井学衆院議員(比例北海道、自民を離党)が、選挙区内の有権者が関係する複数の葬儀で、秘書らを通じて堀井氏名義の香典を渡していたとして、公職選挙法違反容疑で関係先の家宅捜索を受けた。
政治不信は増幅するばかりである。自民は候補者選考の在り方についても見直さなければならない。
違法な寄付行為 政治家の常識ではないか(2024年8月1日『西日本新聞』-「社説」)
違法性を認識して続けていたなら政治家失格である。国民への説明責任を果たした上で辞職すべきだ。
裏金を香典の原資に充てた疑いもある。捜査で全容を明らかにしてほしい。
堀井氏の秘書らが配った香典の総額は少なくとも数十万円に上るとみられ、故人の枕元に飾る花も贈った。
3年前の公選法違反事件を思い起こしたい。自民党の菅原一秀元経済産業相が香典など約80万円相当を配ったとして略式起訴され、罰金40万円と公民権停止3年の略式命令を受けた。堀井氏がこれを知らないはずはない。
堀井氏は特捜部の任意の事情聴取に対し、違法と知りながら秘書らに指示したことを認めているという。
事務所内で違法性を指摘する声が上がったにもかかわらず、堀井氏主導で提供を続けたとみられる。故意に違法行為を働いていたとすれば悪質極まりない。
違法な寄付は慣例として継続していた可能性がある。これも「カネをかける政治」のあしき一面だ。
堀井、広瀬両氏は家宅捜索直後に離党したが、自民党の責任は免れない。「政治とカネ」の問題が絶えないのは、党の統治力が欠如しているからではないか。再発防止のかけ声が空虚に響く。
堀井氏が裏金を香典に充てた疑いは、裏金に関する党の実態調査の甘さを露呈したと言える。党を率いる岸田文雄首相は「政治活動以外への使用、違法な使途は把握されていない」と国会などで繰り返し述べていた。
寄付行為の禁止は政治家の常識のはずだが、これまでもたびたび問題となった。ちょうど政治家が選挙区回りに精を出すお盆の時期を迎える。仏前の供え物、線香代の提供も寄付行為に当たることを有権者に知ってほしい。
国会議員に限らず、首長や地方議員もそうだ。政治家が違法な寄付をしてはならないのはもちろん、有権者が政治家に寄付を要求することも禁止されている。何度でも確認しておきたい。
広瀬氏詐欺容疑 根深い自民の腐敗体質(2024年7月31日『東京新聞』-「社説」)
裏金事件では1月、自民党の衆参両院議員3人が政治資金規正法違反の罪で起訴され、東京都江東区長選を巡る買収事件では元衆院議員の有罪が確定。今月、香典を違法に配った疑いで衆院議員の事務所などが家宅捜索された。
広瀬氏の詐欺容疑も、自民党の腐敗体質の一端が表面化したとみるべきであり、一議員の問題と片付けることはできない。
広瀬氏は2022~23年ごろ、公設第1秘書の妻を公設第2秘書として届け出て、勤務実態がないにもかかわらず、給与として国から計数百万円をだまし取った詐欺の疑いが持たれている。事実なら直ちに議員辞職するよう求める。
勤務実態があったと主張するとしても、給与の不正受給を疑われること自体、不注意が過ぎる。
裏金事件に限らず、自民党内で不祥事が相次いでいるのは、「自民1強」の政治状況が続き、法を犯しても政権転落の心配はないという驕(おご)りや慢心が、党内にまん延しているからではないか。
岸田文雄首相の総裁任期満了に伴う9月の自民党総裁選は、党の腐敗体質を改め、カネをかけない政治を実現するために議論を深める好機のはずだが、現状は誰が総裁に就けば、次期衆院選での敗北を最小限にとどめられるのか、という議論に終始している。
自民党の自浄能力や刷新には、もはや期待できない。次の国政選挙では、政治腐敗は許さないという民意を投票行動で示したい。