京都国際の優勝に韓国中が歓喜、「韓国語の校歌」に大騒ぎしない日本の野球ファンに対し驚嘆の声も(2024年8月25日『JBpress』)

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関東第一を破って優勝を決め、飛び上がって喜ぶ京都国際ナイン(写真:共同通信社
■ 韓国中が感動
 韓国系民族学校をルーツにもつ京都国際高校が夏の甲子園大会を制覇した。このニュースに韓国中が沸いた。
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京都国際高の優勝を伝える韓国のテレビニュース
 まず京都国際が優勝を決めた瞬間、韓国のほとんどのメディアが速報を流し、ネット上にはゲームセット後に甲子園球場に韓国語の校歌が流れるシーンの動画がすぐアップされ、「涙が出る」といったコメントが次々と書き込まれた。
 政界も反応した。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領や趙泰烈(チョ・テヨル)外交部長官をはじめとして、与野党を問わず、大勢の政治家が祝賀メッセージを出した。
 それだけではない。京都国際の優勝が決まった直後、尹錫悦大統領室は「京都国際高校(夏の甲子園優勝)参考資料」という4枚の報道資料を記者団に配布したほどだ。
 同資料には、京都国際の過去の甲子園での試合結果とともに、京都国際と野球部の現状についての詳しい説明が載っている。また韓国政府(教育部)による支援状況や京都国際野球部出身の日韓プロ選手を紹介するほど手の込んだ資料になっている。
 特に京都国際の歴史について触れた部分では、「廃校の危機もあったが、韓国政府、在日韓国人と一部の先覚者的な日本人の助けで現在まで運営されており、未来の韓日両国間の教育交流・協力の基盤になりうる事例」と強調している。
 ともすれば野党とその支持者から「親日政権」との猛批判を受けている大統領室にとって、「韓国系」の歴史を持つ京都国際による甲子園大会優勝は、日韓友好の象徴としてアピールする、願ってもない好機となっているようだ。
■ 「野球フリーク」尹大統領直々の激励メッセージ
 とりわけ普段から野球マニアとして有名な尹大統領は、2日連続でSNSに京都国際に向けた応援メッセージを残した。
 22日、京都国際の決勝進出が確定したときは、「ユニホームがすり減るほど渾身の力を尽くしてプレーしてきた選手の皆さんの闘志と情熱に大きな拍手を送る。精一杯応援する」と激励のメッセージを送り、1983年に一橋大学客員教授だった父親に連れられて甲子園で野球観戦した経験も付け加えた。
 優勝が決まった23日午後には「奇跡のような快挙」とし、「野球を通じて韓日両国がもっと親しくなってほしい」というメッセージを残した。
 「東海を渡りし 大和の地は 偉大な祖先 古の夢の場所……
 韓国語の校歌が甲子園の決勝戦の球場に勢いよく響き渡りました。京都国際高校の甲子園優勝をおめでとうございます。劣悪な環境で成し遂げた奇跡のような快挙は、在日韓国人に誇りと勇気を与えてくれました。野球を通じて韓日両国がもっと仲良くなれたらと思います。やっぱり野球は偉大ですね。多くの感動を生み出しますから」
■ 駐日大使も決勝戦は甲子園入り
 有力政治家からの祝賀メッセージも殺到している。趙泰烈外交部長官と朴喆熙(パク・チョルヒ)駐日韓国大使も祝賀メッセージの中で日韓友好を強調した。
 「2021年の4強進出に続き、2024年に優勝という大きな成果を収めたことを非常に誇りに思う。(中略)京都国際高校は韓日両国間の和合の象徴であり、友情の架け橋として両国国民から大きな愛を受けてきた」(趙泰烈長官)
 「韓日協力と協業を象徴する京都国際学園は今回の全国高校野球選手権大会での優勝で、韓日両国の国民に胸の奥に残る輝かしい感動を贈った」(朴喆熙大使)
 国民の力の尹相現(ユン・サンヒョン)議員は祝賀メッセージの中で、つい先日の光復節の韓国野球場で起きたあの“事件”に触れた。
 「選手たちが『東海』で始まる韓国語の校歌を歌ったが、これが日本社会で非難されたり政争の素材になったりしなかった。今年の光復節に“日本人投手と日章旗とはどういうことか”というファンの非難に、日本人投手の白川恵翔の登板が取り消された韓国プロ野球の姿がオーバーラップする」
 (参考記事)韓国プロ野球に吹き荒れた反日感情、「光復節に日本人を先発させるな」で期限付き移籍中の白川恵翔投手がとばっちり(JBpress 2024年8月16日)
 一方、民主党など野党政界では、韓国語の校歌が甲子園球場に響き渡った点を強調した祝賀メッセージを発表した。
 「甲子園決勝にまた響き渡った韓国語の校歌は、在日同胞と韓国国民の心を熱くした。京都国際高校の生徒たちが作り出した奇跡の歴史は、在日韓国人にとって大きな力と勇気になるだろう」(民主党報道官)
 「京都国際高校の甲子園野球大会優勝! 日本全土に韓国語の校歌が響き渡った。涙でお祝い申し上げる」(朴智元元国情院長)
 「日本の甲子園で韓国語の校歌が鳴り響いた。胸いっぱいの感動の瞬間だ」(金ドンヨン京畿道知事)
■ ネット上の祝福コメントに紛れ込む「親日」と「反日」の感情
 京都国際の優勝を伝えるメディアの記事には、ネット民からのコメントが溢れたが、メディアの日頃の論調によってコメントが少しずつ違っていた。
 例えば、保守系の「朝鮮日報」の関連記事で「いいね」の順に並べられたコメントの上位には、次のような内容が目につく。
 「京都国際高校の優勝を通じて韓国と日本の未来世代がより一層親密になり、両国関係がより発展する契機になることを願う」
 「光復節にファンに扇動され、白川選手の先発登板を1日遅らせて日の丸を下ろした野球協会、斗山ベアーズ、李承燁(イ・スンヨプ)監督を強く糾弾する。政治とスポーツは別物だ」
 「日本のプライドとも言える甲子園球場で韓国語の校歌が鳴り響いたが、落ち着いて選手たちを励ます日本の成熟した文化に敬意を表する」
 「民主党はこのようなニュースを嫌う。(彼らは)ひたすら被害者コスプレで反日感情を助長する燃え草を望むだけだ」
 これに対し、進歩系の「ハンギョレ」の上位コメントは次の通りだ。
 「感動です。ソンニョルが踏みつぶした国格と国民のプライドをしっかりと立ててくれて」
 「よくやった。君たちが韓国大統領という親日派の奴より誇らしいよ」
 「すばらしい。韓国人の闘魂を日本中に知らしめた快挙だった」
 「尹錫悦とその一味はこの記事を嫌うだろう」
 どうやらこうしたオールドメディアの読者には、京都国際の偉業と「親日」「反日」とを結びつけたがる人々が多いようだ。
■ 「反日」に引きずられない若者世代
 これに対して、韓国の若年層が多く利用するコミュニティサイトには、京都国際の最後の試合の動画が数多く掲載されている。そしてそこには、親日反日を離れて甲子園そのものを楽しんでいるようなコメントが目につく。
 「最後まで少年漫画のようだね」
 「延長までしたから青春映画にしてもいいと思う」
 「H2の名場面を見ているようだ。あだち充の新作が出るかも」
 「このロマンって何だよ!」
 「人生の忘れられない花火のような学生時代を過ごす彼らが羨ましい」
 日本の高校球児たちの最高の舞台である甲子園球場が、例年以上の夏の暑さに茹だっている韓国国民に一服の清涼剤となるニュースを届けてくれた。尹大統領の言葉のように、やはり野球は偉大だ。
李 正宣