遺族年金の見直し 社会変化に即した対応だ(2024年8月21日『毎日新聞』-「社説」)

キャプチャ
遺族厚生年金見直しの議論に臨む有識者厚生労働省の担当者ら=東京都千代田区で7月30日、宇多川はるか撮影
 社会の変化に合わせて、公的年金制度を不断に見直すことが求められる。
 60歳未満で配偶者を亡くした人を対象とする遺族厚生年金で、受給要件の男女差が解消されることになった。
 現行制度では、子どものいない女性の場合、夫の死亡時に30歳以上なら終身で、30歳未満の人は5年間、給付される。一方、子どもがいない男性は、妻の死亡時に55歳以上でなければ支給対象にならない。
 厚生労働省は、男女とも5年間の期限付き給付とする案を公表した。来年の通常国会に提出予定の年金制度の改正法案に盛り込む。20年かけて段階的に移行する。現在の受給者は影響を受けない。
 遺族年金は「家計を支える夫を亡くした妻の所得保障」という性格が強い。「サラリーマンの夫と専業主婦の妻」という世帯を前提にしているため、女性に手厚い制度になっている。
 だが、その前提は大きく変わっている。女性の就労が進み、共働き世帯が多数派になった。若い世代では、出産後も働き続ける人が増えている。
 賃金水準に男女格差はあるものの、フルタイム勤務であれば40歳未満の女性の賃金は、男性の8~9割程度まで増えている。40歳以上の世代でも今後、格差縮小が進むとみられる。
 一方、女性の就労を巡っては、立場が不安定な非正規雇用が多いなどの問題が残っている。
 年金制度の見直しに当たっては、賃金や待遇に関する男女格差の是正を同時に進めることが欠かせない。
 専業主婦を前提にした仕組みはほかにもある。
 サラリーマンらの配偶者が保険料を納めずに基礎年金を受給できる第3号被保険者制度である。専業主婦の年金を確保する目的で、1986年に導入された。
 しかし、共働き世帯との公平性を確保する観点から、見直しを求める意見は多い。
 年金は加入から受給まで40年以上かかるため、変化する社会の姿との間でズレが生じやすい。ゆがみを放置せず、時代に合った制度にする工夫を講じていかなければならない。