被災者の命と健康を守るため、対策を再点検する必要がある。
とりわけ高齢者は環境の変化によって体調を崩しやすく、リスクが高い。能登地域は高齢化が進んでおり、年齢が公表された関連死の約8割を80代以上が占める。
被災直後の避難所などの劣悪な環境や、仮設住宅に入居してからの孤立などが要因となることが分かっている。
政府のワーキンググループが先月まとめた報告書は、避難所における生活環境の改善が欠かせないと指摘した。開設時からの簡易ベッドの設置や温かい食事の提供、仮設トイレの確保などの取り組みを求めている。
1995年の阪神大震災以降、災害が起きるたびに関連死をどう防ぐかが課題となってきた。今なお状況が改善していない現実を深刻に受け止めなければならない。
9月には記録的豪雨に見舞われ、再び甚大な被害を受けた。地震から立ち直ろうとしていたところへ新たな打撃を受ける形となった。避難生活も長引いている。
被災地は本格的な冬を迎えた。寒さも高齢者にとって負担になる。これ以上、関連死を増やさぬよう、国や自治体は、これまでの教訓を踏まえて支援体制を見直さなければならない。
新聞には特定の業界の報道を主な領域とする…(2024年12月14日『毎日新聞』-「余録」)
新聞には特定の業界の報道を主な領域とする、多くの専門紙がある。仏教や神道など宗教界の情報を中心に扱う「中外日報」(本社・京都市)は、1897(明治30)年創刊。宗派に偏らない方針の下、週2回発行している
▲同紙12月6日付社説は、能登半島地震の被災地状況がテーマだった。「目立つ復興復旧の遅れ」と題した記事は「遅い、酷い」と書き出し、被災住宅の公費解体遅れや仮設住宅の不備、追い打ちをかけた豪雨被害などを指摘。「(被災者は)人間扱いされていない」と被災地支援にあたる宗教関係者が憤る声を引用しつつ、窮状を訴えた
▲現地では寺院や神社など多くの施設が被災しながら、住民や信者の支援などの課題に向き合う。同紙に聞いたところ、担当記者が現地の宗教関係者の声を踏まえて執筆したという
▲あと半月余で、地震発生から1年を迎える。状況は日々変化しているとはいえ、多くの地域はなお「復興」以前の復旧作業に追われる。国会で先日、本格的な冬の到来を前に自衛隊の出動による土砂撤去を促す質問があった。石破茂首相は「地元から要請はない」と答弁したが、現状分析について、自らもっと語るべきだった
▲これから臨時国会の終盤と来年度予算案の編成期に入る。被災した人たちが少しでも前を向いて新しい年を迎えられるようにするため、何をすべきか。耳を澄ませる時だ。
目立つ復興復旧の遅れ 能登半島地震被災地の窮状((2024年12月6日『中外日報』ー「社説」)
遅い、酷い。能登半島地震の復興、復旧への公的対応はそれに尽きる――。地元や県外から入って被災者を支え続ける宗教者らから、そんな訴えが聞こえる。
11月中旬、石川県輪島市内中心部では倒壊したビルの公費解体が始まり、大火に遭った朝市通りは焼けた残骸が撤去されて広大な更地になっていた。両者はメディアに何度も紹介された被災の目立つシンボル。しかし、「復旧遅れの典型と見られないために急いだのでは」との皮肉の声もある。それでさえ発災から10カ月もたってから、ましてや一般の多くの住宅の公費解体は未着手だ。
市街地でも、そこここで全壊した家屋が道路に崩れ落ちたままになり、以前の暮らしの痕跡の家具などが散乱した所もある。主要道路さえそこら中がでこぼこで、インフラや商店なども戻らないので生活が立ち行かない。海岸隆起した漁港は改修が進まず出漁のめどが立たない。全壊した教会はようやく撤去に入った状態だった。
被災者の最低限の生活を支える仮設住宅もまだ十分ではない。背景には、山の多い半島で適地が少なく、万博などで機材が高騰、人手不足という事情があるが、それにしてもだ。しかも狭くて入り切れない大世帯は家族がバラバラにならざるを得ないが、離れた金沢市などにアパートを借りるにも、「みなし仮設」補助は1世帯1軒なので家賃が大きな負担になる。
そこへ9月の豪雨水害が追い打ちをかけた。多くの犠牲者が出たのはもちろん、地震で何とか倒壊を免れたり半壊で修理した家が流された、あるいは自宅再建の間、倉庫に避難させていた全家財が水没したなどの被害が頻発。二重被災に「心が折れる、なんて生易しいもんじゃない」「死んだ方がましだ」との悲痛な叫びが聞かれた。
半年も待ってようやく入居できた仮設住宅が床上浸水した例も多い。清掃、乾燥の応急措置にも日数がかかるため、その間は再び離れた学校などの避難所に移るが、収容人数に限りがあり何日も順番待ちになる。家具も水浸しで、ぬれたままのカーペットの上で生活している被災者の悲惨な様子に、「人間扱いされていない」と憤る支援の宗教者の声は震えていた。
地元で支援団体を立ち上げた真宗僧侶が言う。奥能登2市2町の面積は東京23区の倍近いが、人口は域外避難などで計5万2千人まで減り、東京ドームの収容人数5万5千人にも満たない。「だからと言って過疎の地方を見放すのか!」と。公的なしっかりした対応を、心ある宗教者も声高に訴える必要があるだろう。
震災を生き延びた多くの人が避難生活中に体調悪化などで命を落とす現状を変えなくてはならない。1月の能登半島地震の課題を検証してきた政府の作業部会は26日、災害関連死を防ぐ支援策の強化を柱とする報告書をまとめた。
能登半島地震の災害関連死は家屋倒壊などによる直接の死者・行方不明者を上回り、230人を超えた。これを踏まえ報告書は、関連死を防ぐため避難所などの生活環境を抜本的に改善するよう行政側に求めた。
具体的には簡易ベッドや空調設備、温かい食事を提供するキッチンカー、トイレトレーラー、入浴設備を整備すべきだとした。特に避難所の雑魚寝は心身への負担が大きく、解決すべき課題である。
避難所の環境改善は被災者の命だけでなく、尊厳を守るためにも欠かせない。政府は必要な予算措置を講じたうえで自治体や民間と連携し、早急に改善に取り組むべきだ。
自宅で避難生活を送る人や、車中泊を余儀なくされた人に物資が渡されなかったケースがあることも考慮し、報告書は避難所以外の場所も含め、全ての被災者に十分な支援が行き届く体制が必要だと指摘した。
能登半島地震の災害関連死は過去の災害と比べ高齢者が多い。年齢が公表されている人の内訳は80代以上が全体の8割超を占める。高齢化が進む地方のリスクを浮き彫りにした。
関連死で亡くなった人の死因はまだ一部しか分かっていない。詳しく分析すれば、どのような支援が必要だったのかが分かるのではないか。
家屋倒壊や津波、火災、交通網の寸断、集落の孤立など多様な被害が生じた。報告書は住宅の耐震化、道路などインフラの強化、備蓄や物資輸送などの課題も指摘した。山がちな半島という特殊な地理条件で起きた震災だったが、必要な対策は全国各地の地方都市と共通するものが多い。
震災を生き延びた多くの人が避難生活中に体調悪化などで命を落とす現状を変えなくてはならない。1月の能登半島地震の課題を検証してきた政府の作業部会は26日、災害関連死を防ぐ支援策の強化を柱とする報告書をまとめた。
能登半島地震の災害関連死は家屋倒壊などによる直接の死者・行方不明者を上回り、230人を超えた。これを踏まえ報告書は、関連死を防ぐため避難所などの生活環境を抜本的に改善するよう行政側に求めた。
具体的には簡易ベッドや空調設備、温かい食事を提供するキッチンカー、トイレトレーラー、入浴設備を整備すべきだとした。特に避難所の雑魚寝は心身への負担が大きく、解決すべき課題である。
避難所の環境改善は被災者の命だけでなく、尊厳を守るためにも欠かせない。政府は必要な予算措置を講じたうえで自治体や民間と連携し、早急に改善に取り組むべきだ。
自宅で避難生活を送る人や、車中泊を余儀なくされた人に物資が渡されなかったケースがあることも考慮し、報告書は避難所以外の場所も含め、全ての被災者に十分な支援が行き届く体制が必要だと指摘した。
能登半島地震の災害関連死は過去の災害と比べ高齢者が多い。年齢が公表されている人の内訳は80代以上が全体の8割超を占める。高齢化が進む地方のリスクを浮き彫りにした。
関連死で亡くなった人の死因はまだ一部しか分かっていない。詳しく分析すれば、どのような支援が必要だったのかが分かるのではないか。
家屋倒壊や津波、火災、交通網の寸断、集落の孤立など多様な被害が生じた。報告書は住宅の耐震化、道路などインフラの強化、備蓄や物資輸送などの課題も指摘した。山がちな半島という特殊な地理条件で起きた震災だったが、必要な対策は全国各地の地方都市と共通するものが多い。