世帯の将来推計 単身高齢者支える土台を(2024年4月16日『信濃毎日新聞』-「社説」)


 人口減と少子化が進む中、1人暮らしの高齢者が増えることは、予測されていた。

 国立社会保障・人口問題研究所がまとめた世帯数の将来推計ではそのペースが加速している。単身高齢者も安心して暮らせるよう、社会の土台を築き直さなくてはならない。年金や介護などの制度改革が急務である。

 推計によると2033年には世帯の平均人数が2人を割り込む。

 50年には全世帯の半数近くが1人暮らしになる。65歳以上の高齢単身世帯が全体の20%に達する。

 単身高齢者の増加は男性に顕著だ。20~50年の間、高齢男性の独居率は16%から26%に上昇する。未婚者の割合は男性が34%から60%に、女性は12%から30%に上がる。頼れる近親者がいない人も急増することが予想される。

 人口規模の大きい団塊ジュニア世代が高齢期を迎えるのが要因の一つだ。結婚を選択しない人が増えた世代で、多様な生き方が広がっていることも一因にある。

 一方で見過ごせないのは、この世代が1990年代半ばからおよそ10年間の「就職氷河期」に重なっている点だ。経済低迷のあおりで正規雇用がかなわず、収入が伸びず結婚や出産に踏み切れないまま年を重ねた人も少なくない。

 雇用政策の失敗が個人の人生に影を落としている。政府は重く受け止めなくてはならない。

 非正規雇用は将来の年金受給額も低くなり貧困に陥るリスクが高い。雇用の安定と、公的年金の底上げなどが欠かせない。

 もう一つの課題は、女性の低年金だ。その前段として中高年の単身女性の貧困問題がある。

 民間団体が22年、40歳以上の単身女性を対象に調査したところ、3人に1人は年収が200万円に満たなかった。40~50代が大半の働く1984人のうち、正規雇用は半数以下だった。

 会社員らが加入する厚生年金の平均月額は、女性は男性の3分の2にとどまる。現役時代の男女の賃金格差が反映された格好だ。

 女性の多くは非正規雇用で、育児や介護で離職する率も高い。社会保険に残る性別役割分業の仕組みが、こうした働き方を下支えしてきた。配偶者に扶養されている間は保険料を払わず、老後に年金が受け取れる国民年金の「第3号被保険者」もその一つだ。

 政府は25年に年金改革を予定している。ジェンダー格差の是正を先送りしてはならない。1人で暮らしていても生計が成り立つ社会保障を整えるべきだ。