「酷暑甲子園」の不安…それならドーム開催はどう? 高校野球の聖地に代わるアイデアを聞いてみた(2024年8月1日『東京新聞』)

 7日に始まる全国高校野球選手権大会。会場の甲子園球場は1日で開場100年を迎える。しかし、近年は酷暑の中の試合が続き、「ドーム会場論」もたびたび浮上。実現可能性はあるのか。会場を変えれば解決する問題なのか。大会を前に考えた。(宮畑譲)
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水分補給や体を冷やすため、5回終了時に設けられた「クーリングタイム」=昨年8月、甲子園球場
 
 「高校野球は早くドーム球場開催に」「全国持ち回りでドーム球場でやればいい」。ネット上では、こんな声が散見される。現にここ数年、甲子園では「激しい運動や不要不急の外出は避ける」よう呼びかけられる「危険な暑さ」の日でも、試合が行われてきた。
◆10分の「冷却時間」、午前と夕方2部制導入も…
 暑さ対策として、日本高野連は昨年、五回終了後に10分間の「クーリングタイム」を設けた。今大会からは、一部の日程で試合を午前と夕方に分ける「2部制」を導入。準決勝、決勝の試合開始時刻も繰り上げる。試合前日に「熱中症特別警戒アラート」が発令された場合、翌日の試合を中止すべきか協議する。
◆ナイターでプロ選手も熱中症
 それでも、今やプロ野球選手がナイトゲーム熱中症になるケースも。いっそのこと「甲子園をドーム化しては」という意見もある。ただ、甲子園の周囲は住宅地。近隣に移設するのは歴史的経緯からも現実的ではない。同じ場所でドーム化するにも、工期や敷地の狭さの問題があり、簡単ではない。
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大阪市の京セラドーム大阪
 
 他のドーム球場での開催も、使用料の問題が発生するとみられ、難しそうだ。
 高校野球に詳しいスポーツライターの中島大輔氏は「選手に聞くと、みんな『甲子園でやりたい』と言う。高校野球の『聖地』であり象徴。甲子園でやらせてあげたいという気持ちはある」と話す。一方で、「地方大会でも、熱中症で途中交代する選手が続出している。日本の夏はもはやスポーツをやる気候ではなくなっている。選手の健康を考えれば、ドームのほうがよい」と、「ドーム開催」を肯定する。
◆北海道でリーグ戦開催案
 開場1世紀を迎えた甲子園には、高校野球の数々の歴史が刻まれてきた。ただ、優勝旗を手にするのは毎年1チームのみ。他の多くの球児は地方大会で負けた時点で事実上、部活動を終える。
 そんな状況を変えようと、今年8月、夏の甲子園に届かなかった高校3年生を対象に、北海道でリーグ戦を行う「リーガ・サマーキャンプ」が開かれる。一般社団法人「ジャパン・ベースボール・イノベーション」大阪府)が主催。最終日には、プロ野球日本ハムファイターズが本拠地とするエスコンフィールド北海道で試合を行う。
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北海道北広島市エスコンフィールド
 
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 中島氏は「甲子園の素晴らしさ、そこへのこだわりも理解できるが、今後もっと暑くなった時にどうするのか。他の場所でやってみたらすてきな大会だった、となる可能性はあるのでは」と期待する。
 開催地の問題もあるが、会期を変更しては、という意見もある。
 中学生の硬式野球チームの監督を務めたことがあるスポーツライターの小林信也氏は「今や9、10月が日本の野球シーズン。高校野球はあまりにも夏にピークが集中し過ぎている。秋にかけてリーグ戦を行うことがあってもよいはずだ」と指摘する。
◆「夏で終了」問われる部活のあり方
 小林氏も、夏に終わる高校野球の「トーナメント方式」に疑義を唱える一人だ。「サッカーなど他のスポーツでは冬に最後の大会を行う部活もあるのに、大半の野球部員は夏休み前に部活が終わる。それが高校生のためになるのか。卒業近くまでスポーツと勉強をバランス良く取り組むことが高校生活の理想のはずだ」
 議論百出の「ドーム会場論」。高校生の部活のあり方を考える論点も含んでいると言えそうだ。

高校野球の聖地で阪神が本拠地とする甲子園球場。整備の職人と…(2024年8月1日『東京新聞』-「筆洗」)
 
 高校野球の聖地で阪神が本拠地とする甲子園球場。整備の職人として名高かった故・藤本治一郎(じいちろう)さんは風向きや雲の様子から天気を予測した。雲が北東の京都方面へ流れる「京参り」が見られたら下り坂で、海からの浜風が吹く日は好天-。地元で半農半漁で暮らした父に教わったという
▼球場の職員が気象台に予報を問い合わせたら「おたくの藤本さん、どない言うてますか」と逆に聞かれたことも。雨が近い時は散水を控え、風が吹くと察すれば事前に土を湿らせた
▼黒土と天然芝を誇る甲子園球場は今日で開場100年。空の下で躍動した選手たちが歴史を紡いだが、近年は暑さに悩む
全国高校野球選手権大会は今年、一部日程が朝、夕の2部制になる。大会期間中、甲子園を明け渡す阪神の長期遠征は選手が消耗する「死のロード」と言われたが、今や死語と聞く。相部屋で寝た昔と違い宿舎は快適。酷暑の本拠地を離れ、東京や名古屋などの涼しいドームで試合ができ助かるという
▼かつてはドームへの建て替え論もあったという甲子園。今の姿を永くとどめられるかは、温暖化に対する人類の努力次第とも思える
▼藤本さんは「土の身になれ」と先輩に言われたという。野ざらしの土は生き物。刻々と変わるその乾湿や空を見て、何をすべきか考えよとの教えである。この球場に不可欠なのは、自然への畏敬なのだろう。