日米両政府は「核の傘」を含む米国の戦力で日本への攻撃を思いとどまらせる「拡大抑止」を強化することで合意した。
中国が核戦力を増強し北朝鮮が核開発を加速させるなど、東アジアでの核の脅威の高まりに対応するとしている。
今回の会合は従来の協議を閣僚級に格上げしたものだ。拡大抑止を巡って日米両政府は、2010年から実務者レベルの協議を定期的に開催してきた。
首相は核廃絶に取り組むと主張しているが、これでは口先だけだと言うほかない。
核戦力を増強する場合、懸念されるのが核搭載の原子力潜水艦を日本に寄港させることだ。
拡大抑止をどう展開するのか、具体的な説明が不可欠だ。
抑止論は、相互に不信感を抱いている限り、際限なく軍拡が進む恐れがある。
破滅の危機を回避するには、対話を通じて相互の信頼感を醸成していくほかあるまい。
本年度末に陸海空3自衛隊で立ち上げる「統合作戦司令部」のカウンターパートとなる。
政府は主体的な判断で活動できると主張する。それなら根拠を示さなければ説得力はない。
共同文書では在沖縄米兵の性的暴行事件に直接言及せず、事件防止のための在日米軍の取り組みを前向きに評価した。
沖縄県議会は抗議決議で、米軍の人権意識に問題があると指摘している。両政府とも沖縄の怒りを全く理解していない。
日米の指揮連携で実効性の高い抑止力を(2024年7月30日『日本経済新聞』-「社説」)
台湾海峡や朝鮮半島有事にいかに備えるか。日米両政府が28日に開いた外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)は米国が核戦力を含めた日米同盟の体制強化に踏みこみ、日本も共に対処していく姿勢を鮮明にした。地域の安全保障に寄与すると評価できる。
2プラス2の共同文書は、米国が在日米軍を再編し「統合軍司令部」を新設すると表明した。同司令部には米軍を束ねる作戦指揮権ももたせる見通しだ。自衛隊が今年度末に設ける「統合作戦司令部」との調整役として日米の指揮統制の連携を深める狙いがある。
日米同盟は米韓同盟と異なり、有事でも自衛隊と米軍がそれぞれ独立した指揮系統で行動する。在日米軍部隊の指揮権は、距離や時差があり作戦領域も広範なハワイの米インド太平洋軍司令部が握るため、有事での情報共有や部隊協力を不安視する向きがあった。
台湾有事ではサイバーや宇宙など領域を横断する作戦も求められる可能性がある。共同文書は重要インフラ施設をサイバー攻撃から守る作戦での協力も盛った。
政府は「反撃能力」の保有に続き、「能動的サイバー防御」の導入にも動いている。敵の攻撃を防いだり、敵の拠点をたたいたりするうえで予兆段階から米国との連携が欠かせない。
米国の核兵器や通常兵器で日本への攻撃を思いとどまらせる拡大抑止の強化も打ちだした。外務・防衛当局の実務者が参加していた拡大抑止の協議について、日本側の求めで閣僚会合を初めて開いたのは米国が日本を守る強い意志を内外に示したのだろう。
日本側には安保環境の悪化への危機感がある。急速に増強する中国の核戦力に米国の安全が脅かされれば将来、台湾や日本への関与を弱めかねないとの懸念だ。拡大抑止の協議を格上げしたのは妥当で、協議を重ねて実効性の高い抑止力を築く必要がある。
28日は日米韓の防衛相会談も開き、3カ国の安保協力を定例にする覚書に署名した。11月の米大統領選がどんな結果になろうと揺さぶられない制度化を進める。
日米間の指揮統制の連携を「軍事一体化」と懸念する声もあり、政府は国民に丁寧に説明すべきだ。日米協議でも米国に対して受け身ではなく、主体的に働きかける姿勢が重要だ。日米協調による抑止力の強化が外交力につながるとの言葉も実践してほしい。
日米2プラス2 核抑止強化の具体策示せ(2024年7月30日『産経新聞』-「主張」)
日米安全保障協議委員会(2プラス2)の冒頭で撮影に応じる(左から)米国のオースティン国防長官、ブリンケン国務長官、上川陽子外相、木原稔防衛相=28日午後3時13分、東京都港区の飯倉公館(岩崎叶汰撮影)
日米両政府が都内で外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)と、米国の核戦力などで日本を防衛する「拡大抑止」に関する初の閣僚会合を開いた。
これらの会合は、4月の日米首脳会談で、同盟が地域の安保情勢の重要な変化に対応できるようにすると合意したことを受けて開かれた。同盟の抑止力、対処力を向上させ台湾有事などの戦争を防ごうというもので評価できる。
2プラス2は、基地の管理機能を専ら担ってきた在日米軍司令部を、作戦指揮権を持つ「統合軍司令部」へ再編成する方針を確認した。共同文書は中国外交について「他者を犠牲にし、自らの利益のために国際秩序をつくり変えようとしている」と厳しく指摘した。
拡大抑止の閣僚会合は、中国の核戦力強化などが地域の安保環境を悪化させているという認識で一致し、拡大抑止強化を探求することで合意した。
拡大抑止の中心は核抑止である。自衛隊が非核の通常戦力を増やしても、核抑止が担保されていなければ役割を十分に果たすことは難しい。
ただし、核抑止をどのように強化していくかという具体論を示さなかったのは残念だ。
中国は核戦力を急速に増強している。北朝鮮は核の運搬手段であるミサイル戦力の強化に走っている。ウクライナを侵略するロシアはしばしば核恫喝(どうかつ)をしている。日本に脅威を及ぼす専制諸国家の核戦力が増強されているのに、日米は会議を開いているだけ、では心もとない。
日本が再び核攻撃されないことが何より重要だ。それは核廃絶を叫ぶだけでは実現しない。日米が合意したエスカレーション管理に加え、日本や近隣地域へ米国の核戦力を配置する必要はないのか。非核三原則見直しの議論も求められる。
在日米軍の「統合軍司令部」新設は、日本が今年度末に陸海空自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を置くことに対応するものだ。日本は独立国であり、自衛隊と米軍は独立した指揮系統で運用しつつ、連携を図ることが重要である。
日米閣僚会合 核抑止依存強める矛盾(2024年7月30日『東京新聞』-「社説」)
閣僚会合は28日、外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)の直後に開いた。日米の閣僚が拡大抑止を協議する形にしたのは核戦力を増強する中国、北朝鮮、ロシアをけん制するためにほかならない。
拡大抑止を巡る協議は2010年、当時のオバマ米大統領が「核なき世界」を掲げたことを受け、米国の核抑止力の低下を危惧した日本側が持ちかけ、実務者間で始まった。近年は首脳会談でも、米側が核戦力を含む拡大抑止に言及するようになった。
しかし、中朝ロに核戦力強化を思いとどまらせるどころか、増強を招いているのが実態だ。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計では今年1月時点で中国が保有する核弾頭は500発、北朝鮮は50発に増えた。ウクライナに侵攻しているロシアは5千発以上を有し、核使用の脅しを繰り返す。
核軍縮を主導すべき日本政府は核拡散防止条約(NPT)再検討会議で成果を出せず、核兵器禁止条約にも背を向ける。今回の閣僚会合で、日本の核抑止力頼みが鮮明になったことで、中朝ロもさらに核戦力を強化する「安全保障のジレンマ」に陥り、地域情勢はさらに不安定化しかねない。
広島・長崎への原爆投下から79年。米国の核抑止力に依存する日本の安全保障は、唯一の戦争被爆国としての道を外れていないか。厳しく問われなければならない。
日米の両政府はおととい、米国が核兵器を含む戦力で日本の防衛に関与する「拡大抑止」について初の閣僚会議を開き、同盟の抑止力を強化することで一致した。合意文書も交わした。
唯一の戦争被爆国として「核兵器のない世界」を主張しながら、米国の「核の傘」で守られていることを殊更にアピールするのが今回の合意だ。日本政府の立場の矛盾が改めてあらわになった。日本が堅持してきた非核三原則が揺らぐ懸念もある。長年の核軍縮や不拡散の取り組みにも反するのではないか。
拡大抑止は同盟国への攻撃に対し、通常兵器にとどまらず核兵器も用いて報復する意思を示し、敵国をけん制する狙いとされる。今回、日米が事務レベルで続けてきた協議を閣僚レベルに引き上げた背景には北朝鮮の核開発や中国の核戦力増強、ロシアと北朝鮮の軍事協力で安全保障環境が悪化していることがある。
しかし、核抑止力は幻想というほかない。核兵器が存在する限り、さまざまなリスクが伴う。自国の安全を高めようとする行動は、他国にも同じような措置を促す。相互不信と軍拡を助長した結果、衝突につながる緊張は高まりかねない。
昨年5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で岸田文雄首相が主導してまとめた核軍縮文書「広島ビジョン」は、「核なき世界」を目指すとしながら、抑止力という核兵器の役割を肯定した。日米の拡大抑止はその流れの延長線上にある。
スイス・ジュネーブで2026年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた第2回準備委員会が開かれている。国連の中満泉事務次長は「核兵器は威圧の手段として使われ続けている。抑止力よりも対話を優先することが重要だ」と訴えた。強く共感する。
日本と共に米国の核の傘に頼る韓国では、北朝鮮に対応するため自前で核武装を図る議論がある。米国第一主義を掲げ、他国を含めた今の防衛体制に疑問を投げかけるトランプ氏が大統領に返り咲く可能性もある。安保の枠組みは見通しにくくなっている。
だからこそ困難であっても日本がまず取り組むべきは、核兵器の果たす役割を強めることではなく、減らす国際的な合意形成だ。被爆者と、核兵器禁止条約の下に集う国々をこれ以上、失望させてはならない。首相は、「核なき世界」の実現を追求し続ける責任を忘れてはいないか。
日米2プラス2 沖縄犠牲の軍事一体化だ(2024年7月30日『琉球新報』-「社説」)
昨年1月以来となる日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)が東京で開かれた。相次ぐ米兵性的暴行事件についても協議したが、日米双方が「遺憾だ」と述べるにとどまった。日本側が抗議し、米側が謝罪する機会だったはずだ。被害者の尊厳と沖縄の怒りに向き合わない両政府に失望せざるを得ない。
共同文書には「事件・事故に関する適時の情報の共有のために継続的に2国間で調整していくことの重要性を強調した」「容認することのできない事件や行為を防ぐために、在日米軍によって実施される取り組みを前向きに評価した」と記されたが、新たに踏み込んだ対策は打ち出さなかった。両政府とも、米兵犯罪から県民を守るための真剣な議論をしなかったと疑わざるを得ない。
米バイデン政権にとって最後となる2プラス2は、あらゆる面で日米の軍事一体化をさらに深化させるものとなった。共同発表を見ると、沖縄の基地機能強化や演習強化による負担や県民の懸念の増大については全く議論していないことが分かる。
「軽減」の文字は1カ所だけだった。「抑止力を維持し、地元への影響を軽減するため、沖縄における代替施設の建設および土地返還を含む、沖縄統合計画およびその他の既存の2国間取り決めに従った在日米軍再編の着実な実施への確固たるコミットメントを改めて表明した」の部分だ。続けて、大浦湾埋め立てを普天間飛行場返還の「唯一の解決策」と強調した。
有機フッ素化合物(PFAS)、ポリ塩化ビフェニール(PCB)問題に初めて言及し「2国間環境協力の強化について議論した」とした。これまで米側は日米地位協定を盾に立ち入り調査を受け入れておらず、共同発表は「日米地位協定および関連する取り決め」にのっとることを前提としている。日本側は立ち入り調査を求めなかったのか。
「南西諸島における同盟活動の強化」として「この重要な地域における同盟の抑止力および対処力を強化する」とした。「2国間演習、即応性および運用の強化」では「空港・港湾、その他運用基盤への柔軟なアクセス」が改めて強調された。「情報・監視・偵察協力の深化」として、嘉手納基地への無人機MQ9配備の重要性にも触れた。
2018年から毎年、県内の大学生、高校生を東京や米国に派遣している「アメリカで沖縄の未来を考える」(TOFU)事業を「同盟のための人的投資」と位置付けた。
今回の2プラス2は、中国への敵意をさらにあからさまにし、「核の傘」強化も打ち出した。沖縄は、日米同盟の「抑止力と対処力」の最前線とされ、県民の負担は増し、戦場にされる危険は強まるばかりだ。「抑止力と対処力」ではなく「対話と相互理解」の外交に転換すべきである。
米国の拡大抑止 同盟の信頼感がカギを握る(2024年7月29日『読売新聞』-「社説」)
有事に備え、日米両政府は具体的な手順を定めねばならない。
日米の外務・防衛担当閣僚が、拡大抑止に関する初会合を東京都内で開き、同盟の抑止態勢を強化することで合意した。
拡大抑止について、日米は2010年から実務者レベルで定期的に協議しており、日米安全保障条約の下、米国が通常・核戦力で日本の防衛義務を果たすことを繰り返し確認してきた。
閣僚レベルで抑止力の強化を確認したのは、日本周辺の安保環境が極端に悪化しているためだ。
日米で緊密に協議し、現実の脅威を踏まえた実効性の高い協力体制を構築することが欠かせない。日米同盟の強固な結束を内外に示し、抑止力を高めたい。
その場合、米軍が日本周辺で核兵器を運用するにあたって「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則との整合性が問われる。特に核搭載の原子力潜水艦の日本への寄港と「持ち込ませず」の関係が問題となる。
日本が核を持っていないからといって、その運用に無縁ではいられない。政府は危機への対応を主体的に考えるべきだ。
また、米国は有事の際、本当に日本のために核を使用するのか、という点からの議論もある。
日本が安保条約に基づき、米軍に基地を提供していることで、米国がインド太平洋地域で影響力を行使しているのは事実だ。拡大抑止の信頼性を高めるためにも、日本は在日米軍の活動を支えていく必要がある。
4閣僚はまた、安保政策全般の協議で、弾道ミサイルを迎撃するための地対空誘導弾の日本での生産体制を強化し、米国に輸出することで一致した。ウクライナへの軍事支援で弾薬などが不足している米国を支える狙いがある。
こうした取り組みも、同盟を深化させることにつながろう。