小泉龍司法相(左)に選択的夫婦別姓制度の早期導入を求める提言を手渡した経団連の魚谷雅彦ダイバーシティ推進委員長(中央)と長谷川知子常務理事=東京都千代田区の法務省で2024年6月28日午後3時54分、町野幸撮影
慎重な考えもあるが、その中でも「国が議論を進めるべきだ」との意見がある。婚姻に伴う女性の改姓が仕事上の支障になるだけでなく、アイデンティティーの喪失など心の痛みとなっている人もいる。国は国民の声に耳を傾けて不利益の解消を急ぐ必要がある。
女性の社会進出を受けて、1996年には法制審議会が選択的別姓の制度導入を答申し、政府は民法改正案を準備したが提出を見送った。それから約30年が経過したが、議論は動いていない。
最高裁大法廷は21年にも民法の規定は合憲との判断を示したが、この際は裁判官15人中4人が「違憲」と判断した。最高裁は「裁判での憲法違反の審査とは次元が異なる」と判示した。立法府での議論を促したのである。
それにもかかわらず、国会では議論は進展していない。立法府の怠慢であり、これ以上の見送りは許されない。
別姓を巡る22年の訴訟で、最高裁第3小法廷では現行規定について裁判官から「姓を変更するか法律婚を断念するかの二者択一を迫るもので、婚姻の自由を制約するのは明らか」との指摘が上がっている。改姓が結婚の障壁となっている実情に照らして、少子化に歯止めをかける上で夫婦別姓についての議論は避けられない。国会での論点整理で司法からの指摘も踏まえてもらいたい。
確認しておきたいのは1996年の政府による民法改正案の国会提出は、自民党内の保守派の反対で見送られたという経緯だ。それ以降の政権は「さまざまな意見がある」として動き出すことはなかった。議論を進めるに当たっては、今回の調査結果のように理解が進んでいる現状をしっかりと直視すべきだ。
住民生活に最も近く、市民らの声に接する基礎自治体の市区町村長らの多くが容認の姿勢である。別姓が強制ではなく、文字通り選択制であることなどを理由に挙げている。こうした制度の仕組みについても幅広くより周知を図ることが肝要だ。
法制審議会は28年前に導入を求める答申を出した。法務省で法案が準備されたにもかかわらず、国会での審議に至っていない。
家族の一体感が損なわれるとして保守派が強く反対し、自民党内の議論が進まないためだ。
確かに、社会生活で旧姓を通称として使える場面は増えた。運転免許証やパスポートなど公的書類にも併記できるようになった。
しかし、公的な手続きには戸籍上の姓が不可欠である。書類を書き換え、姓を使い分ける負担は重い。通称使用の拡大では、問題は解決しない。
特に海外ビジネスで支障が生じている。通称の使用はほとんど認められない。夫婦同姓を義務づけるのは日本だけとされ、外国では理解されない。
不利益を被っているのは主に女性だ。夫婦の95%が夫の姓を選ぶ現状がある。差別的な制度だとして、国連の機関から繰り返し、是正を勧告されている。
何より問題なのは、結婚によって改姓を余儀なくされ、自分が自分でなくなるとの喪失感を抱く人がいることだ。
氏名は、その人が社会で識別されるためのものであるとともに、人格の象徴だ。個人の尊厳に関わる問題である。
選択的夫婦別姓制度は、慣れ親しんだ姓で生きたい人の願いをかなえる一方、夫婦同姓を望む人たちの権利を損なうものではない。
誰もが個人として尊重される社会を実現しなければならない。党首選の論戦で問われているのは、政治家の人権意識だ。
慎重な考えもあるが、その中でも「国が議論を進めるべきだ」との意見がある。婚姻に伴う女性の改姓が仕事上の支障になるだけでなく、アイデンティティーの喪失など心の痛みとなっている人もいる。国は国民の声に耳を傾けて不利益の解消を急ぐ必要がある。
女性の社会進出を受けて、1996年には法制審議会が選択的別姓の制度導入を答申し、政府は民法改正案を準備したが提出を見送った。それから約30年が経過したが、議論は動いていない。
最高裁大法廷は21年にも民法の規定は合憲との判断を示したが、この際は裁判官15人中4人が「違憲」と判断した。最高裁は「裁判での憲法違反の審査とは次元が異なる」と判示した。立法府での議論を促したのである。
それにもかかわらず、国会では議論は進展していない。立法府の怠慢であり、これ以上の見送りは許されない。
別姓を巡る22年の訴訟で、最高裁第3小法廷では現行規定について裁判官から「姓を変更するか法律婚を断念するかの二者択一を迫るもので、婚姻の自由を制約するのは明らか」との指摘が上がっている。改姓が結婚の障壁となっている実情に照らして、少子化に歯止めをかける上で夫婦別姓についての議論は避けられない。国会での論点整理で司法からの指摘も踏まえてもらいたい。
確認しておきたいのは1996年の政府による民法改正案の国会提出は、自民党内の保守派の反対で見送られたという経緯だ。それ以降の政権は「さまざまな意見がある」として動き出すことはなかった。議論を進めるに当たっては、今回の調査結果のように理解が進んでいる現状をしっかりと直視すべきだ。
住民生活に最も近く、市民らの声に接する基礎自治体の市区町村長らの多くが容認の姿勢である。別姓が強制ではなく、文字通り選択制であることなどを理由に挙げている。こうした制度の仕組みについても幅広くより周知を図ることが肝要だ。
夫婦が望めばそれぞれが結婚前の姓を使える「選択的夫婦別姓」について、自民党総裁選で一部候補が導入を主張し、争点に浮上している。今年に入り経済界が国に早期導入を提言する動きがあったほか、首長の間でも導入を求める声が多くを占めている。
慣れ親しんだ姓を変えなければ結婚できないことへの精神的苦痛や、仕事・生活上の支障などを感じている人たちがいる。改姓するのはほとんどが妻だ。不利益の訴えをこれ以上置き去りにしないよう、停滞している国会議論を前に進める時だ。
保守的な政策を重視する候補は、子どもへの影響などを理由に慎重な姿勢。賛成の立場ながら、意見集約を優先させるべきだとする候補もいる。立憲民主党代表選の4候補はいずれも早期導入を目指す考えを表明している。
法相の諮問機関・法制審議会は1996年に導入を含む民法改正を答申したが、自民保守派の反対で棚上げにされてきた経緯がある。総裁選の争点になったのは、導入を求める世論に耳を貸さないわけにはいかないとの考えが自民の中にも広がってきたということかもしれない。
国会での質問はこれまでもあった。ただ岸田文雄首相が「意見が割れている」と述べるにとどめるなど、議論が深まってきたとは言い難い。導入の早期実現を図ろうと経団連は6月、法相に提言書を提出した。法改正案を出して国会で議論するよう政府に求める内容だ。
結婚前の姓で培ったキャリアが断絶しないようにといった理由で、仕事上は旧姓を名乗る通称使用が広がっている。経団連会員の女性役員への調査では、通称使用でも不便や不都合が生じるとの回答が88%に上った。契約や海外渡航時のトラブルもあるという。対策としては限界があるとする主張は重要だ。
共同通信が7、8月に全国の首長に実施したアンケートでは、選択的夫婦別姓を「認めるべきだと思う」は「どちらかといえば」を含めて78%。自治体トップの大半が前向きな姿勢を示す結果となった。不便を感じる人を救済する必要があるとの声があったほか、姓の変更が結婚をためらわせる要因になっていると指摘する声もあった。
夫婦同姓を義務付けている国は日本だけだ。他国の状況にも照らしながら、家族の絆や子どもの姓をどうするのかといった懸念に対し、政府は速やかに回答を示していく必要がある。
2021年最高裁決定は、現行制度を合憲としつつ「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」とした。不利益の解消に向けて、法改正の議論を急がなければならない。
結婚の自由と人権 多様な家族認める制度に(2024年9月2日『毎日新聞』-「社説」)
愛する相手との結婚が法的に認められず、尊厳を傷つけられている人たちがいる。差別的な扱いだと感じているカップルも多い。
住まいを借りる時、不動産業者に「部屋を貸さない大家もいるので友達同士のルームシェアということにしてほしい」と言われた。マンションを購入する際も、夫婦ではないため、借り入れに有利なペアローンを利用できなかった。
家族の理解を得るのに長い時間を要し、社会の偏見にも直面してきた。今後も多くの困難が待ち受けているのではないかと不安だ。
昔から同性カップルは存在していたにもかかわらず、社会で「いないもの」と見なされてきた。
不利益受けるカップル
カップルの関係を自治体が証明するパートナーシップ制度は広がっているが、税や社会保障、親権、相続などの法的な手続きには効力がない。パートナーが病気になっても、入院手続きや手術の同意に関われないケースもある。
「制度が整っていないから、当事者たちが困っている」と、中谷さんは同性婚の実現を目指し、国を相手に提訴した。札幌高裁は今年3月、現行制度は「婚姻の自由」を定めた憲法24条1項などに違反しているとの判決を出した。
長野県の高校教諭、内山由香里さん(56)は、慣れ親しんできた姓で生きるため、同僚だった小池幸夫さん(66)と事実婚の状態にある。夫と3人の子の親子関係を確定させる目的で、結婚と離婚を3回繰り返した。
法律上の結婚をしていた際、職場では通称として「内山」姓を使えたが、運転免許証などの公的な書類は「小池」姓に改めざるを得ない。自分の名前が削り取られるような喪失感を覚えた。
4年前、結婚した長女が泣きながら電話をかけてきた。姓を変える手続きが「名前の葬式を出しているみたい」と語った。娘の世代にも自分と同じような思いをさせていることに心苦しさを感じた。
夫婦の95%が夫の姓を選んでいる現状がある。改姓による不利益を女性ばかりが受けることは理不尽だと思う。
個人の尊厳を守る必要
性的指向は多様であり、自分の意思で変えられるものではない。氏名は個人が社会で識別されるためのもので、人格の象徴だ。
いずれもアイデンティティーに関わるが、現行制度は尊重する仕組みになっていない。人格が損なわれ、自身の存在を否定されたとの思いを抱く人がいる。人権上の問題であり、法的に保護されるべきだ。
にもかかわらず、政府や国会の動きは鈍い。
結婚とは、男女が生活共同体をつくり、子を産み育てることだと一般的に捉えられてきた。戦後に家制度は廃止されたものの、家族の呼称を統一する夫婦同姓制度は維持された。
結婚に関わる制度が改正されれば、当事者たちの希望はかなう。一方で、他の人々の権利を損なうものではない。誰もが個人として尊重され、大切な人と結婚できる社会を実現しなければならない。
希望すれば結婚前の姓を使い続けることができる「選択的夫婦別姓制度」の導入に、岸田文雄首相が慎重な姿勢を貫いている。経済界からも要望が強まる中、ブレーキをかけ続ける自民党のかたくなな姿勢は理解に苦しむ。
経団連は6月、早期実現を求める提言を政府に提出した。
女性が結婚して改姓することによるキャリアの途絶を避けるため、旧姓の通称使用が広がってきた。だが、海外渡航や銀行口座開設時にトラブルが起きやすく、「企業にとってもリスクとなり得る」と危機感を示した。
それでも政府の対応は鈍い。
首相はかつて別姓制度の実現を目指す党議員連盟の呼びかけ人に名を連ねていた。最近は国会答弁で「家族の一体感や子どもの利益にも関わる問題であり、国民の理解が重要だ」と繰り返している。
夫婦同姓を法律で義務づけている国は日本だけだ。海外で、別姓が原因となって家族の一体感が損なわれたとの報告はない。首相の説明は説得力に欠ける。
子どもが両親のどちらの姓を名乗るかについては、婚姻や、出生の際に定めるという案がまとめられている。すでに議論の土台は整っている。
選択的夫婦別姓制度の導入を望む人は28・9%と、17年の前回調査の42・5%から急落した。現在の夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用の法整備を求める人は42・2%で最も多かった。ただ、前回調査から設問の表現や順番を変えており、その影響が指摘されている。
夫婦の約95%は女性が改姓している。ビジネスや生活上の不利益にとどまらない人権の問題である。個人が尊重され、男女が平等に扱われなければならない。多様な選択肢が認められるべきだ。
自民党は、党内の議論を再開させることにしたが、これ以上の先送りは許されない。一刻も早く導入を決断するよう首相に求める。
希望すれば夫婦それぞれが、生まれ持った姓を戸籍上の姓として名乗り続けられる。経団連がこうした新たな制度の早期実現を求める提言をした。多様性を尊重するという時代の要請にもあった、うなずける内容だ。国は先送りをやめて選択的夫婦別姓の導入に向けた議論を急ぐべきだ。
提言は婚姻時にいずれかの姓を選ぶ今の制度が「女性活躍を阻害する」と訴えた。多くの企業が通称使用を認めているが、通称と戸籍上の姓の使い分けは企業にも本人にも負担となる。
法律上の姓ではないため使えない場面があり、海外でトラブルになるケースもある。「企業にとっても、ビジネス上のリスクとなり得る」との指摘はもっともだ。
この問題は長年の宿題である。法制審議会は1996年、選択的夫婦別姓を導入する具体案を答申した。法務省は改正法案も準備したが、自民党内から「家族の一体感が失われる」などの意見が出て、国会に提出されていない。
国際的にみても、夫婦同姓を義務付ける日本は先進国のなかで特異だ。同姓だった国も、別姓を選べる法制化を進めてきた。
どちらの姓にするかは夫婦の自由とはいえ、95%は妻が改姓している。最高裁は2015年と21年に現行制度は「合憲」との判断を示したが、どのような制度がよいかは「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」とした。「違憲」とする反対意見もあった。しかし、国会での議論は進んでいない。
夫婦別姓はあくまで選択肢の一つであり、すべての夫婦に強制するものではない。選べない現状によりアイデンティティーの喪失や困難を抱える人がいる以上、見直しは必要だ。どのような法制度が可能か幅広く検討すべきだ。
幸せのかたちは一つではない。家族の絆も、姓によってのみ築かれるものではないだろう。私たちが目指すのは、多様な選択を尊重できる社会だ。国は経済界からのボールを重く受けとめ、今こそ動いてほしい。