東京地検特捜部の検事による違法な取り調べで精神的苦痛を受けたとして、特捜部に逮捕・起訴された男性社長が24日、国に1100万円の賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。男性側は、自白を得ようとした検事から「なめたらあかんわ」などと繰り返され、人格権を侵害されたとしており、代理人弁護士は「拷問に該当する」としている。
訴えたのは、太陽光発電関連会社「テクノシステム」(東京都)社長の生田尚之被告(50)。金融機関から融資金をだまし取ったとして2021年5月に特捜部に逮捕され、詐欺罪と会社法違反で起訴された。公判は始まっておらず、現在も勾留されている。
訴状によると、生田被告は逮捕直後から容疑を一貫して否認。特捜部検事から41日間連続で計205時間の取り調べを受けた。
生田被告は黙秘したが、検事は「普通の刑事事件でも99%有罪や。今回この事件なんて、ま、100やわ」「ここで黙秘をするのはどMや」と発言。弁護人は検察側に苦情を申し入れたが、検事は「なめたらあかんわ、こちらを」「検察庁を敵視するってことは、反社(反社会的勢力)や、完全に」と脅すような言動を続けたという。
さらに検事は「大したもんや。悪党ぶりが」「子どもでも、そんなことせんぞ。たちの悪いやくざの組長ぐらいやで」と侮辱的な言動を繰り返したほか、「自分がここにいる理由がないのにと思うのか。理由があるやろが、おらあ」と大声で怒鳴りつけたこともあったとしている。
逮捕後の取り調べは全過程が録音・録画されていた。初公判に向け、争点を絞り込む公判前整理手続きで、こうした映像が生田被告側に開示された。生田被告側は国賠訴訟で映像を証拠請求する方針。
代理人の河津博史弁護士は、捜査段階で計7回の苦情を検察側に申し入れたにもかかわらず改善されなかったと明かし、「検事個人だけでなく、組織の緊張感の低下が背景にある。不当な取り調べを組織として把握した場合は、(検事に)制裁が科される仕組みが必要だ」と指摘した。
検察の独自捜査を巡っては、横浜地検の検事が容疑者に「ガキ」などと繰り返し、東京地裁は18日、取り調べの違法性が争われた国賠訴訟で「社会通念の範囲を超えていた」として国に110万円を支払うよう命じている。【菅野蘭】
“違法な取り調べで精神的苦痛” 逮捕・起訴の被告が国を提訴(2024年7月24日『NHKニュース』)
3年前、東京地検特捜部に詐欺などの罪で逮捕・起訴された被告が、取り調べで黙秘したところ担当検事に「検察庁を敵視するということは反社だ」などと言われ、違法な取り調べによって精神的苦痛を受けたとして、国に賠償を求める訴えを起こしました。
24日、東京地方裁判所に訴えを起こしたのは、金融機関からおよそ22億円をだまし取った罪などで3年前に東京地検特捜部に逮捕・起訴され、今も勾留されている、横浜市の太陽光発電関連会社「テクノシステム」の社長、生田尚之 被告(50)です。
訴状などによりますと、この事件は逮捕後の取り調べの「全面可視化」の対象事件となり、41日間に行われた合わせて205時間の取り調べがすべて録音・録画されました。
初公判に向けた争点整理手続きで開示された映像には、取り調べを担当した検事が、逮捕直後から一貫して黙秘している社長に対し、黙秘してもいいが損になるとしたうえで、「検察庁を敵視するってことは、反社や、完全に」とか、「捜査機関がなめられたと思ったら、どうするか考えたら分かるはずや」などと脅すような言動がたびたび記録されていたということです。
こうした言動は、弁護士が繰り返し苦情を申し出たあとも続き、「子どもでも、そんなことせんぞ。たちの悪いやくざの組長ぐらいやで」などと、黙秘を続ける社長を侮辱するような発言もあったということで、社長は、情報や自白を得るための違法な取り調べによって精神的苦痛を受けたなどとして、国に1100万円の賠償を求めています。
提訴後に記者会見した河津博史 弁護士は「検察官がこのような不適切な発言をするのかと録音・録画を見て非常に驚いた。何度も苦情を申し立てたにもかかわらず改善されることはなく、組織の問題として捉えられるべきだ」と話していて、取り調べの映像を証拠採用し法廷で再生するよう求めていくとしています。
東京地方検察庁の新河隆志 次席検事は「訴状の内容については承知しておらず、コメントは差し控えたい」としています。
担当検事の発言内容
弁護士によりますと、検察による取り調べの録音・録画には、担当検事が黙秘権を行使すると不利益になると脅したり侮辱したりするような言動や、社長を大声でどなりつける様子が繰り返し記録されていたといいます。
▽令和3年6月2日
このうち、最初の逮捕の6日後、令和3年6月2日の取り調べでは、「黙秘したらええやん、損やけどな、黙秘」などと述べたうえで、「弁解しようないはずやで。何がしたい。SMでいうとMになるで」とか、「悲惨なことになるで、法廷では。みんなちゃうこと言うと思うで。かわいそうやわ」と話し、さらに、「ここで黙秘をするのはどMや」と発言したということです。
▽6月3日
翌日の6月3日、弁護士が東京地検に苦情を申し出ましたが、担当検事はこの日の取り調べで、「敵視するなら、うちも敵視するで」とか、「なめたらあかんわ、こちらを。全部暴くよ」などと述べ、さらに、「検察庁を敵視するってことは、反社や、完全に」とか、「検察庁の冷たさを、あなたが味わうことになるわ」などと発言したということです。
また、この日の別の時間帯の取り調べでは、「もう自主申告せなあかんレベルまで達してるで。なめ切っとんねんから、こっちを。捜査機関がなめられたと思ったら、どうするか考えたら分かるはずや」と述べたということです。
▽6月4日
これを受けて、弁護士が再び苦情を申し出ましたが、担当検事は、4日の取り調べでも、「人格を疑われるで、このままやと」とか、「ええかげんにせえよ。子どもでも、そんなことせんぞ。たちの悪いやくざの組長ぐらいやで。やくざの組長でも、半分ぐらいは、ちゃんと自分の指示やって認めるわ」などと述べたということです。
▽6月5日
この次の日も苦情を申し出ましたが、担当検事はその後の取り調べで、「しゃべった方が軽くなるとか、重くなるとかは言わん。それを言うと違法ぎみになるからな。ぎみとは言うけど。でも、普通に考えてくれ」などと述べたということで、弁護士は、最高検察庁の監察指導部に指揮監督などを求めました。
▽6月19日
担当検事のこうした言動はその後も続き、詐欺と特別背任の疑いで再逮捕された3日後の6月19日の取り調べでは、「ぜーんぶめくれていくで。立件し放題やで、このぐらいやったら。全部が全部立件するあほでもないけども。うちの裁量や、こんなもんな」と述べたということです。
▽7月5日
さらに、勾留期限が翌日に迫った7月5日の取り調べでは、「幼稚園児じゃないんやから、な。何ていうんかな。坊やじゃないんやから」などと述べたうえで、「黙秘を人のせいにするな」などと大声でどなりつける様子が記録されていたということです。
検察の取り調べめぐる裁判 “違法”判決も
検察の取り調べをめぐる裁判はほかにも起こされています。
7月18日には横浜地検の検事が黙秘を続ける容疑者に「ガキだよね」などという発言を繰り返したのは黙秘権の保障の趣旨に反する違法な取り調べだとして、東京地方裁判所が国に110万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。
この裁判では取り調べを録音・録画した映像の一部が法廷で再生され、原告側の弁護士によりますと、民事裁判の法廷で取り調べの映像が再生されたのはこの裁判が初めてでした。
また、大阪地検特捜部が捜査した横領事件で無罪が確定した不動産会社「プレサンスコーポレーション」の元社長は、当時の特捜部の検事が元部下を脅すなど違法な取り調べをしたとして国に賠償を求めた訴えを起こしています。
こちらでも取り調べの録音・録画の映像がことし6月に再生され、大阪地方裁判所で審理が続いています。