8年前、自宅で妻を殺害したとして殺人の罪に問われ、無罪を主張していた講談社の元編集次長に対するやり直しの審理で、東京高等裁判所は「妻が自殺したとする無罪主張は信用性に欠ける」として懲役11年の判決を言い渡しました。

講談社の人気漫画雑誌の編集次長を務めていた朴鐘顕被告(48)は8年前、東京の自宅で妻(当時38)の首を圧迫して殺害したとして殺人の罪に問われ、「妻は首をつって自殺した」と無罪を主張していました。

1審と2審は懲役11年を言い渡しましたが、最高裁判所は「審理が十分に尽くされたとはいえない」としてやり直しを命じ、再び高裁で審理されていました。

18日の判決で東京高等裁判所の家令和典裁判長は、現場の状況などから「元編集次長が寝室のマットレスの上で首を圧迫して殺害したという1審の判決に不合理な点はない」と指摘しました。

元編集次長は、包丁を持った妻をマットレスで抑えつけ、その後別の部屋にいたらドアの外で物音がして、妻が自殺していたと主張していましたが、裁判長は「意識を失った妻がその後物音を立てるほど動き回り、自殺したというのはあまりにも唐突で不自然だ。被告の主張は信用性に欠ける」として退け、懲役11年を言い渡しました。

元編集次長は法廷で、「間違っています。必ず訂正させる」などと発言していました。

元編集次長の母「残酷な判決」

判決のあと、朴元編集次長の家族や弁護士が都内で記者会見を開きました。

元編集次長の母は「息子は妻と仲がよく、子どもたちも大事にしていた。子どもたちはきょう、パパが家に戻ってくると信じていたが、判決の内容をどのように伝えたらいいのか分からない。あまりにも残酷な判決だ」と話しました。

山本衛弁護士は「元編集次長の供述が信用できないという点が強調され、それが有罪認定の中心になっていると疑わざるを得ない。非常に不当で憤りを感じる」と話し、上告する方針を明らかにしました。

刑事裁判の専門家「確実な事実から判断」

刑事裁判の経験が長い元裁判官の半田靖史弁護士は「『分からないことは分からない』という考え方を前提に、医学的にも根拠のある確実な事実から弁護側の自殺のストーリーがありえないと判断した。検察の立証が強かったので、弁護側の自殺の主張が相当現実的なものでないと、覆すのが難しかった」と指摘しています。