ホストクラブの女性客が高額な料金を請求されて借金を背負わされるケースが相次いでいる問題を受けて、警察庁は恋愛感情につけ込んで高額な飲食をさせる、いわゆる「色恋営業(いろこいえいぎょう)」を禁止する方針を固めました。来年の通常国会に新たな規制や罰則強化を盛り込んだ風俗営業法の改正案を提出することにしています。
ホストクラブをめぐっては、女性客が高額な料金を請求されて借金を背負わされ、その返済のために売春などを強要されるケースが相次いでいて、全国の警察に寄せられたホストクラブに関する相談は、ことし、10月末までに2300件余りに上っています。
具体的には「売り上げトップになれなかったら、もう会えなくなる」などと、恋愛感情につけ込んで客を依存させ、高額な飲食をさせるいわゆる「色恋営業」を禁止し、違反した場合は営業停止などの行政処分の対象とする方針です。
さらに、これまでの罰則を見直し、罰金の最高額200万円を大幅に引き上げたり、店が営業許可の取り消し処分を受けた場合、系列店など、密接に関係する店も営業を認めないようにしたりすることが検討されています。
規制が必要と指摘された項目
▽料金について虚偽の説明をする行為
▽「今月の営業成績が一番になれなかったらもう会えない」とか「付き合いを続けたければ、シャンパンを入れてほしい」などと、恋愛感情につけ込んで客を依存させ、高額な飲食をさせる行為
また、▽未払いの飲食代「売掛金」を取り立てる際に、「支払わなければ実家に行く」などと脅す行為や
▽客を困惑させたり、怖がらせたりして、売春や性風俗店で働くことを求める行為
また、摘発されたホストクラブが看板を掛け替えて新たな店舗で営業できないよう、違反した場合の罰則や風俗営業の許可基準についても、強化することが検討されています。
現在の風俗営業法では、ホストクラブが営業許可の取り消し処分を受けた場合、5年間は営業を認められませんが、行政処分が出る前の一定期間に、自主的に許可証を返納した場合はこの規定に当てはまらず、新たに別の店の営業許可を申請することができます。
このため
▽こうした「処分逃れ」をしようとした場合には新規出店を認めないほか
▽店が営業許可の取り消し処分を受けた場合には系列店など、密接に関係する店も営業を認めないようにすることが検討されています。
多額の「売掛金」抱え 売春繰り返した女性は
ホストクラブに通って多額の「売掛金」を抱え、返済のために売春を繰り返したという20代の女性が取材に応じました。
女性は4年前からホストクラブに通うようになり、多いときには、週に5日から6日店を訪れたといいます。
ホストクラブに通う理由については、「ホストクラブは客を嫌な気持ちにさせないということが第一になっていて、自分のことを否定されずに仕事を忘れさせてくれるので楽しい」と話しました。
1日で580万円を使ったこともあるといい、「担当ホストにさすがに支払うのは無理だと言ったが、『これからもずっと一緒にいるつもりだし、何年かかってもいいから返してほしい。焦っていないから酒を注文してほしい』と言われその後も通った」と明かしました。
女性は、多額の「売掛金」を抱え、その支払いのために売春を繰り返し、多いときには1日に10人以上を相手にしたということです。
担当のホストは、売春のことを「仕事」と呼んでいたといい、「『仕事は何時からなの?』などと聞かれるのが嫌だった」と振り返りました。
女性は「担当のホストは好きだけど、人としての情のほうが大きく、離れにくい関係になる。ホストとけんかして嫌だと思うことはたくさんあったが、その店に行かなくなったら別のホストを探すことを繰り返している」と話していました。
いわゆる「色恋営業」を禁止する方針が示されたことについては、「ホスト側が色恋をかけなくても、好きになってしまう女の子はたくさんいると思う。勝手に好きになって勝手にお金を使っているという認識になるし、ホスト側も自分は色恋営業はしていないとなってしまうのではないかと思う」と話していました。
女性の支援団体「大きな一歩」
ホストクラブに通う女性の相談などに応じているNPO「ぱっぷす」の金尻カズナ理事長は、警察庁が法律を改正して罰則を強化する方針を固めたことについて、「これまで野放しでやりたい放題だったが、罰則が設けられることは大きな一歩だと思う。性を売らざるを得ない状況を作り出しているスキーム自体が問題だということにフォーカスできた」と話していました。
また、「色恋営業」を禁止する方針が示された点については、「ホストクラブでは、恋愛感情があることをさまざまな形でにおわせる。どのように立証していくかは本当に難しいと思うので、どのように証拠を積み上げていくのかが今後の課題になっていくのではないか」と話していました。
ホストクラブ側の受け止めは
悪質ホストクラブへの罰則強化について、東京の160余りのホストクラブの店舗が参加して営業の健全化を目指す団体「日本ホストクラブ健全化推進協議会」の北条雄一理事長に受け止めを聞きました。
恋愛感情につけ込んで高額の飲食をさせる行為を禁止する方針となったことについて、北条理事長は「『ナンバーワンになりたいから俺のために頑張ってくれよ』という営業はあったと思うが、それはスナックなどホストクラブ以外の店でもあると認識している。“色恋営業”かどうか線引きはすごく難しい。対応していくしかないが、その線引きはあらかじめ知っておきたい」と話していました。
また「売掛金」を取り立てるために、女性客に売春をさせたり、性風俗店で働かせたりすることも禁止する方針となったことについては、「この規制はなくてはならないものだと思う。現在も講習会は開いているが、そういう行為をやってはいけないとわかっていないホストが増えてきている。店舗や協議会で教育していくしか方法はなく、何度も何度も教え込まないといけない」と述べ、風俗営業法が改正された場合も、講習を行うなどして周知を図っていく考えを示しました。
警察庁長官「卑劣なビジネスモデルの解体目指したい」
警察庁の有識者検討会が最終報告書をまとめたことについて、警察庁の露木康浩長官は「新たな法規制の導入と並行してトクリュウ対策の一環として徹底的な取締りを行うことで、卑劣なビジネスモデルを解体し、実質的な責任者やグループの排除を目指したい」と述べ、来年の通常国会に向け、速やかに法案を準備していく考えを示しました。