小池氏都知事3選に関する社説・コラム(2024年7月8日) 

小池氏が都知事3選 おごらず課題の再点検を(2024年7月8日『毎日新聞』-「社説」)
 
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東京都知事選の告示日、出発式で支援者らと写真を撮る小池百合子氏(中央)=東京都新宿区で2024年6月20日午前10時42分、玉城達郎撮影
 一極集中が進む首都のかじ取りに、引き続き当たることになった。過去最多の56人が立候補した東京都知事選で、小池百合子氏(71)が3選を果たした。
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再開発計画に反対の声も出ている明治神宮外苑地区。シンボルのイチョウ並木は保全されるが、再開発による生育への影響も懸念される=東京都港区で2024年6月11日午後1時9分、白川徹撮影
 過去の都知事選で現職が敗れた例はない。小池氏は選挙期間中、公務として各地を視察して有権者にアピールした。地元首長らと臨んだ街頭演説で、新型コロナウイルス対策など2期8年の実績を訴え、支持を固めた。
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東京都が今年2月から観光推進策として始めた都庁舎のプロジェクションマッピング。約16億円の費用がかかっており、都知事選では候補者から「無駄遣い」との指摘も出た=東京都新宿区で2024年4月2日、上東麻子撮影
 立憲民主党参院議員だった蓮舫氏(56)との与野党対決の構図はかすんだ。
 政治とカネの問題などで内閣支持率が低迷する中、自主支援した自民党公明党は前面に出なかった。小池氏も公約に防災や有事対応などの「首都防衛」を掲げて保守層の取り込みを図りつつ、政党や政権とは距離を置いた。
 選挙戦では、神宮外苑の再開発計画の争点化を避けようとする姿勢や、関東大震災で虐殺された朝鮮人犠牲者への追悼文送付をやめたことへの批判も出た。
 しかし、こうした問題については十分な説明をせず、「守りの選挙」に徹した。
 次の4年で小池氏が向き合わねばならないのは、人口減少と少子高齢化だ。
 知事就任からの8年で東京の人口は約50万人増え、1400万人を超えた。日本全体では250万人以上減る中、地方から人を吸い上げて肥大化した形だ。
 だが、都の予測では2030年をピークに東京も人口減に転じる。少子高齢化が加速し、35年には4人に1人が65歳以上になる。
 小池氏は2期目に、0~18歳全員への月5000円の給付や高校授業料の実質無償化などの子育て支援策を打ち出した。3期目には0~2歳の保育料を全面的に無償化するという。
 「国に先んじた施策」と自負するが、潤沢な税収があるからできることだ。他の自治体からは格差拡大を懸念する声も聞かれる。
 人やカネを首都と地方で奪い合うのでは、根本的な解決にはならない。日本全体に目を配り、自治体間の連携を深めるべきだ。
 東京には地方をリードする役割も期待される。3期目入りに当たっては、批判を謙虚に受け止め、課題を再点検してほしい。

小池知事3選 課題山積の都政をどう率いる(2024年7月8日『読売新聞』-「社説」)
 
 少子高齢化という難題にどのように取り組み、住みやすく活力ある首都をいかに築いていくか。引き続き都政の運営を託された責任は重い。
 東京都知事選で、現職の小池百合子氏が3選を果たした。過去8年にわたる小池都政の評価が最大の争点となったが、子供への月5000円の給付事業など、小池氏が力を入れてきた独自の政策が一定の支持を集めた形だ。
 小池氏が今後、取り組むべき課題は多い。東京は、地方から人口が流入し、1400万の住民を抱えているが、同時に少子高齢化も進んでいる。遠くない将来には人口の減少が始まる見通しだ。
 子供を持ちたい人が、不安なく出産や子育てをできるよう、支援体制を整えることが重要だ。雇用や産業の創出も欠かせない。
 医療や介護の体制整備のほか、首都直下地震や豪雨被害など、災害への備えも急務だ。政策に優先順位をつけて、着実に成果を出していくことが求められる。
 小池氏はこれまで、重要政策の多くを、少数の都幹部との話し合いで決めてきた。こうしたトップダウンの手法が、スピード感のある都政運営につながる一方、急に財政負担を突きつけられた区などの反発を招いたこともあった。
 3期目にあたり、強引な都政運営に陥らないためには、調整力が問われる場面もあるだろう。
 選挙戦では、自民党が独自候補を擁立できなかった。派閥の「裏金」問題が表面化し、厳しい批判にさらされたためで、最終的に小池氏の支援に回った。
 その小池氏は、政党色を前面に打ち出さない戦略を取った。自民は表立った活動を控えざるを得なかったが、結果的にそれが奏功する形となった。
 一方、政党の支援を受けなかった前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏は、SNSを駆使して若者層らへの浸透を図り、有権者の支持を広げた。立憲民主党共産党の全面支援を受けた前参院議員の蓮舫氏は、伸び悩んだ。
 今回の結果が示す、有権者の既成政党離れは軽視できない。今後の国政選に向け、逆風下にある自民はもちろん、共産との共闘に活路を見いだそうとした立民も戦略の見直しを迫られそうだ。
 過去最多の56人が乱立した今回の都知事選では、掲示板に候補者と無関係のポスターが大量に貼られ、品位を欠く政見放送も相次いだ。有権者を 愚弄ぐろう するような活動をどう防ぐのか。選挙の劣化という重い課題も浮かび上がった。

東京の持続性と競争力高める3期目に(2024年7月8日『日本経済新聞』-「社説」)
 
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3選を決めた小池氏。東京都知事選で現職は負けたことがない(7日、東京都新宿区) =共同
 東京都知事選で小池百合子氏の3選が決まった。3期目ともなれば集大成となる成果が期待される。少子高齢化や防災といった首都の持続性を高めるための方策や、国際都市としての競争力強化に道筋をつけてほしい。
 選挙は異例ずくめだった。候補者が56人に上ったうえ、同じポスターが多数掲示されたり、選挙を利用してSNSで収益をあげたりする動きが顕在化した。選挙制度の盲点を突くこうした動きが、選挙への信頼を損ね、政治離れや民主主義への懐疑的な見方を広げていくことにならないか、注意しなければならない。
 事実上の与野党対決となった選挙戦で、小池氏は守りの選挙に徹した。支援する自民、公明両党などは前面に出ず、小池氏は選挙期間中も公務を優先した。現職の強みを発揮したといえよう。
 もっとも小池氏の支援に回った自民党は必ずしも勝利といえまい。党派色の薄い石丸伸二氏が健闘した大きな要因は、自民党の政治資金問題への批判にあると受け止めるべきだ。次期衆院選が厳しい状況にあるのは変わらない。
 野党は自民党批判の受け皿になりきれなかった。蓮舫氏が伸び悩んだのは、立憲民主党共産党の連携が無党派層に支持されなかったことが一因だろう。次期衆院選に向け野党連携をめぐる議論が再燃する可能性がある。
 都政の課題は山積している。小池都政の2期8年で、子育て環境が改善したのは確かだが、出生率の回復にはつながっていない。この点では未婚化を問題視し、若い世代への経済的支援を唱えた蓮舫氏にも一理あろう。対立候補の主張であっても望ましいものは取り入れていくべきである。
 首都圏各県との関係にも留意したい。豊かな財源を背景にした都の子育て支援には周辺各県が不満を漏らしている。介護や防災では都内の高齢者や被災者の受け入れで各県の協力が必要になる。インフラ整備も含め、首都圏全体で進める視点が重要だ。その広域連携は都がリードすべきであり、それが結局は都民のためになる。
 都心では再開発が相次ぎ、外国人の居住が増えてくる。マンション価格の高止まりで住宅問題も課題になろう。こうした課題に対するグランドデザインはまだみえない。国際金融都市構想や築地再開発を含め、東京の街づくりの将来像を描くときである。

小池都知事3選 「首都防衛」の公約実行を(2024年7月8日『産経新聞』-「主張」)
 
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当選確実となりポーズをとる小池百合子都知事
 
 
 東京都知事選で、現職の小池百合子氏が3選を果たした。2期8年にわたる都政運営の安定感が評価された格好だ。
首都の課題は山積している。小池氏は、自身が掲げた公約の実現に全力で取り組んでもらいたい。
 何より重視すべきは、都民1400万人超の命を守る施策だ。甚大な被害が予想される首都直下地震などへの備えは怠れない。
 小池氏は、街頭演説などで「首都防衛」を強調した。地震・火災対策として木造住宅密集地域の解消促進▽富士山噴火を想定した降灰対策▽ミサイル攻撃から都民を守るシェルター(避難施設、防空壕(ごう))の整備などを公約に盛り込んだ。
 いずれも重要であり、数値目標や工程表を定めて着実に進めてほしい。
少子化対策にも引き続き力を入れるべきだ。小池氏は2期8年で、これまで掲げてきた「待機児童ゼロ」の目標をほぼ達成した。それでも東京の少子化は一段と進んでいる。今回は公約で、無痛分娩(ぶんべん)費用の助成などを新たに打ち出したが、さらなる措置が求められよう。
 東京はエネルギーの大消費地である。省エネ、再エネや脱炭素化への取り組みを強化するとともに、原発再稼働を目指して政府や電力会社を後押ししてもらいたい。原発立地自治体への働きかけも必要である。
 都知事選には、立憲民主党を離党した前参院議員の蓮舫氏や前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏、元航空幕僚長田母神俊雄氏らが出馬した。
 石丸氏は、インターネットでの高い知名度を生かして得票を伸ばしたが及ばなかった。
蓮舫氏は、都政とは関わりの薄い「反自民党」を前面に押し出し、共産党の全面的な支援を受けた。だが、立民、共産両党を主体とする都政運営を、都民は受け入れなかった。
 両党は「立憲共産党」と揶揄(やゆ)されている。基本政策が異なる政党間の共闘に、有権者の支持は集まらない。
政治とカネの問題で逆風にさらされる自民党は今回、独自候補を立てず、水面下で小池氏の支援に回った。それだけに、岸田文雄政権は小池氏の当選を喜んでばかりはいられない。国民の政治不信払拭に一層努めるべきである。
 

小池氏が3選 批判に応える舵取りを(2024年7月8日『東京新聞』-「社説」)
 
 東京都知事選で現職の小池百合子氏=写真=が3選を果たした。2期8年間の実績が評価され、子育て支援などの公約が支持されたとも言えるが、長期政権の弊害に陥ってはならない。他候補への投票を「批判票」と受け止め、謙虚な都政運営を心掛けてほしい。
 小池氏は「世界で一番の都市」を掲げ、子育て支援策として無痛分娩(ぶんべん)費用の助成や保育無償化の拡大、高齢者対策で認知症専門病院の創設、防災対策では木造住宅密集地域の解消などを訴えた。
 小池氏の根強い人気に加え、都政刷新を求める票が石丸伸二前広島県安芸高田市長や蓮舫参院議員らに分散したことも有利に働いた。自民、公明両党などによる組織的支援も奏功した。
 小池都政の重要課題は3期目も少子化対策保育所の待機児童削減や18歳以下への現金給付など子育て支援策を展開してきたが、出生率低下に歯止めがかからない。若者の暮らしやすさを向上させる総合的な対策が望まれる。
 明治神宮外苑の再開発は推進の立場だが、本紙の電話調査では多数の樹木伐採に反対する意見が7割に達する。既存の緑をどこまで守るかが引き続き問われる。
 関東大震災時に虐殺された朝鮮人の追悼式を巡っては、歴代都知事が送ってきた追悼文をやめ、批判を浴びた。歴史的事実を認めず哀悼の意も示さないようでは、政治家の資質に疑問符が付く。追悼文の再開を促したい。
 小池氏が3期目を全うすれば、任期は通算12年間に及ぶ。過去に長期間務めた都知事を見ると、前半の実績が評価され、後半の失政で批判を浴びる例が多い。
 美濃部亮吉氏は財政危機を招き、鈴木俊一氏は都市博や臨海開発で行き詰まった。石原慎太郎氏は新銀行東京の巨額赤字が表面化し、沖縄・尖閣諸島の購入構想に固執したことは日中対立の火種となった。いずれも独善に陥ったことが失政の要因でなかったか。
 自民党派閥の裏金事件などで政治不信が高まり、厳しい視線は既存の政治家全体に注がれている。小池氏も例外ではいられない。
 都政3期目の舵(かじ)取りを担うに当たり、批判には謙虚に耳を傾け、丁寧に説明を尽くす姿勢が欠かせないと肝に銘じてほしい。

<風が吹き吹き笹藪(ささやぶ)の、笹のささやきききました>…(2024年7月8日『東京新聞』-「筆洗」)
 
 <風が吹き吹き笹藪(ささやぶ)の、笹のささやきききました>-。童謡詩人、金子みすゞの「七夕のころ」である。<笹のささやきききました>のリズムが耳に心地良い
▼<もう七夕もすんだのか、天の川ともおわかれか>。七夕が終わった寂しさ。<五色きれいなたんざくの、さめてさみしい、笹の枝>
▼選挙ポスターが撤去されるのがさみしいとは一切思わないが、七夕の選挙となった東京都知事選が終わった。現職の小池さんと蓮舫さんらの激戦が伝えられていたが、小池さんが大差をつけたか、ずいぶん早く「当確」が付いた
有権者はこのタイミングでの都政の刷新を望まなかったようである。1期目に小池さんが掲げた公約「七つのゼロ」。大半は実現していないものの、待機児童ゼロなど小池さんの取り組みに対し、今しばらく、見守ってみようという気分もあったのだろう
対立候補との論戦を回避し、自民党との関係を選挙戦であまり表に出さなかったことも勝因となった-とは勝者に対し、皮肉がすぎるか
▼小池さんには再度<笹のささやきききました>を教えたくなる。当選したからと独善に走らず、選挙戦で聞いた都民の声や対立候補の意見も大切な「ささやき」として耳を傾けていただきたい。神宮外苑の再開発問題についてもしかりである。都民の書いた願いの短冊。それは小池さんへの白紙委任状ではなかろうて。
 
七夕のころ
風が吹ふき吹き笹藪(ささやぶ)の
笹のささやきききました。
伸(の)びても、伸びても、まだ遠い、
夜の星ぞら、天の川、
いつになったら、届(とど)こうか。
風が吹き吹き外海の、
波のなげきをききました。
もう七夕もすんだのか、
天の川ともおわかれか。
さっき通って行ったのは、
五色きれいなたんざくの、
さめてさみしい、笹の枝(えだ)。