知事選の告示 首都の将来像競う論戦を(2024年6月21日『毎日新聞』-「社説」)
先行きの不透明な時代に巨大首都のかじ取りを誰に委ねるのか。重要な選択の機会である。
東京都知事選が告示され、過去最多の56人が立候補を届け出た。
最大の争点は少子高齢化だ。
東京の合計特殊出生率は0・99と全国最低の水準だ。背景にあるのは、非正規雇用の増加や、男性が育児休暇を取りにくい風潮など、全国的な問題に限らない。過密化による住環境の悪化や、生活費の上昇など特有の事情もある。
高齢化対策も喫緊の課題だ。都の推計では、2030年の高齢者は334万人に達し、4万人規模の介護職員が不足すると予想されている。地方からの介護人材の流出を招きかねず、職員の定着など一層の対策が必要だ。
東京一極集中で若者が流入する一方、地方の人口減少に拍車がかかっている。首都のトップとして、地方にも目配りした政策運営が求められる。
首都直下地震への備えも急がねばならない。甚大な被害を想定した救急医療体制の整備や、延焼火災が懸念されている木造住宅密集地域の解消は道半ばだ。
首都の課題は、日本全体が抱える問題に直結する。各候補者は、東京の具体的な将来像を示し、骨太の論戦を繰り広げてほしい。
都知事選告示 1票の大切さ問われる乱戦だ(2024年6月21日『読売新聞』-「社説」)
候補者が50人を超える異例の東京都知事選が始まった。首都の未来を誰に託すのか。政策の中身や実現性を見極め、大切な1票を投じたい。
小池氏は2期目に新型コロナウイルスの流行に直面し、「3密回避」などの発信で感染拡大の防止を呼びかけた。都は、休業要請に応じた事業者に協力金を支給するなど独自の対策を展開した。
小池氏の危機管理や組織統治の能力を、どう判断するかに加え、未来への課題も山積している。
小池氏はこれまで、子どもへの月5000円給付事業などを実施してきた。今回は、保育料無償化の拡大などを掲げている。
一極集中で1400万人に達した都の人口は2030年を境に減少に転じ、35年には4人に1人が高齢者になる見通しだ。医療や介護の体制整備が欠かせない。
首都直下地震など、災害への備えも急務だ。どのような東京を目指すのか、各候補は、財源を含めて具体的に示すことが重要だ。
今回は過去最多の56人が立候補した。このうち24人は、政治団体「NHKから国民を守る党」に関連する候補者である。
1人の首長を選ぶ選挙に、一つの政治団体が多数の候補者を立てるなど前代未聞だ。
首都の将来像見いだす論戦に(2024年6月21日『日本経済新聞』-「社説」)
東京都知事選が20日、告示された。東京は少子高齢化、防災、国際的な都市間競争といった課題を抱え、その動向は全国に影響を与える。首都の持続性と競争力が問われる時代であり、東京の将来像を探る論戦を期待したい。
まず問われるのが小池都政8年の評価だ。新型コロナウイルス禍への対応、待機児童対策をはじめとする子育て支援、再生可能エネルギーの活用といった環境対策、五輪開催などは豊かな財源もあり一定の成果を出したといえよう。
一方、首都直下地震の備えは途上で、急速な高齢化を控えた独居世帯対策も十分でない。都道府県別にみた経済成長率はそう高くなく、人や企業の集中を生かし切れていない。スタートアップ育成や国際金融都市構想も道半ばだ。
課題山積のなかで競い合うのが少子化対策だ。小池氏は無痛分娩の補助など「お母さんを守る」ことを重視する。蓮舫氏は「未婚化が要因」とし、都の非正規職員の正規化など若者への経済支援に重点を置く。どちらも大切だが、訴える層の違いがうかがえる。
都の人口は2025年に減少に転じるとされたが、直近の推計では40年まで増加が続く。外国人の増加を見込むためで、外国人とどう向き合うかも語ってほしい。
立候補者はほかに石丸伸二氏、田母神俊雄氏を含め56人と過去最多になった。なかには選挙運動の動画配信で収益を上げたり、選挙ポスターを広告枠として「販売」したりする動きもある。選挙の目的にそぐわない行為が横行するなら制度の見直しが必要である。
東京都知事選が告示され、史上最多の56人が立候補した。ただ、主要候補者の公約は発表が遅れ、出そろったばかり。政策の狙いと効果を丁寧に説明し、暮らしの未来図を競い合ってほしい。
争点の一つは、3選を目指す小池百合子知事による都政継続の是非。コロナ禍にあった前回都知事選は、混乱を避けたい有権者の意識が現職有利に働いたとされる。今回は小池氏の8年間の実績を冷静に見極める機会でもある。
主要政党は公認や推薦をせず政党色を薄めているが、自民、公明両党と国民民主党都連が小池氏、立憲民主、共産、社民3党が蓮舫氏をそれぞれ支援し、国政の与野党がぶつかる構図。岸田文雄首相の政権運営に対する評価も投票行動を左右する要因となろう。
安心して出産、子育てができる環境の整備は都政の重要課題であり、小池氏は無痛分娩(ぶんべん)の費用助成や保育無償化の対象拡大▽蓮舫氏は多子世帯への家賃補助や都の契約企業従業員の待遇改善▽石丸氏は人口集中や過密の是正▽田母神氏は子どもの数に応じた大胆な現金給付-をそれぞれ訴えた。
このほか高齢社会への対応など身近な暮らしの課題が山積しており、活発な論戦を期待したい。
気になったのは主要候補者の公約発表の遅さ。小池、蓮舫両氏は告示2日前にずれ込んだ。公約を吟味する時間が乏しければ、議論や批判は封じられる。選挙期間中も共同会見や討論会に応じるなど堂々と論戦を展開してほしい。
どの候補が次の都知事にふさわしいか。選挙戦術やパフォーマンスに惑わされず、人物と公約が信頼に足るか否かを見極めたい。