都知事選の告示に関する社説・コラム(2024年6月21日)

知事選の告示 首都の将来像競う論戦を(2024年6月21日『毎日新聞』-「社説」)
 
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首都・東京のかじ取り役を選ぶ東京都知事選が告示された。西新宿の高層ビル群、中央右に東京都庁が見える=東京都中野区で2024年1月25日午後2時16分、本社ヘリから前田梨里子撮影
 先行きの不透明な時代に巨大首都のかじ取りを誰に委ねるのか。重要な選択の機会である。
 東京都知事選が告示され、過去最多の56人が立候補を届け出た。
 3選を目指す現職の小池百合子氏、元参院議員の蓮舫氏のほか、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏、元航空幕僚長田母神俊雄氏らが出馬した。
 小池都政の継続の是非を問う選挙だ。2期8年の間には、新型コロナウイルス対策や東京オリンピックパラリンピック開催などの対応に追われた。
 注目されるのは、事実上の与野党対決の構図となったことだ。小池氏は自民党公明党蓮舫氏は立憲民主党共産党などの支援を受ける。2人とも無所属での出馬だが、選挙結果は国政に影響を及ぼす可能性がある。
 最大の争点は少子高齢化だ。
 東京の合計特殊出生率は0・99と全国最低の水準だ。背景にあるのは、非正規雇用の増加や、男性が育児休暇を取りにくい風潮など、全国的な問題に限らない。過密化による住環境の悪化や、生活費の上昇など特有の事情もある。
 小池氏は、子どもへの一律の現金給付など子育て支援の実績を強調する。蓮舫氏は、現役世代の所得向上を公約に掲げる。
 高齢化対策も喫緊の課題だ。都の推計では、2030年の高齢者は334万人に達し、4万人規模の介護職員が不足すると予想されている。地方からの介護人材の流出を招きかねず、職員の定着など一層の対策が必要だ。
 東京一極集中で若者が流入する一方、地方の人口減少に拍車がかかっている。首都のトップとして、地方にも目配りした政策運営が求められる。
 首都直下地震への備えも急がねばならない。甚大な被害を想定した救急医療体制の整備や、延焼火災が懸念されている木造住宅密集地域の解消は道半ばだ。
 明治神宮外苑の再開発計画を巡っては、大量の樹木の伐採が問題視されている。環境保全と都市開発をどう進めるかについて、各候補者の姿勢が問われる。
 首都の課題は、日本全体が抱える問題に直結する。各候補者は、東京の具体的な将来像を示し、骨太の論戦を繰り広げてほしい。
 

都知事選告示 1票の大切さ問われる乱戦だ(2024年6月21日『読売新聞』-「社説」)
 
 候補者が50人を超える異例の東京都知事選が始まった。首都の未来を誰に託すのか。政策の中身や実現性を見極め、大切な1票を投じたい。
 7月7日投開票の都知事選に、3選を目指す小池百合子氏、前参院議員の蓮舫氏、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏、元航空幕僚長田母神俊雄氏らが立候補した。まず争点となるのが、小池都政の評価だろう。
 小池氏は2期目に新型コロナウイルスの流行に直面し、「3密回避」などの発信で感染拡大の防止を呼びかけた。都は、休業要請に応じた事業者に協力金を支給するなど独自の対策を展開した。
 東京五輪パラリンピックは無事に成功したが、閉幕後に汚職・談合事件が発覚した。
 小池氏の危機管理や組織統治の能力を、どう判断するかに加え、未来への課題も山積している。
 都内では昨年、合計特殊出生率が1を割り込んだ。少子化の進行は、とりわけ深刻である。
 小池氏はこれまで、子どもへの月5000円給付事業などを実施してきた。今回は、保育料無償化の拡大などを掲げている。
 一方、小池氏の有力なライバルとされる蓮舫氏は、正規・非正規雇用の格差解消などを通じた少子化対策を進めるという。他の候補者も子育て支援を重視している。議論を十分に戦わせてほしい。
 一極集中で1400万人に達した都の人口は2030年を境に減少に転じ、35年には4人に1人が高齢者になる見通しだ。医療や介護の体制整備が欠かせない。
 首都直下地震など、災害への備えも急務だ。どのような東京を目指すのか、各候補は、財源を含めて具体的に示すことが重要だ。
 今回は過去最多の56人が立候補した。このうち24人は、政治団体「NHKから国民を守る党」に関連する候補者である。
 1人の首長を選ぶ選挙に、一つの政治団体が多数の候補者を立てるなど前代未聞だ。
 しかも、党に寄付した人に、掲示板にポスターを貼る権利を譲るという。選挙には掲示板のほか、選挙運動用の表示物など「七つ道具」に公費が投じられている。
 選挙は民主主義の根幹だからこそ、有権者が費用の一部を負担している。そうした選挙を、金 儲もう けや売名に利用するかのような行為は、有権者を 愚弄ぐろう するものだ。
 与野党は再発防止への法整備を急ぐべきだ。こうした行為を有権者はどう判断するのか。一人ひとりの投票行動も問われている。
 

首都の将来像見いだす論戦に(2024年6月21日『日本経済新聞』-「社説」)
 
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過去最多の56人が立候補し、ポスター掲示板の増設を迫られている(20日、東京都内) =AP
 東京都知事選が20日、告示された。東京は少子高齢化、防災、国際的な都市間競争といった課題を抱え、その動向は全国に影響を与える。首都の持続性と競争力が問われる時代であり、東京の将来像を探る論戦を期待したい。
 選挙戦は3選をめざす現職の小池百合子氏と前参院議員の蓮舫氏が軸だ。小池氏は自民、公明両党などが支援し、蓮舫氏は立憲民主党共産党などの支援を受ける。事実上の与野党対決である。
 政治資金問題で自民党が候補者を立てられないのは政権党として情けない。選挙戦も有権者が政治とカネの問題をどの程度、考慮するかが影響しよう。政治不信による投票率の低下も懸念される。
 まず問われるのが小池都政8年の評価だ。新型コロナウイルス禍への対応、待機児童対策をはじめとする子育て支援再生可能エネルギーの活用といった環境対策、五輪開催などは豊かな財源もあり一定の成果を出したといえよう。
 一方、首都直下地震の備えは途上で、急速な高齢化を控えた独居世帯対策も十分でない。都道府県別にみた経済成長率はそう高くなく、人や企業の集中を生かし切れていない。スタートアップ育成や国際金融都市構想も道半ばだ。
 課題山積のなかで競い合うのが少子化対策だ。小池氏は無痛分娩の補助など「お母さんを守る」ことを重視する。蓮舫氏は「未婚化が要因」とし、都の非正規職員の正規化など若者への経済支援に重点を置く。どちらも大切だが、訴える層の違いがうかがえる。
 都の人口は2025年に減少に転じるとされたが、直近の推計では40年まで増加が続く。外国人の増加を見込むためで、外国人とどう向き合うかも語ってほしい。
 立候補者はほかに石丸伸二氏、田母神俊雄氏を含め56人と過去最多になった。なかには選挙運動の動画配信で収益を上げたり、選挙ポスターを広告枠として「販売」したりする動きもある。選挙の目的にそぐわない行為が横行するなら制度の見直しが必要である。
 

都知事選告示 暮らしの未来図を競え(2024年6月21日『東京新聞』-「社説」)
 
 東京都知事選が告示され、史上最多の56人が立候補した。ただ、主要候補者の公約は発表が遅れ、出そろったばかり。政策の狙いと効果を丁寧に説明し、暮らしの未来図を競い合ってほしい。
 争点の一つは、3選を目指す小池百合子知事による都政継続の是非。コロナ禍にあった前回都知事選は、混乱を避けたい有権者の意識が現職有利に働いたとされる。今回は小池氏の8年間の実績を冷静に見極める機会でもある。
 都政刷新を目指す新人は、蓮舫参院議員や石丸伸二前広島県安芸高田市長、田母神俊雄航空幕僚長ら多彩な顔触れが並ぶ。
 主要政党は公認や推薦をせず政党色を薄めているが、自民、公明両党と国民民主党都連が小池氏、立憲民主、共産、社民3党が蓮舫氏をそれぞれ支援し、国政の与野党がぶつかる構図。岸田文雄首相の政権運営に対する評価も投票行動を左右する要因となろう。
 注目したいのは各候補の少子化対策。都には20~30代の計360万人超が暮らすが、合計特殊出生率は0・99と全国一低い。
 安心して出産、子育てができる環境の整備は都政の重要課題であり、小池氏は無痛分娩(ぶんべん)の費用助成や保育無償化の対象拡大▽蓮舫氏は多子世帯への家賃補助や都の契約企業従業員の待遇改善▽石丸氏は人口集中や過密の是正▽田母神氏は子どもの数に応じた大胆な現金給付-をそれぞれ訴えた。
 また、樹木伐採に批判が集まる神宮外苑の再開発を巡り、小池、石丸両氏は都の対応を是認する立場なのに対し、蓮舫、田母神両氏は見直しや保全を掲げる。
 このほか高齢社会への対応など身近な暮らしの課題が山積しており、活発な論戦を期待したい。
 気になったのは主要候補者の公約発表の遅さ。小池、蓮舫両氏は告示2日前にずれ込んだ。公約を吟味する時間が乏しければ、議論や批判は封じられる。選挙期間中も共同会見や討論会に応じるなど堂々と論戦を展開してほしい。
 立候補者が多ければ有権者の選択肢が広がり、歓迎すべきだが、一つの政治団体から何人も立候補する事例もある。民主主義の根幹である選挙制度を売名目的で損ねれば、対応が必要となろう。
 どの候補が次の都知事にふさわしいか。選挙戦術やパフォーマンスに惑わされず、人物と公約が信頼に足るか否かを見極めたい。