「私たちは劣った人間なのでしょうか」 同性婚を求める人たちが国を訴えた裁判は14日に注目の判決(2024年3月11日『東京新聞』)

 民法や戸籍法の規定が婚姻の自由などを保障する憲法に違反するとして、同性カップルらが国に損害賠償を求めた集団訴訟の判決が14日、東京地裁で言い渡される。同種訴訟の地裁判決は6件目。先行した判決で、婚姻とは別の制度で同性カップルらの不利益をなくす方法も示唆されたことなどを踏まえ、婚姻そのものを認めるよう改めて求めてきた。同じ日、札幌高裁では一連の訴訟で初の控訴審判決も言い渡される。

◆異性カップルなのに結婚できない?

 東京地裁での第2次訴訟で、2021年3月26日に計8人が提訴。国会で法整備の動きがなく、原告は「少数派の小さい声を聴き取り、人権を守れるのは裁判所だけ」などと訴えた。
 戸籍上はともに女性だが、一人がトランスジェンダー男性で、男女として暮らすカップルも同種訴訟で初めて原告となった。弁護団は「異性カップルなのに法律上は同性だから婚姻できない」と、現行制度には性自認に関する差別も含まれているとも主張した。
 判決のあった先行5訴訟では、札幌と名古屋が違憲、東京と福岡が違憲状態と判断。合憲とした大阪地裁も、社会状況の変化によっては、将来的に違憲となる可能性に言及した。
 
 最も早かった21年3月の札幌地裁判決は、現行制度は不合理な差別で、法の下の平等を定める憲法14条に違反するとした。ただ、国が立法措置を怠ったとは判断しなかったため、原告側が控訴した。(奥野斐)
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◆「差別は残る。だからこそ、同性同士の結婚を法制化して」

 休日のリビング。パートナーと、昨年迎えたネコ3匹と過ごす時間は心地よい。でも—。欠けているものがある。
 
同性婚訴訟の判決を前に心境を話す福田理恵さん(左)と藤井美由紀さん

同性婚訴訟の判決を前に心境を話す福田理恵さん(左)と藤井美由紀さん

 「結婚を通して、幸せと安心感を追求する選択肢を手にしたいだけなんです」
 同性婚を認めない民法などの規定が憲法違反だとして、国に損害賠償を求めた訴訟の原告の会社員福田理恵さん、藤井美由紀さん=いずれも(49)=はそう語る。3月14日に東京地裁で言い渡される判決では「結婚できないのは憲法違反だと、明確な判断をしてほしい」と話す。

◆ずっと隠して生きてきた

 2016年から東京都内で同居する。今は2人の関係を家族や職場にオープンにしているが、福田さんは40代前半まで、セクシュアリティーを周囲に隠していた。
 20代の頃、信頼する親族に同性との交際を打ち明けると「友達はいいけれど、親族にはいてほしくない。精神的に異常だと思う」と言われた。傷つき、消えていなくなってしまいたいと思った。それ以来、職場では同僚とあまり話さないようになった。「週末は何してた?」「結婚はしないの?」。そんな話題を避けるためだった。
 
同性婚訴訟の判決を前に心境を話す福田理恵さん(左)と藤井美由紀さん

同性婚訴訟の判決を前に心境を話す福田理恵さん(左)と藤井美由紀さん

 

 40歳の時、乳がんが分かった。交流サイト(SNS)で知り合い、当時は交際を始めたばかりの藤井さんが、家族と疎遠だった福田さんの手術に付き添い、支えてくれた。福田さんは同時期に母親を亡くした。「人生は長くない。これからは自分らしく生きていきたい」と隠すのをやめた。会社に同性パートナーの申請をし、同性婚の実現を求めるイベントに参加した。
 同性婚の法制化を目指す「結婚の自由をすべての人に」東京2次訴訟の原告に加わり、21年3月に提訴。原告8人にはトランスジェンダー男性ら、多様なセクシュアリティーの人がいる。2人は「同性同士で結婚したい人にもいろんな人がいて、選択肢は平等にあるべきだと思う」と話す。

アメリカで「結婚」 日本での生きづらさを痛感

 昨年2月、荒井勝喜元首相秘書官の「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」という同性カップルらへの差別発言で、福田さんは親族に言われたつらい言葉を思い出した。20年後、親族は「あの時は未熟だった」と謝ってくれたが、こうした差別や偏見はまだまだあると感じている。
 昨年10月に公表された「家族と性と多様性にかんする全国アンケート」の結果速報でも、同僚や友人が性的少数者の場合に否定的な感情を示す人は2割未満だったが、自分の子どもが同性愛者や性別を変えた場合は、約半数が「嫌だ」「どちらかといえば嫌だ」と答えた。福田さんの親族のような人は少なくない。
 
同性婚訴訟の判決を前に心境を話す福田理恵さん(左)と藤井美由紀さん

同性婚訴訟の判決を前に心境を話す福田理恵さん(左)と藤井美由紀さん

 岸田文雄首相は昨年2月、国会で「(同性婚を制度化すれば)社会が変わってしまう」と答弁したが、各種世論調査などで同性婚の法制化に「賛成」は6〜7割と増加。立法の動きは見えないが、福田さんは「世論が高まっても、差別発言をする人は残る。だからこそ、同性同士の結婚を法制化し、性的少数者の尊厳と生活を守る必要がある」と力を込める。
 2人は昨年11月、米ニューヨーク州で婚姻証明書を取得した。出張中の福田さんを藤井さんが訪れ、現地で「結婚」した。「手をつないで歩いていても誰も気にしないし、見もしない。居心地が良かった」と藤井さん。福田さんも「日本は生きづらいんだなって、あらためて思った」という。
 日本では「災害が起きたら避難所で一緒に過ごせるか」「事故に遭った時、互いに連絡が来るのか」など不安が尽きない。2人の関係や財産分与について記した公正証書を10万円余かけて作ったが、法律上の相続人と同じではない。病院で家族でないと病状説明を受けられないかもしれない。結婚という選択肢を、どうして手にできないのか。「私たちはその権利もない、劣った人間なのでしょうか」(奥野斐)