◆異性カップルなのに結婚できない?
東京地裁での第2次訴訟で、2021年3月26日に計8人が提訴。国会で法整備の動きがなく、原告は「少数派の小さい声を聴き取り、人権を守れるのは裁判所だけ」などと訴えた。
戸籍上はともに女性だが、一人がトランスジェンダー男性で、男女として暮らすカップルも同種訴訟で初めて原告となった。弁護団は「異性カップルなのに法律上は同性だから婚姻できない」と、現行制度には性自認に関する差別も含まれているとも主張した。
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◆「差別は残る。だからこそ、同性同士の結婚を法制化して」
休日のリビング。パートナーと、昨年迎えたネコ3匹と過ごす時間は心地よい。でも—。欠けているものがある。
同性婚訴訟の判決を前に心境を話す福田理恵さん(左)と藤井美由紀さん
「結婚を通して、幸せと安心感を追求する選択肢を手にしたいだけなんです」
同性婚を認めない民法などの規定が憲法違反だとして、国に損害賠償を求めた訴訟の原告の会社員福田理恵さん、藤井美由紀さん=いずれも(49)=はそう語る。3月14日に東京地裁で言い渡される判決では「結婚できないのは憲法違反だと、明確な判断をしてほしい」と話す。
◆ずっと隠して生きてきた
2016年から東京都内で同居する。今は2人の関係を家族や職場にオープンにしているが、福田さんは40代前半まで、セクシュアリティーを周囲に隠していた。
20代の頃、信頼する親族に同性との交際を打ち明けると「友達はいいけれど、親族にはいてほしくない。精神的に異常だと思う」と言われた。傷つき、消えていなくなってしまいたいと思った。それ以来、職場では同僚とあまり話さないようになった。「週末は何してた?」「結婚はしないの?」。そんな話題を避けるためだった。
40歳の時、乳がんが分かった。交流サイト(SNS)で知り合い、当時は交際を始めたばかりの藤井さんが、家族と疎遠だった福田さんの手術に付き添い、支えてくれた。福田さんは同時期に母親を亡くした。「人生は長くない。これからは自分らしく生きていきたい」と隠すのをやめた。会社に同性パートナーの申請をし、同性婚の実現を求めるイベントに参加した。
同性婚の法制化を目指す「結婚の自由をすべての人に」東京2次訴訟の原告に加わり、21年3月に提訴。原告8人にはトランスジェンダー男性ら、多様なセクシュアリティーの人がいる。2人は「同性同士で結婚したい人にもいろんな人がいて、選択肢は平等にあるべきだと思う」と話す。
◆アメリカで「結婚」 日本での生きづらさを痛感
昨年2月、荒井勝喜元首相秘書官の「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」という同性カップルらへの差別発言で、福田さんは親族に言われたつらい言葉を思い出した。20年後、親族は「あの時は未熟だった」と謝ってくれたが、こうした差別や偏見はまだまだあると感じている。
昨年10月に公表された「家族と性と多様性にかんする全国アンケート」の結果速報でも、同僚や友人が性的少数者の場合に否定的な感情を示す人は2割未満だったが、自分の子どもが同性愛者や性別を変えた場合は、約半数が「嫌だ」「どちらかといえば嫌だ」と答えた。福田さんの親族のような人は少なくない。
同性婚訴訟の判決を前に心境を話す福田理恵さん(左)と藤井美由紀さん
岸田文雄首相は昨年2月、国会で「(同性婚を制度化すれば)社会が変わってしまう」と答弁したが、各種世論調査などで同性婚の法制化に「賛成」は6〜7割と増加。立法の動きは見えないが、福田さんは「世論が高まっても、差別発言をする人は残る。だからこそ、同性同士の結婚を法制化し、性的少数者の尊厳と生活を守る必要がある」と力を込める。
2人は昨年11月、米ニューヨーク州で婚姻証明書を取得した。出張中の福田さんを藤井さんが訪れ、現地で「結婚」した。「手をつないで歩いていても誰も気にしないし、見もしない。居心地が良かった」と藤井さん。福田さんも「日本は生きづらいんだなって、あらためて思った」という。
日本では「災害が起きたら避難所で一緒に過ごせるか」「事故に遭った時、互いに連絡が来るのか」など不安が尽きない。2人の関係や財産分与について記した公正証書を10万円余かけて作ったが、法律上の相続人と同じではない。病院で家族でないと病状説明を受けられないかもしれない。結婚という選択肢を、どうして手にできないのか。「私たちはその権利もない、劣った人間なのでしょうか」(奥野斐)