小池にも石丸にもつけずに都知事選「蚊帳の外」の東京維新…これは内部崩壊への予兆か!?(2024年7月4日『現代ビジネス』)

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17日間に及ぶ東京都知事選が終盤戦に入る中、蚊帳の外にいるのが日本維新の会だ。
東京維新の会で幹事長を務める音喜多駿政調会長は5月28日の記者会見で「何もせずに完全に自主投票にして寝ていていいのか、というのもあるので、都政の4年間を少しでも前に進めるためのベターな選択肢を取るという可能性は否定しない」と語った。
独自候補擁立を目指しつつ、それができなければ候補者の誰かを支援する可能性に言及していたのだ。だが、結果的には「知名度も実績もある方々に割って入って戦うのは非常に厳しい」(藤田幹事長)として「静観」を決めた。
6月17日に行われた東京維新の会の緊急全体会議。代表を務める柳ヶ瀬裕文総務会長はこう説明した。
「詳細は語りませんが、調査を行ったところ、維新候補は小池知事の10分の1しか取れなかった。藤田幹事長と相談し、候補者擁立はデメリットの方が大きいと判断した。そこで、各陣営と接触したが、維新の理念と合致するところはなかったので静観することにした。石丸候補は東京を弱体化する政策を掲げているので維新とは合わない」
しかし、石丸伸二氏の選対事務局長を務めるのは東京維新の会を支えてきた元国会議員秘書の藤川晋之助氏である。普通に考えれば石丸支援でまとまるのが手堅い選択だったはずだ。そこで、告示日に藤川氏に話を聞いた。
「維新から接触はあったが、うちはあくまで政党の推薦は受けないという立場。それでも応援の仕方はあるんだからうちに乗っかって応援すれば良かったのに、維新はバカだなと思いますよ」
だが、音喜多氏の本命は石丸ではなかったという。ある維新関係者は語る。
「実は音喜多さんは小池知事の支援をして恩を売ろうとしたそうなんです。しかし、水面下で関係者を通じて知事にその旨を伝えたところ全く相手にされなかったそうです。そもそも小池知事は『音喜多』という名前を聞くのも嫌悪するほど。維新に確たる票があるわけでもないので当然のことですが」
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「石丸を応援したら除名にする」…?
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藤川晋之助氏(筆者撮影)
支援できる候補を失った東京維新は「静観」への縛りを強めていく。前述の緊急全体会合で、音喜多氏は地方議員に対してこう厳命したという。
「すでに石丸陣営で維新の議員を見かけたという情報がある。『静観』とは一切タッチしないこと。バレないと思っても必ずバレるので肝に銘じてほしい」
ある維新関係者はこう証言する。
「藤川さんが東京維新の中心にいたのは2019年頃までの話で、音喜多さんと柳ヶ瀬さんが中心になってやるようになってからはパージされてしまった。彼らにとって藤川さんはあれこれ言ってくる疎ましい存在だったからです。だから、今回もどうしても石丸だけは推したくないというのが本音だったんでしょう」
こうした東京維新の姿勢に藤川氏は憤りを隠さない。
「本当に器が小さいですよね。音喜多も柳ヶ瀬も私がいなかったら参院選で当選してないですよ。それなのにそうやって『応援したら除名だ』といわんばかりの圧力をかけるというのは、維新自体がもう既得権益になってしまっているということですよ」
こうした状況に地方議員からも「特定の候補を応援しないならば自主的に好きな候補を応援したい」という声が出てきた。
告示前日には世田谷区の稗島進区議と町田市の矢口まゆ市議が連名で「組織として特定の候補を支援しないのであれば、自らの自治体の利益のために最もふさわしいと考えると知事候補者がいる場合、その候補者を支援する事は政治家として当然の行動ではないでしょうか」として、柳ヶ瀬代表宛に要望書を提出した。
だが、この要望は翌日にあっさりと却下された。
維新とは対照的に勢いを見せる石丸陣営
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石丸伸二氏と小田全宏氏(筆者撮影)
こうして、維新が「静観」によって蚊帳の外に置かれている間に、石丸陣営には告示日までに1億円近い寄付金が集まり、今や2億円を突破している。毎日数回行われる街頭演説ではどこに行っても人だかりで、熱気を帯びている。
石丸陣営で選対本部長を務める小田全宏氏が語る。
「どこからともなく人が集まってくる。しかも同じ人たちが大移動しているわけではなく、行く先々で違う人が集まってきている。本当に不思議な光景です。こんなことは初めての経験です」
こうして選挙戦が始まると盛り上がりを見せる都知事選を前に、音喜多氏自身も「静観」はしていられなかった。
ネット番組で行われた石丸伸二氏と安野たかひろ氏の候補者同士の討論を見た音喜多氏は、調子良くX(旧ツイッター)に次のように投稿した。
<非常に良い議論!石丸氏は既にネット上を中心に音に聞こえる切れ者ですが、それに対峙して互角以上に渡り合う安野貴博氏もすごい!相手に対する質問や指摘も極めて的確>
ところが、「維新は静観じゃなかったのか」という批判の声が上がるや、そのわずか1時間半後には「特定候補を応援している印象を持たれかねないので削除しました」などと投稿し、発言を撤回。「静観」の指示を出しながらも、自らが静観できずに騒いでしまう軽率ぶりを発揮した。
執行部への不満噴出の東京維新で離党者も
そして6月28日、稗島区議が記者会見を開き、離党を表明する。
「稗島氏は昨年の世田谷区議選では区政史上最多となる1万4千票余りもの得票でトップ当選を果たし、現在2期目です。東京維新では中核のメンバーで、来年の都議会議員選挙では世田谷区での立候補が内定していた。稗島さん以外にも東京維新や党本部に対して嫌気が差している人や不信感を抱いている人は少ない。離党を検討している人はまだまだいます」(東京維新関係者)
これに対して音喜多氏はXに「今回、電話やメールによる事前の一報すらなく事務局に離党届が提出され、補欠選挙の初日にわざわざ党にダメージをあたえる形で記者会見を開かれたことは大変遺憾です」と嫌味を言った上で、「現在、ひえしま進区議とはやながせ代表も幹事長である私も、一切連絡がつながらない状況です」と投稿した。
この点について、稗島氏を直撃すると、「たしかに後で確認したら、音喜多さんがその投稿をした7分前に着信がありました。たくさんの電話が来ていて鳴りっぱなしだったので気づかなかったのは失礼しましたが、着信があったのはその一度だけです。柳ヶ瀬さんからは一度もありません。また、LINEなどでのメッセージも全くないです」と驚いた表情を浮かべた。
維新を離党した理由についても聞いた。
都知事選に絡まないという決定に至ったプロセスがどうしても納得いかなかった。地方議員の声を重視するのが維新の良さだったはずですが、我々地方議員の声は一切聞こうとしなかった。独自候補の擁立ができない以上、どういう対応をするかを聞いたら多くの議員は『誰かを応援したい』と言ったはずです。しかし、東京維新は17日のオンライン会議でいきなり『静観』という方針を打ち出した。
かつては自由闊達でチャレンジしていくのが東京維新だったのに、今や完全にトップダウンで物事が決まり、『あれやれ、これやれ』と指示されたことをやるしかない。これでは維新で活動する意味がないと思い、離党しました」
また、ある東京の衆議院支部長は「4月の東京15区補選でも何の総括もなかった」と不満を漏らす。
支部長にはノルマを課されて何度も現地に入ってビラを配った。それなのに『どうして負けたのか』『何が良くなかったのか』といった選挙の結果分析や総括は一切やっていない。これでは我々が15区での惨敗の教訓を生かすこともできない。その上、都知事選では静観しろという。党勢が低下し続ける中、そもそも党や東京維新の方針がわからないので不安を感じています」
2022年の参院選東京選挙区で議席を獲れず、2023年の都議選では1議席しか獲得できず、今年4月の衆議院東京15区補選では自民党候補が出ていないにもかかわらず3位に沈んだ東京維新。結果が出ていないことは明らかだが、トップダウンの政治は強くなる一方だ。今こそ東京維新には本当に「維新スピリッツ」があるのかが問われている。
 
小川 匡則(週刊現代記者)