「小池都知事は天下りを黙認、利用してきた」 元側近が外郭団体社長に就任…「誰もが疑問に思う人事」(2024年7月4日『デイリー新潮』)

“敵”を作ることで注目を浴びてきた小池都知事
キャプチャ
 小池百合子都知事(71)が先行し、前参議院議員蓮舫氏(56)が追う展開となっている東京都知事選。劣勢を挽回したいなら、蓮舫氏は公約に“天下り撲滅”を加えたらどうか。何しろそれは、小池都知事がついぞメスを入れられなかった都の「暗部」なのだから――。【前後編の前編】
 
 ***
 原点回帰の意が込められているのだろうか。
 6月20日に告示された東京都知事選。小池百合子知事が選挙戦初の演説の場に選んだのは、羽田空港から飛行機で約1時間の八丈島だった。小池氏は初当選を果たした2016年の都知事選でも告示翌日に八丈島で演説している。
 それから2期8年。彼女がまばゆいスポットライトを浴びている時、そこには必ず“敵”がいた。そもそも16年の選挙では自民党東京都連を「ブラックボックス」と批判し、都連幹事長(当時)の故・内田茂氏を「都議会のドン」と呼んで攻撃した末に圧勝。都知事に就任した直後には築地市場豊洲への移転を延期、盛り土問題の調査で「小池劇場」を演出した。東京オリンピックパラリンピックの費用削減をめぐり大会組織委員会森喜朗会長(当時)と対立したことも記憶に新しい。20年7月に再選を果たす前後からは“見えざる敵”である新型コロナウイルスと戦うことになったが、そこでも「ステイホーム」「NO!! 3密」などとアピールして脚光を浴びた。
天下りを温存したほうが得だと思っている? 
 そんな小池氏がこれまで決して斬り込んでこなかった、自らの足元に横たわる「都政の暗部」。それこそが天下りの問題だ。
「彼女は“東京大改革”などと言っていますが、“天下り撲滅”を訴えたことは一度もありません」
 そう語るのは、『築地と豊洲』(都政新報社)などの著書で小池都政を批判してきた元都庁幹部の澤章氏だ。
「あえて言うならば、役人を手なずけるために、天下りを温存したほうが得だと思っているから残しているのではないでしょうか。そこに手をつけると、役人からの反撃を受けたり、関係がぎくしゃくしたりする可能性があるから、そういう面倒なことはやめた、という感じだと思います」
 都議の上田令子氏も、
「16年ごろ、小池知事サイドに、都OBの天下り先になっている外郭団体の改革をやったほうがいいと提案したら、彼女も一応“やろう”と言っていたんですが……」
 と、こう話す。
「東京都の副知事や局長たちは知事の推薦で外郭団体などに天下るわけです。その外郭団体の改革に手をつけてしまうと、局長ら幹部をコントロールできなくなって、役所が動かなくなる。ならば逆に生殺与奪の権を持って言うことを聞かせたほうがいい、と方針転換したのだと思います」
外郭団体の社長の座を用意
 権力を維持することにあくなき執念を燃やす彼女らしい考え方ではある。しかし、彼女のごく身近な人物の処遇に、天下りの慣習が“利用”されていたとしたらどうだろうか。その人物とは、小池氏の元特別秘書で、地域政党都民ファーストの会」の代表を務めたこともある野田数(かずさ)氏(50)。
「小池さんは天下りを黙認し、場合によっては利用してきたわけですが、野田さんの件はその象徴的な例と言っていいでしょう」
 と、先の澤氏。
「野田さんは小池さんが知事になった当初から右腕として支えていた方ですが、途中から関係がぎくしゃくするようになったといわれています。そして19年に東京都の外郭団体の一つである『東京水道サービス株式会社』(当時)の社長に就任するのです。仲違いした野田さんを放逐してしまうと何を言われるか分からないので外郭団体の社長の座を用意したのではないか、とささやかれていました」
「誰もが疑問に思う人事」
 東京都幹部の天下り先となる外郭団体には、政策連携団体と事業協力団体がある。都政との関連性が高いのが前者で、「東京水道」もこちらに含まれる。
「『東京水道』は株式会社ではあるのですが、実態としては東京都の水道局丸抱えの外郭団体です。水道局の下請けとして、『東京水道』が水道メーターの検針作業とか、水道管に関係する作業などをやっています。しかし『東京水道』が全ての作業をやるわけではなく、そこからさらに下請けの事業者に作業を下ろしています」(同)
「東京水道」社長の座はこれまで、東京都の水道局長が定年退職した後に天下るポストだった。
「小池さんはそういう経緯を差し置いて、自分の子飼いの、政治的に任用していた人をあてがった。水道事業の経験がない野田さんが『東京水道』の社長に天下るなんて、誰もが疑問に思う人事です。小池さんの命を受けた副知事や総務局長が野田さんでもできそうなポストを探し、『東京水道』社長という案を提示したのでしょう」(同)
 当の野田氏に聞くと、
「オレ、天下りって言われてんの? いやいや、ごめんなさい。そんな話、聞いたことないから」
 とした上で自らの“実績”を次のように語る。
「私が社長になってから格段に利益が上がっていますので。職員の処遇改善もね。今までの元水道局長だった人たちはやってこなかったけど、私になって毎年のようにやってるから」
 小池氏の思惑通りというべきか、充実した「社長ライフ」を送っているようだ。
「都が自分たちで直にやればいい」
 小池氏周辺にくすぶる「疑惑」は野田氏のケースだけではない。
「ヤフージャパン」の社長、会長を務めた後、19年に東京都の副知事に就任した宮坂学氏(56)。小池氏に抜てきされ、都政のDX化を担当している人物である。
「宮坂さんは23年に新たに設立された外郭団体、一般財団法人『GovTech東京』の理事長にも就任しています」
 と、先の上田都議は言う。
「DXの取り組みなんて、別に外郭団体を立ち上げるのではなく、都が自分たちで直にやればいいのです。『GovTech東京』を挟むことで、議会のチェックができなくなりますし、団体人件費や施設維持費など諸経費のコストが別途発生するわけです。それを負担するのは他ならぬ都民なのです」
 先の澤氏もこう話す。
「『GovTech東京』は宮坂さんが副知事を辞めた後に仕事をする場所として新たに設立したように見えます。『GovTech東京』という名前からして意味がよく分からないし、何をしているのかもいまいち伝わってきません」
本人に取材すると…
 宮坂氏について東京都に取材を申し込んだところ、以下の回答が寄せられた。
「GovTech東京は、これまで推進してきたデジタル化の歩みを加速し、区市町村を含めた東京全体のDX実現へとさらにステージを引き上げるため、昨年7月に設立しました。GovTech東京の理事長には、グローバルな視座と質の高いサービスを生み出す能力・実績、さらに行政の仕組みを理解し、区市町村と協働できる手腕が求められることから、法に基づく手続きを経て、宮坂副知事がGovTech東京理事長に選任されています」
 宮坂氏がデジタルに通じているのは間違いないとはいえ、新たに「GovTech東京」という外郭団体を設立する必要があったのかどうか。甚だ疑問と言わざるを得ない。
 後編「『一日中ボケッとしていても報酬は1500万円だった』 東京都の『天下り天国』を経験者が明かす」では、報酬が1500万円を超える「副知事」の天下り先の詳細や、実際に天下りをしている東京都OBらの“弁明”などと併せて詳しく報じている。
週刊新潮」2024年7月4日号 掲載