米国で「王にならなかった男」といえば…(2024年7月4日『毎日新聞』-「余録」)

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大統領在職中の公的行為は原則的に「免責特権」が適用されるとの初判断を示した米最高裁判事。ロバーツ長官(下段中央)を含めた保守派が6人、リベラル派が3人の構成だ=AP
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大統領の「免責特権」を認める判決を出した米最高裁=AP
 米国で「王にならなかった男」といえば、建国の父、ジョージ・ワシントンを指す。独立戦争の司令官として絶大な権限を握り、実績と人気を背景に初代大統領に選ばれた。なろうと思えばなれたという含意がある
▲実際に軍幹部から暗に国王就任を求める手紙を受け取ったが、拒否したという。大統領3期目も求めずバージニア州の農場に帰り、2期で引退の前例を作った。軍人ナポレオンが仏皇帝に即位する7年前だ
▲「米国に王はいない」。バイデン米大統領は建国以来の精神を強調し「危険な前例」と批判した。大統領在任中の公的行為に「免責特権」が適用されるという米最高裁の新判断である
▲「大統領は後の訴追の可能性を恐れることなく、大胆に行動する必要がある」。これが保守派判事の多数意見という。大統領選に向けて足かせがとれたトランプ前大統領が「大きな勝利」と喜んだのは当然だ
▲大統領が選挙結果を覆そうとしても「おとがめなし」なら「法の下の平等」はどうなるのか。免責の範囲はどこまでか。リベラル派判事は「今や大統領は法の上に立つ王」で軍事クーデターすら免責されかねないと警告する
▲きょう4日は米独立記念日。ワシントンは大統領就任演説で「共和政治の運命は究極的には米国民の手に委ねられた実験の結果にかかっている」と語った。2年後の独立250年を前に実験はなお継続中か。過去2回の大統領選で米国の書店にあふれたトランプ本の題の一つが「王になろうとした男」だった。