NHKの受信契約総数が過去4年間で100万件以上減っていることが、6月25日に発表された2023年度決算で明らかになった。受信料で運営される公共放送にとって、契約総数の減少は死活問題。人海戦術に頼っていた契約獲得手法の見直しで、十分な営業活動ができなかったことが主な原因とされるが、インターネット社会の進展で「テレビ離れ」も進む中、減少トレンドを抑えることはできるのだろうか。(文化部 旗本浩二)
23年度決算、収入減は織り込み済み
23年度決算によると、一般企業の売上高に当たる事業収入は前年度比433億円減の6531億円。事業支出は同34億円減の6668億円で事業収入を上回り、1989年度以来34年ぶりの赤字決算となった。昨年10月に過去最大幅となる受信料1割値下げを実施したのが大きく影響し、事業収入の大半を占める受信料収入は6328億円と、同396億円減で過去最大の下げ幅となった。
大規模な値下げを実施した以上、受信料収入が減るのは織り込み済みだが、中長期的に見て懸念すべきは、受信契約件数や支払い状況だ。放送法では、テレビ所有者は受信契約義務を負うため、NHKはテレビを持ちながら契約していない人に新規の契約を促す営業活動を行っている。昨年度末時点での契約総数は4107万件で、予算策定時の年間獲得目標は上回っている。
しかし19年度末の契約総数は4212万件で、その後4年で100万件以上減少している。契約対象数自体も同じペースで減っているのであればやむを得ないが、こちらは4年前より推計86万件減で、契約総数の減少トレンドの方がより厳しい状況だ。また、たとえ契約していても1年以上支払いのない「未収数」は昨年度末、166万件で、72万件だった19年度末と比べると倍以上となっており、不払い者の増加トレンドも明らかになっている。
人海戦術で契約獲得の歴史
契約総数の減少傾向などの要因について、NHKの担当者は25日のブリーフィングで「一番大きいのは営業スタイルの大幅な転換」と明かした。受信契約に関しては、契約者が死亡したり、実家に帰ったりすることによる解約が毎年発生。これを上回る新規契約がないと契約総数は減少する。それを確保するためにNHKでは長らく、営業スタッフの訪問活動による人海戦術で契約を獲得してきた。
ところが、これに要する経費が高すぎるとの批判が根強く、ついに昨年度、営業の中軸だった外部の専門会社による契約収納活動を終了した。現在では、放送やインターネットでの呼びかけのほか、住所の記載があれば相手先の名前が分からなくても配達できる「特別あて所配達郵便」を活用。正当な理由がない未契約者に対する割増金制度も導入されている。
営業スタイル変更で負のトレンド加速
当初はこうした新手法が功を奏し、新規契約に結びついたが、テレビを持ちながらいまだに契約を結んでいない人の多くは、NHKの番組や受信料制度に疑問を持つ人も多い。こうした相手には、担当者が直接面会して公共放送の意義などを説明し、先方の意見にもじっくりと耳を傾ける地道な努力も必要で、未収者に対しても同様の丁寧な対応が欠かせないとの声が営業現場には根強い。つまり、経費節減のために急激に営業スタイルを変更したことで、かえって負のトレンドを加速させたようだ。
また、昨年10月からは、受信契約を結ぶ親元を離れて暮らす学生の受信料を全額免除する対象を拡大したことも、契約総数を引き下げた。とはいえ、営業スタイルの変更も含め、こうしたNHK側の事情だけが契約・支払いに関する負のトレンドにつながっているのだろうか。コロナ禍や物価高が影を落としているのはもちろんだが、25日に記者会見したNHK経営委員会の古賀信行委員長は、「いわゆる“テレビ離れ”というのもあり、いろいろな社会的変化もある」と指摘した。
契約総数の減少にテレビ離れが影響しているかどうか判別する指標はなく、ブリーフィングで担当者も「どう影響しているのか現時点では答えるのが難しい」とした。ただ、ネット時代の今、わざわざ受信契約を義務付けられるテレビを持つ必要はないと考える人が若い世代を中心に増えているのは事実だ。たとえテレビを持っていながら未契約だったり、既に契約しているが不払いだったりする人も、今後はテレビのない生活を選ぶ可能性は十分ある。