障害者加算は、生活保護費の中で食費や光熱費などとして支給される「生活扶助費」の一部。一定程度障害のある人の生活費を補填(ほてん)する目的で支給されている。秋田市では月額1万6620円。
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秋田市は昨年11月、誤って加算対象外の人に支給していたと発表。2018年12月~23年11月に精神障害者117世帯120人に対し総額8100万円を誤支給したとしている。
原因について市は、認定時の確認不足とする。しかし、精神障害者に対する障害者加算の認定方法が身体障害者に比べて複雑になっている制度そのものへの批判もある。
身障者は身体障害者手帳か障害年金証書を持っていれば、いずれか高い方の等級に基づいて加算が認められる。だが、精神障害者は障害年金の「受給権」の有無で認定方法が異なるためだ。
過去に年金保険料を納めていないなどの理由で受給権がない場合は精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)を持っていれば認められるのに対し、受給権がある場合は手帳だけでは加算が認められず、年金を申請して初めて認められる形となっている。しかも、申請が却下されれば加算も打ち切られる。
このため、障害の程度が同じでも、年金受給権の有無で加算の認定結果が異なるケースが発生。支援団体などは「保険料を払っていた人が損をする」と批判している。
県と県内の複数の福祉事務所もこうした状況は不公平だとして、国に見直しを求めている。19年度から5年続けて意見書を提出しており、県地域・家庭福祉課は「加算の認定に不公平が発生しているため、苦情が寄せられている」と説明。また、障害者の保護者らでつくる「きょうされん(旧共同作業所全国連絡会)秋田支部」なども是正を求めている。
制度について厚生労働省社会・援護局保護課の担当者は「精神障害者は症状が改善することがあり、身体障害者とは障害の種類が異なるため、加算の認定方法も異なる」と説明。その上で「精神障害者の加算認定はまずは障害年金の支給状況で決める。しかし、年金受給権がない人はそれができないので精神障害者手帳で判断する」と語る。当事者や地方から不公平だとの意見があることは認識しているとしつつ、すぐに見直す予定はないとする。
秋田市によると、今回の誤支給は「精神障害者手帳のみで加算を認めていた」ものが大半を占める。市保護第二課は「加算の判定が容易な身体障害者であれば発生しなかった誤り」とし、国に改正を求めることも検討している。
加算を打ち切られた障害者数人は昨年秋、市の加算打ち切り決定の取り消しを求めて県に不服を申し立てた。申し立てを支援する秋田生活と健康を守る会は「市が打ち切った加算は、身体障害者であれば受けられた可能性がある。認定方法には精神障害者への差別がある。制度を見直し公平にしてほしい」と求める。
生活保護制度に詳しい花園大(京都市)の吉永純教授は「身体障害者と同じように、障害者手帳を持っていれば加算の対象とすべきだ」と指摘した。
約100万円返還の連絡受けた人も
生活保護費の障害者加算の「誤支給」を巡っては、秋田市は今も返還を求める姿勢を変えていない。対象とされた精神障害者の50代男性は「正当な生活費と認識して既に使ってしまった。返すための資金はない」と訴える。
うつ病を患う男性の下に昨夏、市職員から加算の支給対象外だったとの連絡がきた。加算は打ち切られ、約100万円を返還する必要があると告げられた。
蓄えはなく、精神的に追い詰められている。食欲もなくなり、不安で眠れないという。「本来守ってくれるはずの生活保護制度にここまで苦しめられるとは」と憤る。
花園大(京都市)の吉永純教授は「返還請求は生活保護利用者の自立を阻害する」と、秋田市の対応を批判する。
精神障害者手帳は2年ごとに更新が必要なため、更新の都度、年金受給を申請することで暫定的に加算を受けられる期間がある。秋田市はこれを考慮せずに「年金を受給していなかった期間の加算は全て誤りだった」と判断した。
吉永教授はこの点を疑問視し、「正当に加算を受けられた期間があったはずで、その分を誤りとするのは間違い」と指摘。「仮に『誤支給』だとしても、最低生活費を保障するはずの行政が、自らのミスの穴埋めを利用者に負わせるのは不合理だ」と断じた。
ただ、市は「資力があるのに保護を受けた際は、速やかに返還しなければならない」とする生活保護法の規定を根拠に、「誤支給」分の返還を求めていく考え。その上で、冷蔵庫やコンロなど「自立更生」に充てた分を控除した上で返還額を決めるとし、各世帯を調査している。