「隠蔽指示はあったとみるべき」 逮捕者が相次ぐ鹿児島県警、情報漏えい事件の「キーマン」が明かす県警の“不審な動き”(2024年6月25日『デイリー新潮』)

「事務所に県警のガサが」
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鹿児島県警本部
「本部長による犯罪行為隠蔽(いんぺい)が許せなかった」――。鹿児島県警前生安部長が県警トップを名指しで告発するという前代未聞の事態。複雑に入り組んだその背景事情と腐臭漂う県警の内情を、今回の情報漏えい事件の「キーマン」である福岡のネットメディア代表が明かす。【前後編の後編】
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警察官の盗撮事件を隠蔽した疑惑が指摘されている野川本部長
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 鹿児島県警の不祥事を告発する資料をPDF形式で受け取ったのが、福岡を拠点にするネットメディア「ハンター」代表の中願寺純則氏である。
「資料は受け取ったものの、(「ハンター」に鹿児島県警に関する記事などを寄稿していたライターの)小笠原淳さんと“ウラ取るのが難しいね”と話し合い、ちょっと待つかということになりました。で、時間がたつうちに『ハンター』事務所に県警のガサが入ったのです」
 そう語る中願寺氏が運営する「ハンター」は、2年前から鹿児島県警のさまざまな不祥事を書き続けてきた。その末の家宅捜索だった。
“お前ら腐ってるな”
「全ての始まりは県警OBの息子による『強制性交事件』です。事件があったのは21年9月。被害者は新型コロナウイルスの療養施設で働く女性で、加害者は鹿児島県医師会の男性職員です。この男性職員の父親が県警OBで、そのせいか、鹿児島中央署は性被害を訴える女性の告訴状の受理をかたくなに拒否していたのです」(同)
 この事件の取材過程で中願寺氏はある資料を入手する。県警の内部資料「告訴・告発事件処理簿一覧表」。そこには、問題の強制性交事件のものも含まれていた。
「23年に『ハンター』で『告訴・告発事件処理簿一覧表』について写真付きで記事にしたのですが、県警は内部資料の流出を一向に公表しようとしませんでした。そこで今年2月、私はその資料を持って県警に行き、“これを渡すから流出を認めて謝罪してほしい”と迫った。ところが県警の職員はかたくなに受け取りを拒否。私は“お前ら腐ってるな”と捨てぜりふを吐いて帰ってきました」(同)
「まさか報道機関にガサ入れすることはないだろうと…」
 県警の内部資料などを漏らしたとして県警曽於(そお)署の藤井光樹巡査長(49)が逮捕されたのは4月8日。「ハンター」事務所に家宅捜索令状を携えた警察官らがやって来たのも同じ日だった。
「『ハンター』は報道機関です。まさか報道機関にガサ入れすることはないだろうと高をくくっていたら、朝、ピンポンと鳴って“鹿児島県警です”と。その時に携帯電話もパソコンも持っていかれてしまいました。その中に、4月3日に小笠原さんからPDFで受け取っていた今回の文書も入っていたのです」(同)
 中願寺氏は4月21、23日には県警の事情聴取も受けた。
「元々は参考人としての事情聴取と言われていたのですが、後に情報漏えいに関わった疑いがあるとして、被疑者としての取調べになります、と言われました。もちろん情報源の秘匿で何も話せませんから、取調べの2時間の間、ずっと黙っていました」(同)
「隠蔽指示はあったとみるべき」
「ハンター」事務所の家宅捜索により、内部の不祥事が漏れていることを把握した県警の動きは速かった。まず5月13日、トイレで盗撮したとの容疑で枕崎署の巡査部長を逮捕。そして同月31日、情報漏えいの疑いで鹿児島県警の本田尚志・前生活安全部長(60)を逮捕したのだ。
「私も小笠原さんもあの資料を送ってきたのが本田さんだったというのは逮捕後に知りました。本田さんが警察で使っていたパソコンを解析したところ、われわれに送ってきたのと同じ資料のデータが出てきたことで漏えい元だと分かったようです」
 と、中願寺氏は言う。
「枕崎署員の盗撮事件については、情報が漏れていることが分かったので、『ハンター』に書かれる前に急いで立件したのでしょう。あれは昨年12月の事件で、本田さんが退職する今年3月末には捜査は終わっていたのだから、その時点で立件されていないのはおかしい。やはり野川明輝本部長(51)による隠蔽指示はあったとみるべきでしょう」(同)
 無論、「ハンター」への家宅捜索や本田氏の逮捕を最終的に決断したのも、野川本部長その人であろう。腐臭漂う鹿児島県警で、彼はいくつの罪を闇に葬ったのか。
 
週刊新潮」2024年6月20日号 掲載
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