パワハラ疑惑で百条委員会設置の兵庫県知事 告発文を書いて、嘘八百呼ばわりされた県職員(60)は今どうしている?「3月末で退職するつもりだったのに…」(2024年6月23日『デイリー新潮』)

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兵庫県の斎藤元彦知事
 兵庫県の斎藤元彦知事(46)のパワハラ疑惑などをめぐり、6月13日、同県議会では51年ぶりとなる百条委員会(地方自治法100条に基づく調査特別委員会)が設置された。県職員の告発文から始まったこの問題。告発内容の真偽を見極めるための百条委員会ではあるものの、告発した県職員に対する処分そのものが究極のパワハラではないかという声が挙がっている。
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 全国的にはあまり詳しく報じられていないこの問題を改めて振り返っておこう。
 事の発端は、3月12日付けで一部の県議らに送られた文書だった。「斎藤元彦兵庫県知事の違法行為等について」と題され、知事のパワハラや違法行為、贈答品受領などの問題が7項目に分けて綴られていた。
 3月27日、4日後の31日に退職の予定だった県民局長(60)に“退職保留処分”が下された。当然、この日の定例会見で、記者から“異例の人事”を問う声が上がり、斎藤知事は次のように答えた。
斎藤知事:当該者につきましては、県民局長として相応しくない行為をしたということ、そして本人もそのことを認めているということで、本日付で県民局長の職を解きました。
――もちろん記者も県民局長が告発文を送ったことによる人事だとわかっている。
記者:退職を取り消した職員に関してですが、組織の中で誹謗中傷するケースや手紙が出回ることは稀にあるかと思います。今回、退職4日前に退職を取り消したのは、知事として看過できないと判断したのですか? 
斎藤知事:副知事とも相談しながら対応しました。(中略)事実無根の内容が多々含まれているということなので、名誉毀損や信用失墜、綱紀粛正ですから、ここは看過できない。業務時間中なのに嘘八百含めて文書を作って流す行為は、公務員としては失格ですので、被害届や告訴などを含めて法的手段を進めているということになります。
記者:本日発表の人事異動に関して流布された文書には、知事に関する記述が含まれているという趣旨でよろしいでしょうか? 
斎藤知事:私もありました。
嘘八百でなくなる
 告発文を見ると、ほとんどが斎藤知事に関する内容である。なぜ強気の発言をしたのか。とある兵庫県会議員は言う。
「斎藤知事はすぐに怒鳴るし、気が短いことで有名です。だから会見では、記者から告発文についてツッコまれてキレちゃったんですよ。まだ告発文を書いた県民局長から内容についての聞き取りもしていないのに、相応しくない行為、事実無根、嘘八百とまで言い切っちゃった。斎藤知事は東大卒の元総務省キャリア官僚ですが、人事の経験がないから手続きを知らないんですよ」
 4月16日になると、地元メーカーに視察に訪れた際に高級コーヒーメーカーを受け取ったのは、斎藤知事ではなく同行していた産業労働部長だったことが明らかになる。
「斎藤知事本人ではないけれど、告発文の通り、確かに受け取った者がいたわけです。これで“嘘八百の告発文”ではないとマスコミも気づいた。そもそも告発した県民局長は、人事課長や教育次長、管理局長(現・職員局長)も勤めた最高幹部です。職員からの信頼も厚い優秀な人なので、あの人が書いた告発文なら間違いないという声もありました」
 斎藤知事は4月18日の会見で、記者から「嘘八百とは言い切れなくなった」と質問されている。
斎藤知事:いろんな捉え方があると思います。全てのことが事実か事実でないか、と同時に、核心的なところが本当か本当じゃないかも大事なので、それを含めて人事当局が全体的な調査をしています。その結果を待ちたいと思います。
 急に歯切れが悪くなった。そして5月7日、内部調査の結果が発表された。告発文の核心的な部分において全てが事実無根というものだった。結局、県民局長には停職3カ月の懲戒処分が下された。
究極のパワハラとは
「ちなみに、コーヒーメーカーを受け取った産業労働部長は、半年以上にわたり返却を怠っていたことが問われて訓告処分となりました。訓告なんてボーナスが減るわけでもありませんから、県民局長と比べてずいぶん差のある処分だと思いました」
 だが、さらに事態は一変する。内部調査に協力した弁護士が、告発文で斎藤知事の政治資金疑惑を指摘された団体の顧問弁護士だったことが判明したのだ。
「内部調査は信用できないということで、それなら百条委員会を設置しようという流れができたのです」
 すると今度は、片山安孝副知事が県議会最大会派の自民党の控え室を訪れ「自分の辞職と引き換えに百条委員会の設置を考え直してくれないか」とお願いしたという。
「こうした動きがかえって、百条委員会の設置を早めることになりました。百条委員会は定数86票のうち50票の賛成で決定しました」
 地方自治法第100条に基づく特別調査員会(百条委員会)は伝家の宝刀とも呼ばれる。証言を拒めば6カ月以下の禁錮、または10万円以下の罰金。虚偽の証言をすれば3カ月以上5年以下の禁錮となるからだ。
「県職員にアンケートをした結果、回答した21人中7人が知事や幹部のパワハラ、6人が知事や幹部への物品供与を指摘した回答がありました。もともと斎藤知事のパワハラは有名で、県職員たちは『今日はこんなことを言われた』とかパワハラ内容をLINEで共有しているそうで、かなり嫌われているんです。また、彼は土産好きとしても名高く、松葉ガニの視察に行ったときに土産にと差し出され、随行職員が『こんな高級なものいただけません』と断ったのに、『その分も俺がもらっていく』と持ち帰ったとか……」
 ところで、告発文を書いた県民局長は3月末で退職のはずだったが、5月になって停職3カ月というのもおかしな話ではないか。
「県民局長はこの3月末で役職定年を迎えました。定年そのものは来年3月なのですが、兵庫県の慣例としてすでに退職希望を提出し、本人も辞めるつもりだったそうです。それが退職4日前に懲戒処分を与えるために覆され塩漬けにされてしまっているわけです。聞くところによれば、本人にろくに事情も聞かず、いきなり停職3カ月だそうです。仮に今後、百条委員会で告発文が事実と認められたら、この処分はどうなるんでしょうね。今ではこの人事自体が究極のパワハラではないかと言われ始めています」
 7月に実質的な審議に入る百条員会、果たして――。
デイリー新潮編集部