「五月、六月実がなれば、枝から…(2024年6月18日『毎日新聞』-「余録」)

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ひょうによって傷がついた梅の実。暖冬で不作が伝えられる=和歌山県みなべ町で2024年4月9日午後0時10分(和歌山県提供)
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日の丸弁当を食べる父子。戦時中は食料不足と愛国心高揚のため、日の丸弁当が奨励された
 「五月、六月実がなれば、枝からふるいおとされて」「もとよりすっぱいこのからだ、しおにつかってからくなり、しそにそまって赤くなり」「七月、八月あついころ、三日三ばんの土用ぼし」。明治末からの尋常小学校教科書に載った「うめぼしのうた」だ。身近な食べ物の作り方がよくわかる
▲季節を示す暦の七十二候で今は「梅の子(み)黄ばむ」。青い実が熟して黄色く色づき始める。梅干し作りを始めるのに適した時期だ。スーパーにも黄ばんだ梅の実が並ぶ
▲今年は最大の産地の和歌山をはじめ、各地で不作が伝えられる。値段も高い。暖冬で開花が早く実が減った上、カメムシの大量発生やひょうの被害もあり、良質な品が少ないそうだ
▲梅雨の別名に黄梅雨(こうばいう)がある。元々、中国で梅の実が熟す頃の長雨を梅雨と呼んだといわれる。だが、今年の梅雨はそれより遅れている。真夏日が続くと、やはり温暖化の影響かと心配になる
▲梅干しは中国から伝わり独自の発展を遂げた。庶民の味になったのは江戸時代。戦時中の「日の丸弁当」奨励で生産が増えたが、近年は米離れとともに梅干し離れが続く。産地は高値でその傾向が加速することを警戒している
▲「しわはよってもわかい気で、小さい君らのなかま入り、うんどう会にもついていく」。冒頭のゆかいな歌は続く。クエン酸が豊富な梅干しには殺菌や疲労回復の効果があり、例年、梅雨から夏に消費が増える。健康に敏感なアジアからの訪日客に売り込むのも伝統食を守る一案か。