「わが国の人権問題に対する意識を国際社会にしっかり示す」。2021年9月の自民党総裁選で、岸田文雄首相は目玉政策として、国際的な人権問題を担当する首相補佐官ポストの新設を打ち出した。政権発足後、中谷元・元防衛相を起用し、人権外交を展開。しかし、昨年9月の内閣改造で、首相肝煎りのポストは消滅した。約2年にわたり人権担当補佐官を務めた中谷氏は、同ポストの復活を望む声は多いと明かす。「各省にまたがる人権政策を取りまとめる機構やポスト、少なくとも国際人権問題担当相は必要だ」と語る同氏に、日本の人権外交について聞いた。(時事通信政治部 村上顕也)
【図解】岸田内閣の支持率推移
◆ウクライナ対応で奔走
―首相補佐官の役割は。
▽21年11月、第2次岸田内閣の発足に伴い国際人権問題担当の補佐官に任命された。首相から国内外の人権問題について、人権政策を補佐し、政府の取り組みを進めるよう指示があった。
当時、中国では香港における言論の自由や民主化運動への弾圧、新疆ウイグル自治区での強制労働などの人権問題が顕在化。世界的にもアフガニスタンのイスラム主義組織タリバンによる首都カブールの制圧、ミャンマーの軍事クーデターなど深刻な人権侵害が広がっており、日本も迅速な対応が求められていたことが補佐官任命の背景にあったと考える。
―具体的な業務は何か。
▽補佐官は、いわば首相のアドバイザー。閣僚のような権限や指揮権はない反面、首相に直接進言できる。アドバイスを聞き入れてもらえれば、ある意味で閣僚よりも機動的に政策課題に取り組むことが可能だ。
例えば、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻直後、日本政府はウクライナからの避難民を受け入れるかどうかの判断に迫られていた。私は4月に政府専用機で林芳正外相(当時)らとポーランドのウクライナ国境付近に行き、ポーランド政府の難民受け入れ状況を視察した。ポーランドは難民に対し非常に寛容で、ポーランド人が難民を自分の家に招いて心から受け入れている様子が印象に残った。
日本も祖国を離れた人々の厳しさや苦しさを理解し、外国人を受け入れて差別なく親切にするべきだと実感し、帰国後、補佐官として首相や法務省にウクライナ避難民の受け入れを進めるよう進言した。最終的には古川禎久法相(当時)や関係者の判断で日本でもウクライナ避難民の受け入れが加速した。
◆省庁横断の取り組み必要
―補佐官として取り組んだことは。
▽政府の人権政策は複数省庁にまたがり、まとまった取り組みが必要だと感じていた。そのため就任後、内閣官房に二つの省庁横断の会議体を設置した。
一つは局長級で構成する「ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議」だ。企業が強制労働などの人権侵害を防ぐため、「人権デューデリジェンス(DD)」を促進することが目的。22年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」をまとめた。23年4月からは政府の公共調達で、入札希望者と契約者にガイドラインの尊重を要請している。
もう一つは課長級で作る「国際人権問題に関する関係省庁会議」。外務省、経済産業省、法務省などの人権担当者約10人で構成し、技能実習生制度や難民の受け入れなど、日本国内の人権問題について中長期的な目線で制度を検討・点検した。
◆中国の人権状況に懸念
―海外の人権状況は。
バチェレ氏に対しては新疆の視察に際し、実情をしっかりと見て国連に報告書を出すよう強く要望をした。バチェレ氏は同年8月、国連に中国の新疆における人権侵害を認める非常に立派な報告書を公表した。
しかし、国連人権理事会では中国側の根回しによって、特にグローバルサウスの国々が新疆での人権侵害を討議に取り上げる決議案に反対し、結果として報告書に関する議論ができなかった。
これは欧米を含め日本にとっても非常に遺憾なことで、力や圧力で国際社会の人権擁護に関する意見を封殺したり、原理原則を変えたりすることは許してはならないと感じた。
◆人権担当相の必要性
―補佐官を外れて感じることは。
▽政府の人権政策を推進するため、NGOや企業関係者から人権担当補佐官や会議体の活動を残すべきだという意見をもらうことも多い。
人権問題は複数省庁が所管し、省庁の垣根を越えた決断は難しい。そのため、各省にまたがる人権政策をまとめる機構やポスト、少なくとも国際人権問題担当相を置き、指揮機能を持ちながら政策を進めていくことが必要だ。
閣僚には権限があるので、それぞれの省庁に呼び掛けて物事を決めることができる。役人任せにせず、政治家が責任を持って決断をすることが重要だ。
―日本の人権政策へ提言は。