都知事選は国政の代理ではない!真っ先に争点にすべき「1400万都市・東京」が抱える大問題(2024年6月10日『JBpress』)

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東京都知事選への出馬を表明した蓮舫氏(写真 つのだよしお/アフロ)
 
 7月7日の投開票日(6月20日告示)まで1カ月を切った東京都知事選挙。メディアは小池百合子知事と蓮舫参院議員の女性対決をあおり立てているが、肝心の小池知事はいまだ出馬表明せず。今回の都知事選は、蓮舫議員のほかに石丸伸二安芸高田市長やタレントの清水国明田母神俊雄航空幕僚長ら30人を超す候補者が立候補するとみられ、過去最多を更新しそうだ。これから東京を舞台に大掛かりな選挙戦が展開されるが、ジャーナリストの山田稔氏が本当の意味で「争点」にすべきポイントを検証した。
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出馬の意向を明確にせず沈黙を守る小池百合子知事
■ 最大のテーマは「反自民」ではなく「東京一極集中」だ
 「自民党政治の延命に手を貸す小池都政をリセットする先頭に立つ」──。6月27日の立候補表明で蓮舫参院議員が「反自民・非小池都政」の姿勢を表明した。多くのメディアがさっそくこのフレーズに飛びついた。
 しかし、それは第一義的なテーマではないはず。東京都知事選は国政の代理選挙ではない。首都東京のあり方、東京都民の暮らしの課題に真正面から取り組み、最善のビジョン、解決策を政策で追い求め有権者に提示することにあるはずだ。
 1400万人が暮らす首都に立ちはだかる最大の課題は、何といっても「東京一極集中」の問題だろう。国の地方創生政策とリンクするテーマだが、東京都としてなさねばならないことも多々ある。決して国だけの政策ではないのである。
 東京一極集中がもたらしている弊害、今後危惧されるリスクをチェックすれば、おのずと都が取り組むべきテーマが見えてくる。東京都の人口は1417万275人。もはやニュースにもならないが過去最多である。日本の人口1億2393万人の11.4%が集中している(いずれも5月1日時点の数字)。
 その結果、何が起きているのか。都民の生活に密着したテーマでいえば、地価高騰に伴う住宅価格の異常なまでの急騰だ。
 不動産経済研究所のデータによると、2023年度(2023年4月~2024年3月)の東京23区の新築マンションの平均価格は1億464万円まで高騰した。埼玉県4890万円、千葉県5067万円の2倍以上である。もはや普通のサラリーマン世帯には手が届かない存在だ。その結果、新築のタワーマンションを購入しているのは、投資目的の国内外の富裕層や2人の年収が1500万円以上のパワーカップルなどと言われている。
 中古物件も高騰しているから、年収1000万円以下の子育て世代は、千葉や埼玉といった近県に住み家を求めるしかなくなっているのが現状だ。
 東京のマンション価格高騰の背景には、資材価格や人件費アップに加えて、円安や株高による投資マネーの流入が大きいとみられている。東京の超高級マンションは、海外富裕層による日本の不動産買いあさりの象徴といっていい。
 ここに何らかの対策を打つことはできないだろうか。東京都独自の条例で外国人による購入枠を規制することぐらいはできそうなものだ。「国がやらないから東京が…」は、ディーゼル排出ガス規制や子育て支援金など歴代都知事の十八番ではなかったか。
■ リモートワークが減れば“通勤地獄”がまた復活か
 “通勤地獄”も一極集中の弊害である。
 国土交通省の「三大都市圏の平均混雑率(令和4年度)」を見ると、東京圏の混雑率は123%で前年度の108%を大きく上回った。大阪圏は109%、名古屋圏は118%。東京圏(主要区間)のワースト3は次の通りだ。
(1) JR京浜東北線(川口→赤羽)142%
(2) JR中央線(中野→新宿)139% 
(3) 東京地下鉄(千代田線/町屋→西日暮里)139%
(4) 東京地下鉄東西線/木場→門前仲町)138%
 コロナ前に比べリモートワークが増えたこともあり、多少の改善は見られるが、それでも痛勤ラッシュの解消には程遠い。2016年の都知事選で「7つのゼロを目指します」と選挙公報に公約を掲げた小池候補(当時)。そのうちの一つが「満員電車ゼロ」だった。
 だが、知事主導の下での成果はゼロに近く、コロナ禍が混雑率を引き下げたのだから皮肉なものだ。リモートワークから出社の動きが増えてきている中、通勤地獄が再燃しかねない。中央線などはホームドアの設置も未整備で、人身事故による遅れが日常茶飯事。通勤電車を巡る環境は抜本的な対策が望まれるところだ。
■ 「死者6000人、帰宅困難者453万人」首都直下地震への備えは大丈夫か
 東京一極集中の最大のリスクは大規模災害が発生したときの甚大な被害だ。
 都は2022年に首都直下地震の東京都の新たな被害想定をまとめた。都心南部直下地震(M7.3)が発生した場合には、建物被害19万4431棟、死者6148人、避難者299万人、帰宅困難者453万人を想定している。
 内閣府の被害想定では首都圏の死者は最大2万3000人、経済被害は約95兆円に達するとしている。
 被害想定策定時よりも人口が増え、2024年以降に完成する超高層マンションが東京23区内で130棟にも及ぶ(不動産経済研究所調べ)という状況の中で、いかに被害を減らしていくことができるのか。減災に向けた取り組みの具体策を知事選候補は示すべきだ。
■ 少子高齢化対策に「マッチングアプリ開発」の笑止千万
 少子高齢化問題も避けて通れないテーマだ。
 東京都の人口に関するデータから、出生数と高齢化に関するものをピックアップした。
(1) 出生数8万6347人(2023年)→8年連続減少
(2) 合計特殊出生率*注1.04(2023年/全国1.20)→7年連続低下
(3) 高齢者人口311万4000人(2023年9月)→前年比1000人増、高齢化率23.5%
(4) 75歳以上176万1000人(同)→過去最高*注:15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの。「コーホート合計特殊出生率」と「期間合計特殊出生率」の二通りがあり、一般にどちらも「一人の女性が一生の間に産む子供の数」と解釈される。
 一刻も早く実効性のある対策を講じないと東京の明日はない。それなのに東京都がいま少子化対策の一環として進めているのが、マッチングアプリの開発というから仰天した。
 「AIマッチングシステム」という取り組みで、〈TOKYOふたりSTORY〉なんてキャッチコピーが付いている。結婚を希望する18歳以上の都内在住・在勤・在学の独身者を対象に、本人確認書類、独身証明書、年収確認書類などを提出して登録。AIによる紹介で相手と会ったり、お見合いができるようになるというもので、令和6年度の早い時期の本格稼働を目指しているという。
 ちょっと違うんじゃないか。東京都の人口移動報告を見ると、20代は8万2000人以上の転入超過となっている。男女共に若者が全国から集まっているのだ。それでも結婚や出産に結びついていかないのは、最大の問題が「出会い」ではなく、生活環境、雇用環境、収入といった社会的な条件にあるからだ。
 そこの対策に手を付けないで年間3億円もの予算をアプリ開発につぎ込んだところで効果はしれている。高校授業料の実質無償化や第2子の保育料無償化など子育て支援に向けた多少の前進は見られるが、抜本的な少子化対策には程遠い。知事選候補者の公約からどんなアイデアが出てくるだろうか。
■ 「明日の東京をどうするのか」求められる候補者の明確なビジョン
 高齢化の進捗も深刻なテーマだ。
 2025年には全ての団塊世代が75歳以上の後期高齢者に突入する。医療費をはじめとする社会保障コストはどんどん膨れ上がり、一方で後継者難などから中小企業などの休廃業が相次ぐ。独居老人の孤独死、買い物困難、犯罪被害などますます厳しい状況が続く。
 ちょっと検証しただけでも1400万都市・東京が抱える課題は山積している。それだけに都知事選挙の持つ意味は極めて大きなものがある。明日の東京をどうするのか。それぞれの候補者が明確なビジョンを掲げた上で選挙戦を展開していくのが本来の姿である。メディアも個人的なスキャンダルばかりを追うのではなく、まともな政策論争になるような報道に努めるべきだろう。
 最後に、有権者の意識も問われている。都知事選の投票率は昭和46年の72.36%が最高で、近年は50%台。都内の有権者がどれだけ投票所に足を運ぶか。一票の重みを大切にして欲しいものである。
 首都東京の明日を大きく変えるかもしれない都知事選では、都民の民度も問われていることを忘れてはならない。
 
山田 稔