改正入管法の施行 難民を追い返さないよう(2024年6月9日『毎日新聞』-「社説」)

キャプチャ
改正入管法が成立し、国会の前で抗議の声を上げる人たち=東京都千代田区で2023年6月9日午後6時半、和田大典撮影
 保護すべき外国人を追い返すようなことは許されない。
 在留資格がない人の帰国を徹底させる改正入管法が10日に施行される。各地で反対デモが繰り広げられる中、昨年成立した。
キャプチャ2
参院本会議で成立した改正入管法に抗議する人たち=大阪市北区で2023年6月9日午後7時24分、長谷川直亮撮影
 特に問題なのが、難民認定申請を事実上、2回までに制限することだ。3回目以降は強制送還が可能になる。
 滞在を続けるため、審査中は送還されない制度を乱用するケースがあるとの理由から、規定が設けられた。
 しかし、日本は欧米に比べて認定のハードルが高く、何度も申請を繰り返し、ようやく難民と認められることもある。
 ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャの男性は、4回申請しても認められず、今年に入り、裁判を経て認定された。
 人命に関わる重大事である。迫害の恐れがある国への送還は国際ルールによって禁じられている。
 申請者の訴えを踏まえて、審査を尽くす必要がある。回数制限を超えたからといって、機械的に送還するようなことがあってはならない。
 国会審議では、審査の公正さに疑問が呈された。手続きの透明性を高めたり、申請者の出身国の最新情報を集めたりすることを求める付帯決議がなされた。
 出入国在留管理庁は職員らの研修を強化しているという。だが、入国や在留を規制する入管庁が認定手続きに当たる現状は、難民保護の観点から懸念が拭えない。独立した第三者機関が審査する仕組みが必要だ。
 法改正のきっかけは、国外退去処分を受けても帰国しない人が、入管施設に長期間収容されている問題がクローズアップされたことだった。
 人権上の批判を受け、改正法では、「監理人」の下で社会生活を送ることができる「監理措置」が導入された。
 ただ、監理人には入管庁への報告義務が課される。引き受ける支援者や弁護士は少ないとの調査結果もあり、機能しないのではないかと指摘されている。
 外国人の人権を保障するうえで、改正法は多くの問題を抱えている。早急に見直しの検討を始めるべきだ。