鹿児島県警 本部長は説明責任がある(2024年6月7日『産経新聞』-「主張」)

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報道陣の取材に、険しい表情を見せる鹿児島県警の野川明輝本部長=6日午後、県警本部
 鹿児島県警でこの3月まで生活安全部長を務めた元最高幹部が、事件関連文書を流出させたとして、国家公務員法違反の容疑で同県警に逮捕された。
 前部長は勾留理由開示の手続きで「本部長が事件を隠蔽(いんぺい)しようとしたのが許せなかった」と犯行動機を供述した。
 にわかには理解し難い事態だ。県警で何が起きているのか。説明の義務がある。
逮捕されたのは警視正まで上り詰めた本田尚志容疑者だ。生安部長はノンキャリア最高ポストで、キャリア組の本部長を支える最高幹部の一人である。
 元最高幹部の逮捕が異例なのに、野川明輝本部長への反発が動機というから異様極まりない。流出文書は県警の現職警官によるストーカー事案や盗撮事案の不祥事について書いた資料で、表面化を図ったという。
 深刻なのは、同県警では昨年来、資料の流出が続いていることだ。4月には所轄の巡査長を流出元として逮捕したが、100事件近く、300人以上の個人情報が漏洩(ろうえい)し、一部がネットメディアに掲載された。元巡査長は「見返りの情報が欲しかった」との旨を供述したが、こちらも「不透明な事件処理への反発がある」との指摘がある。
 この件で県警は個人情報が漏洩した被害者に謝罪したが、電話で済ませたり、詳しい説明を拒むなどで「誠実さを感じない」と厳しい批判を受けた。
 対応の悪さは本田容疑者の事件でも変わらず、元最高幹部の逮捕だというのにトップの野川本部長は会見に出席せず、コメントを警務部長に代読させた。会見では流出の動機や目的は説明せず、「本部長への反発だと分かっていたから伏せたのか」と疑う向きも出てこよう。
 そう見られること自体が、警察全体の信用を失墜させると、想像できないのか。
 本田容疑者は勾留理由開示手続きで「『最後のチャンスをやろう』『泳がせよう』と言って隠蔽しようとする姿に愕然(がくぜん)とし、失望した」と野川本部長の言動を具体的に供述した。本部長は6日、「2つの事案は容疑者を逮捕するなど、必要な対応がとられた」とし、「容疑者の主張については捜査の中で必要な確認をする」と述べたが、これでは説明になっていない。
 混乱収束と信頼回復へ、本部長は詳細な説明責任がある。