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◇自民の全敗
島根1区は細田博之前衆院議長の死去に伴う「弔い合戦」と位置付けたが、立憲候補に2万5000票近くもの差をつけられ敗北した。島根は1996年の衆院選で小選挙区制が導入されて以来、自民党が全選挙区を独占してきた保守王国だけに、岸田文雄首相にとって無残なものになった。
東京、長崎の2補選はいずれも自民系前職は選挙買収や裏金事件で辞職し、候補者を擁立すらできなかったのが実情だ。当選が見込めなかったとしても、候補者を擁立し有権者の判断を仰ぐという、政権与党として選択肢を示す責任があるはずだ。その責任の放棄が、政治不信を助長させたことを自覚すべきだ。
◇不信は政治全体に
岸田首相が記者会見で、「国民からの信頼回復へ向けて、火の玉になって自民党の先頭に立って取り組む」と述べたのは昨年12月だが、いまだに裏金事件の実態解明すらほとんど進まず、説明責任や政治責任も果たされていない。
その場しのぎを続け裏金議員に対する処罰は中途半端、政治資金規正法の改正案はあまりにも鈍く消極的な姿勢で、自浄作用がないことを露呈している。実態解明と、再発防止のための法改正を行ったうえで、日本政治の構造的な問題を真正面から改革する、新しい政治の創造を期待するばかりだ。
◇立憲自身の実力とは言えない
一方、立憲も手放しで喜んでいるわけにはいかない。勝利の最大の理由は「自民党の自滅」だからだ。
投票率は、東京15区40.70%(2021年衆院選と比べ18.03%減)、島根1区54.62%(同6.61%減)、長崎3区35.45%(同25.48%減)と、いずれも過去最低を更新した。長崎で3人に1人強、東京で5人に2人程度しか投票しなかった現実は、選挙での勝ち負け以前に、政治全体への不信がかつてなく高まっていることを表している。
立憲は野党第1党としての存在を示したが、その結果は敵失の要素が大きく、必ずしも立憲自身の実力とは言い切れない。各種世論調査で立憲の支持率が大きく上昇していないことからもそれがうかがえる。立憲は将来に対する構想力を鍛え、政策を磨くとともに、政治の信頼を取り戻すあり方の提示も求められる。
◇与党の「慢心と堕落」野党の「バラバラ感」
政治改革に対する自民党の後ろ向きの態度は、時が過ぎれば国民の支持もまた戻ってくるという、おごりからくるものだ。内閣、自民党共に支持率が低迷しているが、野党の支持も伸びず、政権を失うことはないと楽観しているのだ。失敗すればいつでも野党に転落するという緊張感の中で切磋琢磨(せっさたくま)する機会が乏しいのが原因だ。政治にも競争原理が必要だ。強力なライバル政党がなければ、政権党は慢心し堕落する。