「5万円でやるしかない」岸田総理の決断 政治資金規正法改正めぐる水面下の“与党交渉” 自民・公明トップの握手の裏側
■自公の隔たりが残ったまま与野党修正協議スタート
当時、自民党は「10万円超」への引き下げを主張しており、自公の間でも隔たりは残ったままで、両党による実務者の協議も暗礁に乗り上げていた。
■「岸田さんは公明案をのむ」麻生氏茂木氏が“待った”
決着2日前の29日、公明党は対応を迫られていた。
「自民が公明案をのむ噂が流れていた。自民と公明の情報戦になっていた」
一方、この日の夜、岸田総理は麻生副総裁・茂木幹事長と3者で会合を開いた。自民党関係者によると、この時点で、岸田総理は公明党の協力を確実なものとするため、公明党の要求を受け入れる方針に傾いていたという。
「夕方の時点で岸田さんは、公明案をのむということを自民党内に根回ししようとしていた」
この意向を持った岸田総理に、「10万円じゃないと議員活動が続けられない」など党内の声と向き合ってきた麻生氏や茂木氏は「このタイミングで公明党に譲る必要は全くない」と“待った”をかけた。
3者が協議した結果、公明党の要求を受け入れることは一旦見送ることになった。
■「自民修正案に賛同出来ない」公明代表が異例の表明
「公明党の従来から主張してきた上限の公開の基準は5万円にすべきである。自民党から昨日示された修正案を、これはそのまま賛同することはできないというのが公明党の考え方であります。隔たりのある部分については、なお一層自民党として、透明化をはかる、そうした思い切った決断を求めたい」
この発言の同時刻、自民党幹部はこう吐露した。
「ここで自公にわだかまりが残るのはよくない。5万でも10万でもどっちでもいいんだから。」
この自民党幹部は問題を起こした側が金額の主張をするべきではないとの考えのもと、最終的には「総理の決断次第だ」とも話しており、岸田総理は、麻生氏・茂木氏の説得を振り切って、公明党の要求を受け入れるかどうかの決断を迫られた。
夕刻、岸田総理は側近の木原幹事長代理を呼び、秘密裏に会談した。その場には林官房長官も同席した。他党との水面下の交渉を担っていた木原氏は、自民党内には「10万円でなければだめだ」という声が根強くあることを伝える一方で、公明や維新の状況を伝えた。
岸田総理はこの場で「5万円でやるしかない」と決断を下した。自公連立の枠組みを崩さずに、この国会で法案を成立させることを優先させた。
■「一番は信頼」公明に譲歩し合意へ
31日午前、総理官邸に公明党の山口代表が訪れ、岸田総理と会談した。普段は撮影が許されない党首会談だが、この会談冒頭はメディアに公開された。2人の握手が交わされた後、予定の20分より長い会談となった。
「自民党が5万円と目標を明確におっしゃいましたので、野党も含めて与野党の幅広い合意にいたった。(岸田総理から)『自公力を合わせて今後もよろしくお願いします』とお話がありました。総理が今日我々の求めていた大きな判断、英断をお示しされたとこのように受け止めています」
連立を組む公明党に押し切られる形で修正案をとりまとめることになった岸田総理。改正案の成立の道筋は付けることにはなったが、今後は、「国民の信頼」を得るための実効性のある「政治改革」が実現できるかが問われている。
(TBSテレビ報道局政治部 与党担当 中野光樹)