顧客による悪質なクレームが社会問題化している。暴言を吐かれ、体調を崩す従業員もいる。企業は社員らを守る仕組みを整えるべきだ。
理不尽なクレームは「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と呼ばれる。商品やサービスへの不満を延々となじり、土下座を強いるなどの行為が典型例だ。
最近では、薬局で薬の購入を断られ、店員らを「殺すぞ」と脅したり、買った弁当に因縁をつけて店員に暴行を加えたりして、刑事事件に発展したケースもある。度を越す要求には、警察に通報するなど 毅然きぜん と立ち向かうべきだ。
連合が2022年、企業の従業員らに行った調査では、全体の4割が直近の5年間で「カスハラが増えた」と回答した。カスハラを受けたことで、「出勤が 憂鬱ゆううつ になった」が4割、「心身に不調をきたした」も3割に上った。
社会に経済格差が広がり、コロナ禍の 閉塞へいそく 感も加わって、人々がいら立ちを募らせていると指摘されている。SNSの普及で、企業や店の悪口を書き込み、対応した従業員の氏名を公表するといった行為も容易になった。
日本では、丁寧な顧客対応や接客が美徳とされてきた。それに乗じて、客だからというだけで、従業員の人格まで 貶おとし める言動は論外だ。到底許されない。
企業は、苦情を従業員個人に抱え込ませないことが重要だ。
航空大手のANAホールディングスは、カスハラには2人以上で対応し、相手の承諾を得て録音・録画を行うとするマニュアルを作成した。JR東日本は、不合理または過剰なサービスの要求には応じない方針を示している。
各企業は、カスハラへの対処方法を明確にすることが重要だ。被害を受けた従業員の相談窓口を設けることも欠かせない。
一方、顧客のクレームの中には、商品やサービスの品質向上につながる貴重な意見もある。近年は、人手不足などを理由に、電話での問い合わせに応じない企業も少なくないが、顧客の正当な訴えにまで耳を貸さないようでは困る。
行き過ぎた悪質な言動と、的確な批判をきちんと見極めるようにしなければならない。
会社幹部などの立場にあった人が退職後、訪れた店で高圧的な態度をとる例も散見される。本人は「接客を教えてやっている」と悪びれない場合がある。
そうした行為は許されない時代だと、家族ら周囲の人が言って聞かせることも必要だろう。