中国大使の暴言 日本国民への脅迫許すな(2024年5月24日『産経新聞』-「主張」)

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座談会で発言する呉江浩駐日大使(中央)=20日、東京都内
 
 日本国と日本国民に対する、軍事力を振りかざした脅迫であり到底容認できない。
 中国の呉江浩駐日大使が台湾を巡り、日本が「中国の分裂」に加担すれば「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と語った。呉氏は昨年4月、着任直後の会見でも同様の発言をして日本政府から抗議されている。
 今回の異常な発言は、頼清徳台湾総統の就任式があった20日、都内の中国大使館で開かれた座談会で飛び出した。呉氏は「(中国は)最大の努力を尽くして(台湾との)平和統一を目指す一方、武力行使の放棄も絶対確約しない」と述べた。その上で、「火の中」の言葉を用いて日本国民を脅迫した。
 どのような前提条件を付けても、中国軍が日本国民を攻撃して殺傷すると脅した発言で外交官失格である。呉氏は「武力又は武力による威嚇に訴えない」ことを確認した日中平和友好条約第1条にも反している。
 このような大使が日本と正常な外交を営めるのか。呉氏は発言を撤回して謝罪し、職を辞したらどうか。もし同様の脅迫が中国駐在の外国大使から発せられたら、中国は国を挙げて非難し国外追放へ動くだろう。
 発言を知った日本国民は眉をひそめている。元国家公安委員長松原仁衆院議員(無所属)は外交上の「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからざる人物)として呉氏を追放すべきだと昨年に続き政府に促した。
 林芳正官房長官は会見で「極めて不適切だ」と呉氏の発言を非難し、外交ルートを通じ抗議したと明らかにしたが不十分だ。呉氏を呼んで直接抗議し、発言撤回と謝罪を求めるべきだ。中国側の反応次第では、駐日大使交代の要求や呉氏の国外追放措置も必要である。
 岸田文雄首相は近く韓国での日中韓首脳会談に臨む。少なくとも呉氏の発言撤回がなければ、李強首相との2者会談をしている場合ではない。
 座談会には鳩山由紀夫元首相や社民党福島瑞穂党首、外務省OBらが出席したが、呉氏の暴言に誰も抗議しなかったのは情けない限りだ。鳩山氏にいたっては「呉大使のお話に基本的に同意する」と述べた。出席者は日本国民よりも中国政府の機嫌をうかがう卑屈な姿勢をとった自身を恥じてもらいたい。
 
低く値踏みされた日本、呉大使の恫喝(2024年5月24日『産経新聞』-「産経抄」)
 
 ひと文字の違いで、大きく意味の変わる言葉がある。「瀬踏み」と「値踏み」はいい例だろう。物事に取り掛かる前に、ちょっと試してみるのは「瀬踏み」。ざっと見積もって、物の値段の見当をつけるのが「値踏み」である。
▼中国の呉江浩駐日大使には、昨年春に着任する前にも約10年に及ぶわが国での勤務経験がある。歴史認識や台湾情勢などを巡る日本側の感度については、そのときに瀬踏みを済ませたということか。とすれば、日本は安く見積もられたことになる。
▼台湾を巡り、日本が「中国の分裂」に加担すれば―。「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」。中国大使館で20日に開かれた座談会で、呉氏はそう発言した。傲慢にして品がなく、度を越しており聞くに堪えない。これが日本国民に対する恫喝(どうかつ)でなくて、何であろう。
▼政府は外交ルートを通じて抗議したという。謝罪も辞任も求めぬようでは首をひねるほかない。呉氏は着任後の会見でも「火の中に…」の発言をしていたが、政府は今回と同じ対応にとどめていた。足元を見られ、同じ轍(てつ)を踏んだのなら情けない。
▼くだんの座談会には、鳩山由紀夫元首相や外務省OBらも出席していた。武威を背にしたあけすけな脅しに、なぜ沈黙で応じることができたのか不思議でならない。鳩山氏に至っては、「呉大使のお話に基本的に同意する」と語った。「元首相」を名乗る人の悲しい実相である。
▼ひと文字違いといえば「祈念」と「懸念」も浮かぶ。日中関係の行く末を思うとき、先立つのは懸念だろう。隣人を脅して平気な相手と、良好な未来を誰が祈念できよう。日本を低く見た「無礼」と「非礼」。ひと文字違い、されど通底する怒りは変わらない。