袴田さん死刑求刑 検察、証拠並べ「極刑、避けられない」 「負け戦」批判も(2024年5月22日『産経新聞』)

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昭和41年、静岡県でみそ製造会社の専務ら一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さんの再審公判で22日、検察側は再び死刑を求刑した。犯行着衣とされた「5点の衣類」に捏造(ねつぞう)の可能性が指摘されて始まった再審公判だが、検察側は他の証拠も並べて有罪の主張を維持。事件の重大性に鑑み、「死刑求刑は避けられない」と判断した。ただ、無罪判決が出る公算は大きく、内部からは「負け戦だ」とする冷めた見方も出ている。
「十分に立証できたと判断したからこそ死刑を求刑した」。静岡地検の上級庁の検察幹部は公判後の22日、こう説明した。
死刑求刑直後に異例の経緯説明
死刑求刑直後に検察幹部が経緯を詳細に説明するのは極めて異例だ。
過去の再審では、DNA型などの動かぬ証拠が決め手となって検察側が有罪立証を断念するケースもあった。
だが、この検察幹部はこの日、5点の衣類を袴田さんの犯行着衣とする根拠や凶器の発見状況などを説明し、「間接事実から(袴田さんが)犯人であると推認できる」と検察が公判で示した考えを改めて述べた。再審公判でも袴田さんを有罪とする立証を維持した検察への批判を念頭に「メンツのために死刑求刑しているわけではない」とも強調した。
昨年10月に始まった再審公判の最大の争点は事件の1年2カ月後にみそタンク内で見つかり、確定判決で犯行着衣とされた5点の衣類の「血痕の赤み」だ。
再審公判で弁護側は長期間みそに漬ければ血痕に赤みが残るはずがなく、衣類は袴田さんの逮捕後に隠された捏造証拠だと主張。東京高裁は昨年3月の再審開始決定時に弁護側の同様の主張をおおむね認めていた。
血痕の色以外の証拠も改めて並べる
ただ、検察側は再審公判で法医学者の証言をもとに「赤みは残りうる」とし、血痕の色以外の証拠も改めて並べ立てた。
公判では放火に使われたとする油がみそ工場に保管されていたと指摘。5点の衣類の半袖シャツの穴と袴田さんの腕の傷の場所がほぼ一致し、袴田さんの左手中指にあった傷が犯行時に負ったものといえるとも訴えた。
一方、検察側証人として出廷した法医学者が血痕は一般的には黒くなると認めるなど、公判では検察側の主張が不利になる指摘も相次いだ。
検察内部には「再審が決まった時点で(検察は)負け」との意見も根強いが、ある検察幹部は「4人が殺害された事件であることは置き去りにできない。証拠があれば有罪立証する。それが検察の務めだ」と話した。(桑波田仰太、久原昂也、星直人)
 
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