58年前、静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さんの再審=やり直しの裁判で、検察は改めて死刑を求刑しました。一方、弁護団は無罪を主張しました。
午後5時40分ごろから、弁護団と袴田さんの姉のひで子さん(91)が記者会見を開いています。ライブ配信でお伝えしています。
11:00
検察と弁護団 最終審理での主張は?
最大の争点は、事件の発生から1年2か月後に現場近くのみそタンクから見つかり、有罪の決め手とされた、「5点の衣類」に付いていた血痕に赤みが残っていたことが不自然かどうかです。
22日の審理で検察は「1年あまりみその中に入っていた衣類の血痕に赤みが残る可能性はある」などとして、袴田さんが犯行時に着用した衣類だと主張しました。その上で「被害者4人の将来を一瞬にして奪った犯行の結果は極めて重大だ」と主張し、改めて死刑を求刑しました。
一方、弁護団は「1年以上みそに漬けた血痕に赤みが残ることはない」などとして、「『5点の衣類』は、袴田さんを犯人に仕立て上げるために、捜査機関がねつ造した証拠だ」と述べ、無罪を主張しました。
そして最後に、袴田さんの姉のひで子さん(91)が意見を述べ、法廷での審理はすべて終わる予定です。
8:40ごろ
ひで子さん地裁へ出発「巌に代わり申し上げる」
袴田巌さん(88)と一緒に暮らしている姉のひで子さん(91)は、午前8時40分ごろに浜松市内の自宅を出て支援者の車に乗り込み、静岡地方裁判所に向けて出発しました。
出発する前に報道陣の取材に応じ、審理に臨む心境を問われると「平常心でございます。裁判にも慣れたようで普通でございます」と述べました。また、これまでの審理を振り返り、「58年闘っていますが、この1年は実際に動いているのでいちばん長く感じました」と述べました。
意見陳述に、袴田さんがかつて家族に宛てた手紙の内容を盛り込むことにしていて、「巌は今は話はできないから、巌に代わって、巌の言いたいことを申し上げるつもりです」と話しました。
けさ、袴田さんとやりとりをしたということで、「巌には裁判とは言わずに、『静岡に行くのはきょうでおしまいだからね、夕方に帰ってくるね』と伝えたら、『ああそう』といっていた。たぶん察してはいると思うけれどね」と話していました。
およそ30年にわたって支援活動を続けている山崎俊樹さんは、22日、裁判所の前で集会を開きました。
血痕の付いた衣類をみそに漬ける実験を重ねてきた山崎さんは「再審開始にあたって私たちの実験を証拠として評価してもらえたという意味では、大きな役割を果たせたのではないか」と話しました。
また姉のひで子さんが法廷で意見を述べることについては「袴田さんは手紙の中で、一貫して無実を訴えていた。その思いがきょうの法廷で伝わることを願っています」と話していました。
8:30ごろ
朝から傍聴の希望者の列 倍率は約8.6倍
静岡地方裁判所によりますと、26の傍聴席に対し傍聴を希望した人はおよそ8.6倍の224人でした。
裁判所では午前8時半ごろから傍聴を希望する人たちが列を作りました。
両親がかつて、袴田さんの裁判で検察側の証人として証言したという高橋國明さんは、再審を傍聴しようと自宅のある群馬県から毎回訪れています。
高橋さんは「両親は晩年、みずからの証言が袴田さんの有罪につながったのではないかと気に病むような思いでいました。その思いを背負ってしっかりと裁判を見届け、袴田さんの完全無罪を墓前に報告したい」と涙ながらに話しました。
22日で審理が終わることについては、「そもそも死刑が求刑できるのかと弁護団は主張している。検察側から袴田さんに対して無罪を求刑してもらいたい」と話していました。
また、事件が起こった静岡市清水区に住む50代の女性は、「小さい頃から事件については気になっていましたが、何十年たった今もまだ裁判が終わっていないことに驚き、自分の目で真実を確かめたいと思い、裁判所に来ました。人生で、これだけ長い時間拘束されているので、検察には死刑を求刑することは本当に正しいことなのか考えてもらいたい」と話していました。
最大の争点 “衣類の血痕に赤みが不自然か”
最大の争点は「5点の衣類」に付いていた血痕に赤みが残っていたことが不自然かどうかです。
「5点の衣類」は、事件の発生から1年2か月後の、すでに裁判も始まっていた時期に現場近くのみそタンクから見つかった血のついたシャツやステテコなどで、死刑が確定した判決では袴田さんが犯行当時着ていたものだとして、有罪の決め手とされました。
当時の捜査資料では、血痕について「濃い赤色」などと記されていました。
これについて再審請求の審理で弁護団は「1年以上みそに漬かっていたら血痕は黒く変色するはずで、赤みがあるのは発見される直前に袴田さん以外の誰かが入れたものだからだ」と主張。
争点は血痕の色の変化に絞られ、弁護団が鑑定を依頼した法医学の専門家は「血液がみその成分にさらされると黒く変色する化学反応が進み、1年2か月の間、みそに漬けた場合、赤みが残ることはない」と結論づけました。
去年3月、東京高等裁判所は弁護側の専門家の鑑定結果などを踏まえ、「1年以上、みそに漬けられると血痕の赤みが消えることは化学的に推測できる」と指摘し、捜査機関が衣類をねつ造した可能性が極めて高いとして、再審を認めました。
そして、去年10月から静岡地方裁判所で始まった再審でも、再び血痕の色について争われてきました。
検察は再審での新たな証拠として、法医学者7人による「共同鑑定書」を提出し、「長期間、みそに漬けられた血痕に赤みが残る可能性は認められる」と主張しています。
一方、弁護団は鑑定を依頼した専門家による意見書を新たに提出し、「検察側の専門家の主張を踏まえても、血痕に赤みが残らないという結論は揺らがない」と反論しています。