とにかく、とことん学ぼう」…(2024年5月16日『毎日新聞』-「社説」)

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シャープ本社に表示されたロゴ=堺市堺区で2024年4月28日、本社ヘリから加古信志撮影
 
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1973年にシャープから発売された世界初の液晶表示電卓。価格は2万6800円だった。
 
 「とにかく、とことん学ぼう」が松下電器産業(現パナソニック)の創業者、松下幸之助の口癖だったという。戦後の欧米に追いつき、追い越せの時代。先行商品を後追いで製品化し、「マネシタ電器」と皮肉られた
▲「ソニー=モルモット」論も唱えられた。大手が見守る中、新製品開発に取り組み、実験動物的役割を果たしたというわけだ。ただ、創業者たちはそんな外部の声を歓迎したという。企業の強みを端的に示す言葉でもあったからだ
シャープペンシルの考案者、早川徳次が作った早川電機(現シャープ)は「ハヤマッタ電機」と呼ばれた。テレビに電子レンジ、電卓。国産第1号や世界初にこだわる姿勢がそんな異名を生んだのだろう
▲1973年発売の液晶表示電卓も世界初。以来、液晶のカラー化、大型化を進め、大画面テレビの市場を開拓した。そんな「液晶のシャープ」がテレビ向け大型液晶パネルの国内生産を終えるという
▲地上波デジタル放送の開始後、品定めに訪れた家電量販店に「世界の亀山モデル」がずらりと並んでいたのを思い出す。需要拡大の思惑が外れて8年前に台湾企業の傘下に入った後も中国勢との価格競争には勝てなかった
▲米政府が中国製電気自動車(EV)の関税を4倍に引き上げたというニュースにかつての日米貿易摩擦を思う。当時は日本企業にダンピングや過剰生産の疑いがかけられ、「通商法301条」が再三、新聞の見出しになった。摩擦なき今を喜ぶべきか。複雑な気持ちになる。