小林製薬の「紅麹(べにこうじ)」成分入りサプリメントによる健康被害問題は、摂取した5人が死亡、200人以上が入院するという深刻な事態に発展している。日本腎臓学会の最新の調査では、患者の9割以上で尿細管の機能が低下する「ファンコニー症候群」の症状が確認され、短期間の摂取で発症した人も1割超に上ることが新たに判明した。因果関係はいまだ明確ではないが、専門家は「サプリに強い作用の物質が含まれている疑いがある」と指摘している。
腎臓では血液中の老廃物や塩分を、糸球体(しきゅうたい)と呼ばれる毛細血管が密集したフィルターで濾過(ろか)。アミノ酸などの栄養素や、カリウム、リンといった体に必要なミネラルは尿細管で再吸収して血液に戻し、残りを尿として排出する「浄化槽」のような機能を果たしている。
ファンコニー症候群はこの尿細管がダメージを受け、機能が低下することで起こる。本来、尿細管で再吸収されるミネラルなどがそのまま尿として排出されてしまい、体内の栄養が不足。その結果、低カリウム血症や低リン血症などに陥り、倦怠感(けんたいかん)や食欲不振、尿の異常となってあらわれる。症状が進行すれば腎機能そのものが悪化する。
日本腎臓学会副理事長で大阪大の猪阪(いさか)善隆教授(腎臓内科)によると、ファンコニー症候群は、遺伝的な要因以外では、鎮痛剤や抗がん剤など薬の副作用として起きることが多い。「腎臓は有害物質がたまりやすい。尿細管がサプリによってダメージを受けた可能性は大いに考えられる」と指摘する。
同学会は3~4月、学会所属の医師らにインターネット調査を実施。報告のあったサプリ摂取者189人について分析したところ、173人でファンコニー症候群の症状がみられた。腎生検した94人のうち尿細管の壊死(えし)は28・3%に及んだ。また患者の12・4%がサプリを飲み始めたのが今年1~3月と短期間だったことも明らかになった。
この結果について、猪阪氏は「短期間での発症は通常のサプリでは考えにくく、人体への作用や影響の強い物質が含まれていたかもしれない」と推測。健康被害との因果関係を明らかにした上で「体質や持病など、どういった特性の人が発症しやすかったのか、傾向を調べていく必要がある」と話す。
ほとんどの患者はサプリ摂取を中止したことで症状が改善した。猪阪氏によると、ファンコニー症候群だけで死亡することは考えにくく、ほかの病気との合併により重篤な事態に至った可能性がある。
また、原因物質としてサプリへの混入が疑われている青カビ由来の「プベルル酸」やその他の化合物については「動物実験をして同様の症状が出るかを調べ、健康被害との因果関係をはっきりさせる必要がある」と言及した。