国の「指示権」 災害時に重要な地方との連携(2024年5月8日『読売新聞』-「社説」)

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 国と地方自治体は法的に対等な関係にあるとはいえ、大規模な災害や感染症の 蔓延まんえん など非常時に自治体だけで対処するのは限界がある。
 対策の責任を明確にするためにも、国が主導し、自治体との連携を円滑に進めるための態勢を整える必要がある。
 自治体に対する国の指示権を創設する地方自治法改正案が、衆院で審議入りした。
 改正案の柱は、現行の法律が想定していない「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」が発生した場合、閣議決定を経た上で、国が自治体に必要な指示を行う規定を設けることだ。
 2000年に地方分権一括法が施行され、国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」へと見直された。地方にできることは地方で、という改革の趣旨は浸透したが、一部の対策では弊害もみられている。
 コロナ禍の初期には、政府が全国の感染者数の把握に手間取った。感染者数を集計する保健所は県や政令市などが運営しているため、国に報告する義務がなかったことが影響したとされる。
 改正案を巡っては、国と地方の対等な関係を 歪ゆが めかねないとして、野党や一部の自治体が批判していたが、政府が「あらかじめ自治体に意見を求める」とする条項を追加したことで、自治体側は一定の理解を示している。
 もっとも、国の指示権を創設しただけで、緊急時の対応が改善されるとも思えない。
 能登半島地震では、倒壊した家屋の公費による解体が進んでいない。さらなる倒壊の危険性に加え、悪臭や害虫の発生など衛生環境の悪化が懸念されている。
 公費による解体の場合、申請書の確認など様々な手続きが必要となる。そうした作業を進めるため、政府は熊本市など過去の被災自治体の職員を能登自治体に応援要員として派遣しているが、十分に対応しきれていないようだ。
 行政改革を進めた結果、自治体の職員数がこの30年間で50万人近く減少したことも、自治体の緊急時の対応能力を低下させた面があるのではないか。人口減少が進めば、自治体の機能が一層低下する恐れもある。
 政府は、緊急時には自治体同士が連携し、広域で支え合うよう促すべきだ。自治体側も国との意思疎通を密にしてもらいたい。
 国と自治体は権限を主張し合うのではなく、住民の安全を優先して協力することが大切だ。