国の地方への指示権 拡大する必要性が見えぬ(2024年4月22日『毎日新聞』)

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地方制度調査会の市川晃会長(中央)から答申を受け取る岸田文雄首相(右から2人目)=首相官邸で2023年12月21日午後2時5分、竹内幹撮影
 
 地方分権に逆行し、自治をゆがめる懸念がある。法整備の必要性に疑問を抱かざるを得ない。
 政府が今国会に提出した地方自治法改正案の扱いが注目されている。緊急事態に備え、自治体への国の指示権を拡大する内容だ。
 政府の諮問機関、地方制度調査会による答申を受けて総務省が法案をまとめた。
 「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」が発生した際、閣議決定を経て、関係する自治体に閣僚が必要な措置を指示できるようにする。国民の生命などを守るために必要な措置であり、別の法律に自治体への指示規定がないことを条件としている。
 端緒となったのは、コロナ禍の際の医療対応を巡り、地方側との調整が難航したことだった。政府は「不測の事態に備え、あらかじめ国と地方の関係を規定しておくものだ」と説明している。
 だが、これまで指摘されてきた疑問は解消していない。最大の問題点は、この法案がなぜ必要で、どのような事態と措置を想定しているのかが不明なことである。
 コロナ禍を受けて感染症に関する法律が改正され、自治体への指示規定などが拡充された。大規模災害、有事など安全保障に関する法制においてもすでに施設利用などの指示規定はある。
 政府は「具体的な類型を挙げることは困難」だとするが、「重大な影響を及ぼす事態」との文言はあいまいに過ぎる。もっと具体的に例示すべきだ。