特定秘密漏洩 情報保全意識の欠如は深刻だ(2024年4月27日『読売新聞』-「社説」)

 安全保障上、重要な情報を保護するため、守秘義務を課す制度を民間人に広げようとしているのに、肝心の自衛隊が情報を 漏洩ろうえい しているようでは話にならない。

 木原防衛相によると、海上自衛隊陸上自衛隊の双方で、機密情報である「特定秘密」の漏洩が計2件あり、関係した自衛官5人を停職や減給の懲戒処分とした。

 海自の場合、2022年6月~23年1月のうち約60日間、護衛艦内で、特定秘密である船舶の航跡情報の作業を、取り扱う資格のない隊員1人に担わせていた。

 当時の艦長らが、その隊員に特定秘密を扱う資格があるかどうかの確認を怠っていたという。

 陸自では23年7月、北海道の演習場での訓練中、部隊指揮官が、特定秘密を知るべき立場にはない隊員15人に対し、特定秘密に指定されている有事での自衛隊の活動内容を漏らした。

 防衛省は、いずれの事案も第三者への漏洩は確認されていないとしている。だが、問題の情報に接した隊員を通じて、将来にわたって拡散のリスクにさらされることを忘れていないか。

 特定秘密が外部に漏れれば、日本の安全保障に著しい支障を与えかねない。同盟国や友好国から提供された情報もあり、その漏洩は日本の信頼を大きく損なうことになるだろう。

 海自、陸自ともに幹部自衛官の行動は軽率極まりない。

 事案を把握した後の防衛省自衛隊の対応も問題だ。情報漏洩は海自、陸自ともに昨年起きていたのに、公表するまでになぜこれほどの時間がかかったのか。

 一連の不祥事の発生とその後の対応を見る限り、自衛隊の情報管理に関する規律に緩みがあるのは否定できまい。

 海自では20年、1等海佐が元海将のOBに特定秘密を漏らすという事案があった。特定秘密が外部に漏れた初のケースだった。

 これを受け、防衛省は当時、情報保全教育の拡充など再発防止策を徹底すると発表していた。にもかかわらず、不祥事が繰り返されたことにあきれるほかない。

 国会では、経済安全保障分野の重要情報を保護するため、民間企業の従業員らを対象に新たな適性評価制度を創設する法案が審議され、既に衆院を通過している。

 法案が成立すれば、官民を通して重要情報を守る体制が整うことになる。防衛省自衛隊は、機密保持の模範となるべき存在であることを自覚する必要がある。