大東亜戦争 言葉狩りを朝日は恥じよ(2024年4月10日『産経新聞』-「主張」)

陸上自衛隊第32普通科連隊の8日の投稿。当初の投稿から「大東亜戦争最大の激戦地」などの表現が削除された

 先の大戦大東亜戦争(太平洋戦争)の終戦から79年経(た)つ今でも朝日新聞は「大東亜戦争」を言葉狩りの対象にした。自由な表現の封じ込めで、恥ずべき振る舞いである。

 陸上自衛隊第32普通科連隊(さいたま市)が5日投稿した公式X(旧ツイッター)に「大東亜戦争」の表現があった。

 朝日は8日、投稿をめぐり「政府は太平洋戦争を指す言葉として、この呼称を公式文書では用いていない」「戦後、占領軍の命令で『大東亜戦争』の呼称は禁止された」と報じた。同連隊は誤解を招いたとして、投稿から「大東亜戦争」を削除した。自由の国日本で、言葉狩りによって表現の変更が強いられてしまったのは残念だ。

 5日の連隊の投稿は、隊員が「大東亜戦争最大の激戦地硫黄島において開催された日米硫黄島戦没者合同慰霊追悼顕彰式」に参加した報告だった。激戦の実相を示そうと当時の呼称を用いたという。何の問題もなく戦争自体の賛美でもない。

 朝日が占領軍の禁止命令への言及で記事を終えたのは悪質である。「大東亜戦争」とは、朝日が記事でも指摘したように、開戦直後の昭和16年12月に閣議決定された日本側の呼称だ。

 その使用は現在禁じられていないし、政府は太平洋戦争のみを使う決定もしていない。連合国軍総司令部(GHQ)は20年12月15日の覚書で「大東亜戦争」の使用を禁じたが、この不当な命令はサンフランシスコ平和条約に伴う日本の主権回復で失効した。朝日の記事は、占領軍の命令が今も有効との誤った印象を与えかねない。

 戦時中の日本人は大東亜戦争を戦っていた。他の呼称の戦争を戦っていると思っていた者はいない。今、太平洋戦争の使用例が多いからといって、大東亜戦争の使用を問題視するのはあまりに狭量で自虐的だ。

 政府は一般に公文書で使用していないとするが、公式Xから削除する理由にはならない。防衛庁防衛研修所戦史部著の戦史叢書(そうしょ)(「大東亜戦争開戦経緯」など)で普通に用いている。国権の最高機関の国会でも、閣僚や与野党議員が問題なく使ってきた。たとえば令和2年5月12日の参院財政金融委員会で麻生太郎副総理兼財務相(当時)は「大東亜戦争」に言及し、議事録にも載っているのである。

 

大東亜戦争」投稿 自衛隊歴史観を憂う(2024年4月10日『東京新聞』-「社説」)

 

 陸上自衛隊の部隊がX(旧ツイッター)への投稿で、アジアへの侵略戦争を正当化する文脈で使われることが多い「大東亜戦争」という表現を用いた=写真。陸海の隊員が靖国神社に集団参拝したことも明らかになっている。過去の戦争を美化する歴史観自衛隊内で広がっていないか憂慮する。
 
 陸自大宮駐屯地(さいたま市)の第32普通科連隊は5日、日米が戦った硫黄島(東京都小笠原村)の戦没者追悼式への参加をXの公式アカウントに投稿した際「大東亜戦争最大の激戦地」と記した。この表現は8日に削除した。
 日本は1941年12月の開戦直後、アジアの解放を名分に「大東亜戦争」と呼ぶことを閣議決定した。戦後「大東亜戦争」の呼称は連合国軍総司令部GHQ)に禁じられ、現在は日本政府も一般に公文書では使用していない。
 代わって「太平洋戦争」の表現が定着したのは、破滅的な敗戦につながったアジアへの侵略と植民地支配を戦後、幅広い日本国民が反省したからにほかならない。
 同様に自衛隊も現行憲法の下、旧軍と制度的に断絶する形で発足した。にもかかわらず、陸自部隊が公式アカウントで一時的とはいえ「聖戦思想」を疑われかねない投稿をしたことは深刻である。
 懸念はこれにとどまらない。海自司令官と幹部候補生学校卒業生らが昨年5月に、陸自幹部ら22人が今年1月に、靖国神社を参拝した。もちろん隊員にも信教の自由はあり、防衛省は私的参拝と結論付けて問題視はしていない。
 しかし、参拝が強制でなくてもA級戦犯を合祀(ごうし)し、先の戦争を正当化する神社に自衛隊員が集団参拝した事実は残る。内外から歴史観を疑問視され、憲法が定める政教分離にも抵触しかねない。
 内閣府による最新の世論調査では、自衛隊に「良い印象を持っている」は90・8%に及ぶ。文民統制の下、防衛と災害救援、国際貢献を積み重ねてきた結果だ。
 一連の言動は自衛隊が築き上げてきた信頼を自ら損なうことになりかねない。防衛省自衛隊は疑念を招く言動は慎むよう隊員への指導・教育を徹底すべきである。