戦後間もなく、文部省が子どもら向けに『民主主義』と題した教…(2024年4月26日『東京新聞』-「筆洗」)

 戦後間もなく、文部省が子どもら向けに『民主主義』と題した教科書を作った。復刻版を読むと民主主義は単なる政治の制度ではなく、民主主義の根本精神たる「人間の尊重」が大事だと教えている
キャプチャ
▼「人間の尊さを知る人は、自分の信念を曲げたり、ボスの口車に乗せられたりしてはならないと思うであろう」。信念を曲げ理不尽な命に従うことは民主主義の対極のようだ
 
▼「民主主義は、家庭の中にもあるし、村や町にもある。それは、政治の原理であると同時に、経済の原理であり、教育の精神であり、社会の全般に行きわたって行くべき人間の共同生活の根本のあり方である」
▼そこに民主主義はあったのか。愛知県東郷町長、岐阜県池田町長が職員にハラスメントを繰り返したとそれぞれ第三者委員会に認定され、辞職を決めた。前者は「死ね」などと暴言を浴びせるなどし、後者は頻繁に女性職員の体を触った
キャプチャ
▼両町とも町長に対する職員の萎縮を各第三者委に指摘された。ボスにものを言えぬ空気。副町長以下は事実上無力で人の尊厳は損なわれ続けた。選挙の洗礼を受けた人も無謬(むびゅう)にあらず。トップが誤った時にそれをただせる組織をどうつくるのか、議会も知恵を絞りたい
▼先の教科書は「人間の生活の中に実現された民主主義のみが、ほんとうの民主主義」と唱える。職場の風通しの良さも民主主義の体現である。