2024年4月23日のブロック紙・地方紙等の社説・コラム

障害者への対応 話し合いで課題克服を(2024年4月23日『北海道新聞』-「社説」)
 
 障害者が日常生活を送るうえで直面する障壁を取り除くため、民間事業者に「合理的配慮」を行うことを義務づける改正障害者差別解消法が4月施行された。
 法改正により、これまでの行政機関などから拡大された。企業や法人にとどまらず、個人事業主非営利団体も対象となる。障害者が参加しやすい共生社会の実現を促す契機としたい。
 課題は合理的配慮の内容が一律ではないことだろう。
 改正法は障害者から申し出があった場合、実施に伴う負担が過重でない範囲で、必要かつ合理的な配慮を講じることを求めている。
 だが、車いすでの飲食店の利用や筆談の希望など、その事例は千差万別だ。法が禁じる不当な差別的対応も、障害の特性や状況に応じて個別に判断する必要がある。
 そのためにも障害者と事業者による建設的対話が欠かせない。相手の立場や事情への理解を深めながら、相互に知恵を絞り、課題を克服する努力が求められている。
 国の対応指針によると、前例がないことや将来起こり得るリスクを理由に配慮の提供を断ることはできない。個別対応を怠り、特別扱いに当たるなどとして配慮を行わない場合も義務違反となる。
 まずは、意識の変革が求められていることを事業者側は強く自覚する必要があるだろう。
 合理的配慮の範囲は本来業務に付随するものと定められている。事業への影響の程度や実現の可能性、費用の程度などから過剰な負担となる場合は義務を免れるが、その線引きはあいまいだ。
 国のガイドラインなどを参考に具体的な事業者ごとにケースを想定し、対処法などを検討する準備が不可欠となる。合理性を重視するあまり、対応を怠るようなことがあってはなるまい。
 3月には、車いすの利用者に対し、映画館の従業員による不適切な対応があったとして、運営会社が謝罪文を公表した。
 ネットなどでは賛否が衝突し、中傷もあふれたが、むしろ、対話を通じて、車いす利用者の映画鑑賞の環境改善に向けた論議に資する機会とするべきではないか。
 国連の障害者の権利に関する条約は、障害に伴う障壁を取り除くのは社会の責務としている。バリアフリー化は本来、法の定めによる「配慮」を待つまでもなく、実現されることが望ましい。
 社会のすべての参加者がその意識を持ち、行動に反映させるきっかけとしたい。
 
知床事故2年 安全網の構築を着実に(2024年4月23日『北海道新聞』-「社説」
 
 知床半島沖で小型観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没し、乗客乗員26人が死亡・行方不明となった事故から2年となる。
 知床は事故の影響で観光客数がコロナ禍前の水準に戻っていない。回復には、安心して観光できる安全網の構築が欠かせない。
 事故の責任追及も重要だ。
 国の運輸安全委員会は、背景に運航会社「知床遊覧船」の安全管理の欠如と、国の監督の不徹底があったと指摘した。
 国はこれを踏まえ、7分野66項目にわたる再発防止策を順次実施に移している。今月からは旅客船事業の許可を更新制とした。
 悲劇を防ぎ、誰もが不安なく観光船を利用できるよう、国は着実に対策を積み重ねる必要がある。
 再発防止策では、乗客が水にぬれずに乗り移れる改良型救命いかだの搭載義務化も今月から予定していた。だが開発が遅れたことなどから先送りになっている。
 いかだの搭載は冷たい海での犠牲を防ぐ効果が期待できる一方、事業者の費用負担は大きい。国は免除要件も検討している。実効性のある方策を探るべきだ。
 事故の直接の原因は、カズワンが荒天予報の中で出航し、不具合があった船首ハッチから海水が流入したためと認定されている。
 日本小型船舶検査機構(JCI)によるハッチの点検が不十分だったことも分かっている。
 検査員不足から検査がおざなりだった可能性が浮上し、JCIは担当地域を越えて検査員を融通し合える組織改編を行った。機構は常に緊張感を持って業務に当たってもらいたい。
 運航会社の社長は事故当日、出航を止めなかったばかりか、事務所を不在にした。
 乗客家族は運航会社と社長に損害賠償を求める集団訴訟を起こす。第1管区海上保安本部は業務上過失致死容疑で捜査している。社長が事故の危険を具体的に予見できたか―などが焦点となろう。
 民事、刑事の両面から責任を明確にすることは、事故の真相により近づくためにも必要だ。
 オホーツク管内斜里町と地元の観光協会は知床の観光客を守る組織を新設する。リスク管理を「地域に課された道義的・社会的責任」とうたい、危険が予想されればツアーの中止を要請する。
 他に例のない取り組みだ。官民一体で信頼回復につなげたい。
 大型連休を迎える。道内の他の観光地も安全対策を点検し、万全の体制で来客を迎えてほしい。
 
事故の背景含め検証せよ/海自ヘリ墜落(2024年4月23日『東奥日報』-「時論」)
 
 東京都・伊豆諸島の鳥島東方海域で、夜間対潜水艦戦の訓練中だった海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が墜落した。衝突したとみられ、乗員計8人は、死亡が確認されるか、行方不明になっている。
 まずは、捜索・救助に全力を挙げなければならない。
 海自は既に2機のフライトレコーダー(飛行記録装置)を回収し、これまでのところ機体の異常を示すデータは見つかっていないという。さらに解析を進めるなど原因究明を急ぐのは当然だが、それだけでは不十分だ。
 中国の海洋進出などを念頭に、政府が防衛力強化を高く掲げる中での事故である。対潜水艦戦は海自が「最重要」と位置付ける任務だ。
 「防衛力強化」のかけ声を受け、今回のような実戦的訓練や実任務に注力する一方で、安全を確保するための基本的訓練が、おろそかになっていることはないのか。そんな視点からも、事故の背景を徹底的に検証すべきだ。
 現場海域では、艦艇8隻とヘリ6機で、潜航する海自潜水艦を実際に探知、追尾する訓練をしていた。当時は、事故機2機を含むヘリ3機がそれぞれ護衛艦から発艦し、飛行していたという。
 一般的に哨戒ヘリによる潜水艦探知は、ホバリング中の機体からつり下げた水中音波探知機(ソナー)を海中に投入して行う。3機態勢なら三角形の位置関係を維持しながら移動し、潜水艦の位置を絞り込むそうだ。
 現場には月が出ておらずリスクは高かったとされるが、それでもレーダーなどの計器があるし、衝突防止灯も目視できる。機内には周囲のヘリの位置を表示する機器が備え付けられ、接近すると警報が鳴る仕組みになっている。
 2021年にも夜間訓練で別々の護衛艦から発艦した哨戒ヘリ同士が接触する事故があり、海自は複数の航空機が展開する現場では、高度差を維持するなどの再発防止策も打ち出していた。
 これらが徹底されていれば、起こり得ない事故だったと言わざるを得ない。
 海自には事故の直接の原因を特定した上で、自衛隊を取り巻く環境による影響の有無を精査してもらいたい。既に海自内部では「実任務に追われ、基礎的な訓練が不足している」などの指摘も出ているという。もしそうなら、安全を確保する訓練こそ重視すべきだろう。実任務などと両立させる方策を検討しなければならない。
 夜間訓練中の事故は本県でも起きている。17年8月、海自大湊航空基地所属の哨戒ヘリ1機が本県沖の日本海に墜落し、乗組員2人が死亡、1人が行方不明となった。
 昨春、陸上自衛隊のUH60JAヘリが沖縄県宮古島付近の海上で墜落し、10人が死亡する事故が起きたことは、記憶に新しい。
 この事故も政府が南西諸島の防衛力強化を打ち出す中で発生した。陸自幹部らが現場を上空から視察するために飛行していた。わずか1年で重大な自衛隊ヘリ事故が2件である。
 今回の事故を巡り、海自は不安解消に努め、関連の情報を最大限公表しなければならない。21年の哨戒ヘリ接触事故では当初、「部隊運用に関わる」として、事故時の訓練内容を明らかにしなかったという。こうした対応は許されない。
 
(2024年4月23日『東奥日報』-「天地人」)
 
 介護が十分受けられない「介護難民」、近所から店が消えた「買い物難民」。生活サービスの確保に苦しむ人々を難民と呼ぶことがある。人口減、人手不足が背景にある。
 運転手不足でバスは減りタクシー配車も困難、通院など思うに任せない「移動難民」も本県は深刻。免許を持たず運転できない人が悲鳴を上げる。
 一般運転者がマイカーで乗客を有料送迎できる日本版ライドシェアが東京などで今月始まった。白タク行為として原則禁止だったがタクシー不足解消へ法の運用を見直し、地域や時間限定で認められた。札幌や仙台などは5月以降となる。県内で具体的な動きはまだ見られない。
 観光客らの増加をにらんだこの制度は本県でも有効だろう。加えて注目したいのが移動難民を救う「自治体ライドシェア」。市町村などが主体となり要介護者らを住民がマイカー送迎できる従来の制度を拡充、公共交通空白地で移動に困る住民を広く乗せられるようにした。県も「空白地の不便さをなくせる」と活用に前向き。
 諸外国と違い日本のライドシェアはタクシー不足を補完するためのものだが、普及拡大へ別業種の参入容認など条件緩和を求める声が強い。ただそれでタクシー業界が圧迫されプロが運転するタクシーが一層減れば、質の低下につながらないか。バランスの良い制度が定着して地方でも移動の自由が広がればいい。
 
生活保護費減額訴訟 適正な政策形成だったのか(2024年4月23日『河北新報』-「社説」) 
 
 
 
 
 生活保護費の基準額引き下げを巡り青森、宮城、秋田など29都道府県の受給者らが減額処分の取り消しと損害賠償を求めた訴訟で、国が引き下げを決めた過程の違法性を指摘する判決が相次ぐ。いずれの判決に対しても国は上訴し、争う姿勢を崩していない。
 生活保護制度は憲法が保障する生存権に直結する。判決は、重要な憲法理念をないがしろにしないよう司法が発した警告とも取れる。国民の生命に関わる政策決定の在り方として本当に適正だったと考えているのか、国は自省すべきだ。
 一連の訴訟では国が2013~15年、生活保護基準のうち食費や光熱費に充てる生活費部分を平均6・5%、最大10%引き下げた措置の妥当性が争点となっている。
 昨年11月の名古屋高裁判決は減額措置を「客観的な数値との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠き、裁量権の逸脱は明らか」として違法と判断した。一連の訴訟で初めて国に賠償も命じた。
 国の措置は物価動向を踏まえた減額(デフレ調整)と、生活保護基準額の水準と消費実態の乖離(かいり)解消(ゆがみ調整)によるものだったが、判決は、ゆがみ調整幅を引き上げ分も含め一律2分の1で秘密裏に処理した厚生労働省の対応を「本質的で極めて重要な点が長らくブラックボックスにされていた」と指摘した。
 今年2月の津地裁判決に至っては「生活保護費を10%削減するとの自民党の選挙公約に忖度(そんたく)し、専門的知見を度外視した政治的判断があった」と厚労省の姿勢を批判した。当時人気タレントの親の生活保護受給に端を発した「生活保護バッシング」の空気感も含め「考慮すべきでない事項を考慮した」と断じた。
 適正な手続きを踏まえた上で必要と結論付けたのであれば、減額も一つの判断として是認されよう。ただ、二つの判決が難じたのは、公正さと透明性が存立基盤であるにもかかわらず、政治的な外圧に抗することもせず裁量権を不適切に行使し、政策形成をゆがめる行政の姿だ。
 政府の方針を尊重し、その実現を図ることも官僚機構の役割ではあるが、憲法や法令の順守、言い換えると国民の権利を守るという大前提があってこその話だ。これを度外視して、保身のために有力な政党や政治家へのおもねりを自ら内在化させるのが常態化しているとすれば、もはや末期症状と言わざるを得ない。
 実質的に最終審の高裁が、政策決定過程を「ブラックボックス」と言い切ったことは非常に重い意味を持つ。厚労省生活保護行政に限らず、今回のような問題をはらみ得る。私たちに身近な自治体による施策の決定と遂行は公正で透明性を持った形で行われているのか、そこに何らかの不適切な意図が伏せられてはいないか、よくよく目を凝らさなければならない。
 
生活保護費減額訴訟 適正な政策形成だったのか(2024年4月23日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 生活保護費の基準額引き下げを巡り青森、宮城、秋田など29都道府県の受給者らが減額処分の取り消しと損害賠償を求めた訴訟で、国が引き下げを決めた過程の違法性を指摘する判決が相次ぐ。いずれの判決に対しても国は上訴し、争う姿勢を崩していない。
 生活保護制度は憲法が保障する生存権に直結する。判決は、重要な憲法理念をないがしろにしないよう司法が発した警告とも取れる。国民の生命に関わる政策決定の在り方として本当に適正だったと考えているのか、国は自省すべきだ。
 一連の訴訟では国が2013~15年、生活保護基準のうち食費や光熱費に充てる生活費部分を平均6・5%、最大10%引き下げた措置の妥当性が争点となっている。
 昨年11月の名古屋高裁判決は減額措置を「客観的な数値との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠き、裁量権の逸脱は明らか」として違法と判断した。一連の訴訟で初めて国に賠償も命じた。
 国の措置は物価動向を踏まえた減額(デフレ調整)と、生活保護基準額の水準と消費実態の乖離(かいり)解消(ゆがみ調整)によるものだったが、判決は、ゆがみ調整幅を引き上げ分も含め一律2分の1で秘密裏に処理した厚生労働省の対応を「本質的で極めて重要な点が長らくブラックボックスにされていた」と指摘した。
 今年2月の津地裁判決に至っては「生活保護費を10%削減するとの自民党の選挙公約に忖度(そんたく)し、専門的知見を度外視した政治的判断があった」と厚労省の姿勢を批判した。当時人気タレントの親の生活保護受給に端を発した「生活保護バッシング」の空気感も含め「考慮すべきでない事項を考慮した」と断じた。
 適正な手続きを踏まえた上で必要と結論付けたのであれば、減額も一つの判断として是認されよう。ただ、二つの判決が難じたのは、公正さと透明性が存立基盤であるにもかかわらず、政治的な外圧に抗することもせず裁量権を不適切に行使し、政策形成をゆがめる行政の姿だ。
 政府の方針を尊重し、その実現を図ることも官僚機構の役割ではあるが、憲法や法令の順守、言い換えると国民の権利を守るという大前提があってこその話だ。これを度外視して、保身のために有力な政党や政治家へのおもねりを自ら内在化させるのが常態化しているとすれば、もはや末期症状と言わざるを得ない。
 実質的に最終審の高裁が、政策決定過程を「ブラックボックス」と言い切ったことは非常に重い意味を持つ。厚労省生活保護行政に限らず、今回のような問題をはらみ得る。私たちに身近な自治体による施策の決定と遂行は公正で透明性を持った形で行われているのか、そこに何らかの不適切な意図が伏せられてはいないか、よくよく目を凝らさなければならない。
 
(2024年4月23日『秋田魁新報』-「北斗星」)
 
 〈描いても、想っても、記しても、話しても尽きない。こんなことを書いてゐる中に、国へ帰りたくなって来た。秋田言葉で何か、しゃべりたくなった〉
 
小坂町出身の日本画家福田豊四郎(1904~70年)の随想集「わがうたはふるさとのうた」にこんな一文がある。生涯にわたり故郷の自然や風俗を詩情豊かに描いた豊四郎の懐郷の念が伝わってくるようだ
▼13人きょうだいの四男。実家は薬局を営んでいた。16歳から京都や東京で絵を修業し、当時の日本画壇で革新的だった川端龍子(りゅうし)と土田麦僊(ばくせん)に師事。山樹社、新美術人協会、創造美術といった団体を結成しキャリアを重ね、色彩や空間、筆遣いなどに新味を取り入れ、伝統にとらわれない日本画を模索し続けた
▼今年は生誕120年の節目。5日に愛知県長久手市の名都美術館で、没後5年となる日本画家堀文子との特別展が始まった。堀は、進取の気性を漂わせながら故郷への思いを色濃く表現した豊四郎作品に触れ、画家としての姿勢や人生哲学を学んだとされる
▼特別展の担当学芸員は豊四郎について「郷土愛に満ちた作品は時代を超えて心に響く優しさを宿している」と話す。10月には京都市京都府立堂本印象美術館で回顧展が予定されている
▼故郷を離れても、豊四郎の創作の源には常に秋田の自然や思い出があった。グローバルな世の中だからこそ、その作品は郷愁を誘い共感を呼んでいるのかもしれない。古里としてもいま一度光を当てたい。
 
海自ヘリ墜落 事故の背景も検証せよ(2024年4月23日『山形新聞』-「社説」)
 
 東京都・伊豆諸島の鳥島東方海域で、夜間対潜水艦戦の訓練中だった海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が墜落した。衝突したとみられ、乗員計8人は、死亡が確認されるか、行方不明になっている。まずは、捜索・救助に全力を挙げてほしい。
 海自は既に2機のフライトレコーダー(飛行記録装置)を回収し、これまでのところ機体の異常を示すデータは見つかっていないという。さらに解析を進めるなど原因究明を急ぐのは当然だが、それだけでは不十分だ。
 中国の海洋進出などを念頭に、政府が防衛力強化を高く掲げる中での事故である。対潜水艦戦は海自が「最重要」と位置付ける任務だ。「防衛力強化」のかけ声を受け、今回のような実戦的訓練や実任務に注力する一方で、安全を確保するための基本的訓練が、おろそかになっていることはないのか。そんな視点からも、事故の背景を徹底的に検証すべきだ。
 現場海域では、艦艇8隻とヘリ6機で、潜航する海自潜水艦を実際に探知、追尾する訓練をしていた。当時は、事故機2機を含むヘリ3機がそれぞれ護衛艦から発艦し、飛行していたという。
 一般的に哨戒ヘリによる潜水艦探知は、ホバリング中の機体からつり下げた水中音波探知機(ソナー)を海中に投入して行う。3機態勢なら三角形の位置関係を維持しながら移動し、潜水艦の位置を絞り込むそうだ。
 現場には月が出ておらず、リスクは高かったとされるが、それでもレーダーなどの計器があるし、衝突防止灯も目視できる。機内には周囲のヘリの位置を表示する機器が備え付けられ、接近すると警報が鳴る仕組みになっている。
 2021年にも夜間訓練で別々の護衛艦から発艦した哨戒ヘリ同士が接触する事故があり、海自は複数の航空機が展開する現場では、高度差を維持するなどの再発防止策も打ち出していた。これらが徹底されていれば、起こり得ない事故だったと言わざるを得ない。
 海自には事故の直接の原因を特定した上で、自衛隊を取り巻く環境による影響の有無を精査してもらいたい。既に海自内部では「実任務に追われ、基礎的な訓練が不足している」などの指摘も出ているという。もしそうなら、安全を確保する訓練こそ重視すべきだろう。実任務などと両立させる方策を検討しなければならない。
 昨春、陸上自衛隊のUH60JAヘリが沖縄県宮古島付近の海上で墜落し、陸自幹部ら10人が死亡する事故が起きたことは、記憶に新しい。この事故も政府が南西諸島の防衛力強化を打ち出す中で発生した。ヘリは幹部らが現場を上空から視察するために飛行していた。
 わずか1年で重大な自衛隊ヘリ事故が2件である。今回の事故機は、長崎県大村航空基地徳島県小松島航空基地の所属だった。これらの地元では、不安感を抱く住民らも少なくないだろう。海自は不安解消に努め、関連の情報を最大限公表すべきだ。21年の哨戒ヘリ接触事故では当初、「部隊運用に関わる」として、事故時の訓練内容を明らかにしなかったという。こうした対応は許されない。
 
(2024年4月23日『山形新聞』-「談話室」)
 
▼▽だいぶ前にネットで見つけて以来、頭の隅に残る謎かけがある。「プロ野球とかけて国会議員と解く」。その心は「どちらもにんきがあります」。野球は人気を集めているし、議員には任期の縛りがあるというわけだ。
 
 
▼▽野球の場合、米大リーグを含めると今の方が関心が高いかもしれない。昨日はテレビのどのチャンネルも、ドジャース大谷翔平選手で盛り上がった。大リーグデビュー以来、メジャー通算本塁打数が176に達した。松井秀喜さんが10年間で重ねた数字を7年目で抜いた。
▼▽松井さんが「彼の存在の大きさを私の数字と比べる必要は全くない」と語るほどである。この先も人気をさらい続けるだろう。これに対して、国会の先生方は? 衆院の任期満了まで、残るは1年半となった。岸田文雄首相の思惑次第では満了前の解散もあるかもしれない。
▼▽ただ与党にとって足かせになっているのが、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件だ。28日投開票の衆院3補欠選挙で、唯一与野党対決の構図となった島根1区でも苦戦を強いられている。任期満了となる前に、政治への信頼に加えて人気までも回復する秘策はあるか。
 
海自ヘリ2機墜落/再発防止策は生かされたか(2024年4月23日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が、伊豆諸島の鳥島東方海域で夜間訓練中に墜落した。計8人が搭乗していた。救助された1人は死亡が確認され、残る7人は行方不明となっている。
 墜落現場の水深は約5500メートルと深く、捜索活動は難航している。人命が最優先だ。防衛省海上保安庁は行方不明者の発見、救助に全力を尽くしてほしい。
 海自によると、ヘリ6機と艦艇8隻で潜水艦を探知する訓練を実施中だった。事故当時、墜落した2機のほかにもヘリ1機が飛行していた。それぞれのフライトレコーダー(飛行記録装置)が近い場所で発見されたことから、木原稔防衛相は「2機が衝突した可能性が高い」との見方を示している。
 対潜水艦戦を想定した訓練では複数のヘリが近接する。さらに夜間で視認性が下がり、距離感の把握が困難だった可能性もある。
 海自では2021年7月にも鹿児島県・奄美大島沖で夜間訓練中のヘリ同士の接触事故があった。2機が互いの動きを正確に把握しなかったことが原因として、海自は高度をずらして飛行する、接近しすぎた際に警報が作動するシステムの導入―などの再発防止策を講じていたという。
 訓練は危険と隣り合わせであるものの、同様の重大事故を防げなかったのは、国防を担う組織として極めて深刻な事態だ。再発防止策に不備がなかったか、現場の隊員に徹底されていたかなど、詳細な検証が求められる。
 日本周辺の海域では他国の潜水艦や船舶が相次いで確認されており、海自は警戒監視や情報収集などで出動機会が増えている。このため隊員の訓練機会が減り、練度が下がっているとの指摘もある。
 平時の任務とともに、技量向上を図るための訓練が重要であることは言うまでもない。要員の在り方を含め、組織の構造的な問題についても解明すべきだ。
 今回の事故について、木原防衛相は「飛行中の機体に異常を示すデータはなかった」と説明している。昨年4月、陸自のヘリが沖縄県宮古島付近で墜落し、10人が亡くなった事故では、墜落直前にエンジンの出力が相次いで低下した直接の原因は特定できなかった。
 防衛省は機体の回収やフライトレコーダーなどの解析を通し、事故原因の特定と再発防止策の構築を急がなければならない。二度と同様の悲惨な事故を起こさないためには機器の不具合や操縦ミス、気象の変化など、さまざまなリスクを想定し、あらゆる対策を講じることが必要だ。
 
走る理由(2024年4月23日『福島民友新聞』-「編集日記」)
 
 消えかけた心の火を、再び燃え上がらせるものは何だろうか。教科書にも登場する太宰治の短編小説「走れメロス」の主人公メロスの場合は信頼だった
▼一歩も歩けないほど疲れ果てたメロスが思いを巡らせたのは、自身の到着を待つ友の存在。「間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ」。信じられているから再び立ち上がって、走った
▼バドミントンの桃田賢斗選手(富岡高卒)が日本代表からの引退を表明した。最盛期はどこまで行くのかと思わせるほど強かった。しかし、4年前の交通事故で負った目のけがが深刻だった。競技人生にピリオドを打つことも考えたが、再び世界一を目指す道を選んだ
▼ただ思うようなプレーができず、東京五輪など国際大会で結果を出せない日々が続いた。それでもパリ五輪を目指した。理由は自らの都合で一線を退くのではなく、今まで支え、応援してくれた人たちを前に諦めたくなかったからだと言う
▼今後は国内の大会に出場しながら、バドミントン教室などを通じて、応援してくれた子どもたちへの恩返しをしていく考えだ。日本代表は人生の通過点。福島が、全国が桃田選手を待っている。走る理由は尽きない。
 
【1人暮らし高齢者】社会制度の総点検必要(2024年4月23日『福島民報』-「論説」)
 
 1人暮らしの高齢者世帯が従来の予測を上回る早さで増加していくとの推計が今月公表された。2050年には全世帯の2割を占めるという。お年寄りの孤立を防ぎ、医療や介護を十分に行き渡らせられるのか。国と自治体は、誰もが安心して暮らせるよう、社会の制度を総点検する必要がある。
 世帯数の推計は、厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が国勢調査の結果などを踏まえて5年ごとにまとめている。2050年に日本全体で5261万世帯となり、2020年比で310万世帯少なくなる一方、65歳以上の単身世帯は30年間で346万世帯増の1084万世帯になるとした。都道府県別は公表されていないが、本県の推移も同様とみられる。
 人口減や少子化に歯止めがかからない上に、未婚率の高い団塊ジュニア世代が高齢期を迎えるのが背景にある。予期されていただけに、国などが有効な手だてを打てずに来ている現状を映し出したとも言える。
 身寄りがない高齢者にとって、まずは住まいや居場所の確保が課題となる。身元保証人がいないため、賃貸住宅への入居や入院、施設入所の手続きが進まない事態も予想される。判断能力が低下すれば、日常の金銭管理が容易ではなくなる。詐欺被害などに巻き込まれる恐れもあり、心配事は多岐にわたる。孤立が貧困を助長する懸念もあり、就労支援も重要だ。
 身内や地域とのつながりが希薄化しているとされる中、誰が寄り添い、見守るのかが問われてくる。住み慣れた場所で医療や介護を受けられるようにする「地域包括ケアシステム」を各地で拡充するなどの対策が求められる。町内会など地域組織を有効に活用し、日ごろから声をかけ合い、気軽に相談できる態勢づくりも欠かせない。
 今は夫婦で暮らしている人でも、死別や離婚で1人暮らしに転じる可能性がある。未婚者だけの問題とは捉えず、中高年者全員で将来の地域社会の在り方を考えたい。
 県は最新データに基づき、人口ビジョンを今年度中に見直す。世帯数の変化にも視点を置き、実情に見合った行政、民間、個人の役割を明示するなど主導的な取り組みを期待したい。(角田守良)
 
いつか必ず(2024年4月23日『福島民報』-「あぶくま抄」)
 
 「未完」ではなくなるのか。スペインのバルセロナにある世界遺産サグラダ・ファミリア聖堂が着工したのは、日本の明治初期。140年過ぎた今も建設が続く中で先日、メインタワーが2026年に完成すると報じられた
▼設計したガウディは31歳で主任建築家になった。資金難にあえぐ一方、規模は拡大する。73歳で生涯を閉じるが、完成したのは4本の鐘塔のうち1本だけだった。計画は引き継がれ、現在は日本人が主任彫刻家を務める。工期の短縮は、ITを活用した設計技術の進歩が背景にあるようだ
▼「未完」の2文字に、震災と原発事故からの地域再生を思う。避難指示の解除は進んでも、かつての住民同士のつながりは十分に取り戻せていないという。お店が少なく、買い物や食事に事欠く地域も。14年目の春を迎えても、明日への課題は山積みだ。それでも帰還した住民は「必ずやり遂げる」と揺るぎない
▼ガウディは生前、いつ終わるのかを問われ「1世代の仕事ではない」と答えた。いずれ完成の時はやってくる。聖堂建設に習い、世界中の人々と手を取り合いたい。未曽有の苦難を世代をつないで乗り越え、復興を遂げれば、その魂は世界遺産級だ。
 
海自ヘリ墜落 事故の背景も検証せよ(2024年4月23日『茨城新聞』-「論説」)
 
 
 東京都・伊豆諸島の鳥島東方海域で、夜間対潜水艦戦の訓練中だった海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が墜落した。衝突したとみられ、乗員計8人は、死亡が確認されるか、行方不明になっている。
 
 
 まずは、捜索・救助に全力を挙げなければならない。
 海自は既に2機のフライトレコーダー(飛行記録装置)を回収し、これまでのところ機体の異常を示すデータは見つかっていないという。さらに解析を進めるなど原因究明を急ぐのは当然だが、それだけでは不十分だ。
 中国の海洋進出などを念頭に、政府が防衛力強化を高く掲げる中での事故である。対潜水艦戦は海自が「最重要」と位置付ける任務だ。
 「防衛力強化」のかけ声を受け、今回のような実戦的訓練や実任務に注力する一方で、安全を確保するための基本的訓練が、おろそかになっていることはないのか。そんな視点からも、事故の背景を徹底的に検証すべきだ。
 現場海域では、艦艇8隻とヘリ6機で、潜航する海自潜水艦を実際に探知、追尾する訓練をしていた。当時は、事故機2機を含むヘリ3機がそれぞれ護衛艦から発艦し、飛行していたという。
 一般的に哨戒ヘリによる潜水艦探知は、ホバリング中の機体からつり下げた水中音波探知機(ソナー)を海中に投入して行う。3機態勢なら三角形の位置関係を維持しながら移動し、潜水艦の位置を絞り込むそうだ。
 現場には月が出ておらず、リスクは高かったとされるが、それでもレーダーなどの計器があるし、衝突防止灯も目視できる。機内には周囲のヘリの位置を表示する機器が備え付けられ、接近すると警報が鳴る仕組みになっている。
 2021年にも夜間訓練で別々の護衛艦から発艦した哨戒ヘリ同士が接触する事故があり、海自は複数の航空機が展開する現場では、高度差を維持するなどの再発防止策も打ち出していた。
 これらが徹底されていれば、起こり得ない事故だったと言わざるを得ない。
 海自には事故の直接の原因を特定した上で、自衛隊を取り巻く環境による影響の有無を精査してもらいたい。既に海自内部では「実任務に追われ、基礎的な訓練が不足している」などの指摘も出ているという。
 もしそうなら、安全を確保する訓練こそ重視すべきだろう。実任務などと両立させる方策を検討しなければならない。
 昨春、陸上自衛隊のUH60JAヘリが沖縄県宮古島付近の海上で墜落し、10人が死亡する事故が起きたことは、記憶に新しい。
 この事故も政府が南西諸島の防衛力強化を打ち出す中で発生した。陸自幹部らが現場を上空から視察するために飛行していた。わずか1年で重大な自衛隊ヘリ事故が2件である。
 今回の事故機は、長崎県大村航空基地徳島県小松島航空基地の所属だった。これらの地元では、不安感を抱く住民らも少なくないだろう。
 海自は不安解消に努め、関連の情報を最大限公表しなければならない。21年の哨戒ヘリ接触事故では当初、「部隊運用に関わる」として、事故時の訓練内容を明らかにしなかったという。
 
越前市会が報酬増要請 議員の役割を語る機会に(2024年4月23日『福井新聞』-「論説」)
 
 越前市会が市長に議員報酬の増額を求める申し入れを行った。深刻になりつつある議員の「なり手不足」の改善につなげるため、市民の理解を得たい考えだ。市民には地方議会や議員の役割をあらためて考える機会となる。なり手不足が表すように地方議会への関心が薄れる現在、議員一人一人が住民と語り合う活動を活発化させてほしい。
 越前市会の立候補者数は近年減少し、前回2022年には定数22に対し1人超の23人にとどまった。若手新人が現れず、世代交代も進んでいない。
 議員の立候補者数の減少は全国的な課題だ。統一地方選があった昨年4月までの4年間で県内の選挙を見ると、市会は小浜市会、町会では五つの議会が無投票となった。
 こうした中、議員報酬の増額は近年、17年に池田町会、23年にはおおい町会が可決している。ともに、なり手不足対策を理由としている。ただ、市議となると06年のあわら市以来のこととなる。
 越前市議の報酬は月額38万7千円(議長、副議長除く)。市会は「専業で生活できる環境を」と訴える。報酬が低額では確かに議員を職業として目指す意識は生まれにくいだろう。
 報酬の多寡を考えるとき、議員の活動内容の議論は欠かせない。
 全国町村議会議長会は先に、なり手不足を巡る報告書を公表したが、報酬額に見合う活動内容や活動量の「裏付け」をとらないまま増額に踏み切ると住民の不信感を招くと指摘した。もっともだ。市民が納得できる根拠が必要だ。
 議員には活動の現状報告にとどまらず、仕事の魅力、やりがいを語ってほしい。地域や市政が抱える課題は何か、各議員はどのように対応しようとしているのか。一方、議員を選ぶ市民は「仕事」として何を望むべきか。議論を深めてもらいたい。
 定数の議論も避けては通れない。
 越前市会が昨秋開いた「語る会」では市民から「定数を減らせばなり手不足も解消するのでは」との声が上がった。議員数は報酬総額の多寡にもつながる。定数の議論は地域の声をいかに拾い、届けるかが論点であり報酬とは別問題とされるが、切り離せないのが現実であり、むしろ議論を積極的に行う機会になる。
 22、23年に県内で無投票となった市町議員選挙では告示直前まで定数割れが危ぶまれた選挙もいくつかある。越前市議の報酬は今後、市長が設置する審議会で見直しが審議されるが、この話題を枠にとどまらせてはならない。各市町議会があらためて危機感を持ち、住民の関心を呼び起こす契機としてほしい。
 
海自ヘリ墜落 度重なる事故なぜ起きる(2024年4月23日『新潟日報』-「社説」)
 
 またも起きてしまった自衛隊機の重大事故だ。隊員の捜索と救助に全力を挙げるとともに、徹底的な原因究明が不可欠だ。再発防止策の実効性を高めてもらいたい。
 海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が20日深夜、伊豆諸島の鳥島東方海域で墜落した。
 計8人が搭乗しており、うち1人は死亡が確認され、7人は行方不明になっている。
 海自や海上保安庁などが捜索に当たっている。現場は水深が約5500メートルもあるなど困難が予想されるが、一刻も早い救助に力を尽くしてほしい。
 事故は、ヘリ6機と艦艇8隻で海自の潜水艦を探知する大規模な訓練中に起きた。
 防衛省は2機のフライトレコーダー(飛行記録装置)を回収し、解析を進めている。木原稔防衛相は22日の記者会見で「現時点で、飛行中の機体に異常を示すデータはなかった」と明らかにした。
 防衛省・海自は2機に「著しい近接」があり、空中で衝突した可能性が高いとみている。
 近接したヘリは互いに目視で位置を確認するが、夜間は機体に取り付けられたライトでしか判別できず、見えにくくなるという。
 海自では2021年7月に鹿児島県・奄美大島東方沖で訓練中のヘリ2機が接触する事故があり、その後、複数の航空機が展開する現場では、高度差を指示するなど再発防止策の徹底を打ち出した。
 21日に会見した海自トップは「再発防止策をしっかり守っていたら衝突は起こらない」と述べた。
 それなのに、どうして事故が起きてしまったのか。再発防止策はきちんと実行されてきたのか、疑問が生じる。
 訓練中の事故を未然に防ぐため、真に実効性のある再発防止策を強く求めたい。
 近年は中国など他国の潜水艦が日本周辺で確認されている。
 事故の背景には、現場部隊が中国への対処に追われ、基礎的な訓練が不足しているとの指摘がある。予算不足に伴う飛行時間の低下を挙げる声もある。
 海中の潜水艦を探知し、動向を探る対潜水艦戦で海自は「世界トップクラスの実力」だという。
 中国と台湾の緊張関係から有事に発展すれば、日米連携のために海自の能力がさらに重視される可能性が高い。
 自衛隊機の事故は海自以外でも相次いでいる。
 22年1月には航空自衛隊のF15戦闘機が石川県の小松基地を離陸した直後、洋上に墜落して2人が死亡した。23年4月には陸上自衛隊の哨戒ヘリが沖縄県宮古島付近で墜落し、搭乗していた10人全員が死亡する事故が起きた。
 事故を繰り返さないためにも、自衛隊全体で隊員の練度を維持、向上させる方策を真剣に考える必要がある。
 
(2024年4月23日『新潟日報』-「日報抄」)
 
 4月の新入社員は笑顔の出勤が続いているだろうか。接客や製造ラインでいきなり手痛いミスをして、しおれている人もいるだろう。春の陽光に目がくらみ、しばし落ち込むのもまた新人だ
▼新入社員のタイプを民間シンクタンクの産労総合研究所が発表している。本年度は「セレクト上手な新NISAタイプ」という。学生時代のほとんどを感染禍に耐え忍んだ世代である
▼授業どころか、サークル活動も直接の対面は限られた。ひざ詰めの話し合いなどは少し苦手かもしれない。でも、物心ついた頃からスマホを使いこなすホープたちだ。一人で情報を集めて、取捨選択して前へ進むすべには、きっとたけている
▼そこに今年始まった新NISA(少額投資非課税制度)を重ねたようだ。この制度には、コツコツ型の積立枠と積極型の成長投資枠がある。それをどう組み合わせて進むのか。新人たちは「セレクト上手」と見られているようだ
▼岸田政権肝いりの新NISAは元手資産のある富裕層優遇策という見方も根強い。新入社員は学資ローンの返済に追われるなど、NISAどころでない人も多い。待望の初任給からNISAを始めようという人も、円安をはじめ経済の混迷に戸惑っているはずだ
▼実質賃金は依然減少傾向である。進歩著しい生成人工知能(AI)で就職先の将来性を調べるなど朝飯前だろう。AIの返答次第でいまの職場に見切りをつける-。そんな「セレクト上手」であることも経営者のみなさん、お忘れなく。
 
米国の制裁関税 保護主義の先鋭化は危険(2024年4月23日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 バイデン米大統領が中国製の鉄鋼とアルミニウムの制裁関税を3倍に引き上げることを検討すると表明した。
 中国は反発を強めている。トランプ前政権下での制裁と報復の応酬が再燃しかねない。
 双方が自国産業に傾斜した内向きな姿勢を改め、自由貿易をゆがめる通商政策を自制すべきだ。
 バイデン氏は、中国政府が鉄鋼会社に多額の補助金を支給し、過剰生産によって鉄鋼価格の下落を招いている―と批判する。
 中国製品への制裁関税は、前政権で発動後も維持してきた。中国とは「公正な競争を求めている」とし、さらに踏み込んだ関税によって自国の鉄鋼産業を保護する立場を鮮明にした。
 中国からの鉄鋼輸入は、米国の需要全体の0・6%程度に過ぎない。一方的な制裁を発動するだけの合理性があるのか疑問だ。
 制裁関税に言及したのは、むしろ大統領選に向けたアピールの意味合いが大きい。トランプ氏は中国製品に高関税を課す方針を示す。これに対抗し、鉄鋼労働者の票を取り込む意図が透ける。
 保護主義を競い合う状況は冷静さを欠く。機能不全に陥っている世界貿易機関WTO)を立て直し、貿易紛争を解決する道を探るのがあるべき姿だ。
 問題の根底には中国の不公正な通商政策があることも、見過ごしてはならない。
 中国の粗鋼生産量は世界全体の過半に達する。政府が国有企業を補助金で支え、2000年代以降に生産能力を高めてきた。
 不動産不況が長引き、中国経済は景気減速とデフレ懸念が強まっている。国内で消費しきれない製品を安値で輸出し、各国との通商摩擦を招いてきた。批判を受け続けながら過剰生産を放置してきた責任は大きい。
 欧州連合(EU)は、中国の電気自動車(EV)に対する補助金についても調査を始めた。中国製EVが補助金で輸出競争力を高め、域内の自動車産業が不利になったと判断すれば、制裁関税を課す可能性がある。
 中国は昨年末、EV用リチウムイオン電池に使われる黒鉛の輸出規制を発動した。EUへの対抗措置だとの見方もある。
 米大統領選が激化し、中国を念頭に保護主義的な主張が先鋭化する懸念がある。中国が呼応すれば貿易摩擦の影響は世界に及ぶ。世界1、2位の経済大国は、公正な通商環境をつくる責務を負っていることを認識すべきだ。
 
ギャンブル依存症 「スマホ」1台から泥沼に(2024年4月23日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 ギャンブル依存症のすさまじい実態に驚いた人も多いだろう。
 米大リーグ大谷翔平選手の元通訳、水原一平容疑者の違法賭博問題である。借金返済のため、大谷選手の口座から24億円以上を不正送金したとして連邦地検に訴追された。賭けた回数は2年余の間に約1万9千回、損失総額は60億円を超える。
 ギャンブル依存症は思いのほか身近な病だ。厚生労働省の推計によると、国内で依存症が疑われる人は300万人を超える。
 オンラインでのギャンブルが拡大している。水原氏がのめり込んだのもオンラインのスポーツ賭博だ。スマホが1台あれば、24時間どこにいてもギャンブルができる環境になっている。新たな対策を講じなくてはならない。
 ギャンブル依存症は意志の弱い人がなる―。そんな誤解はないか。心がけの問題ではなく、条件がそろえば誰もがなり得る病だ。
 慢性的にギャンブルができる状態が続くと脳内の物質が過剰に働き、社会生活に支障を来してもやめられなくなる。周りの人は気づきにくい。本人に病識がないことも多く、借金を隠すためうそをつくこともあるからだ。
 深刻なのは、患者の低年齢化だ。
 公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会」によると、2023年の相談件数は計479件で、8割近くを20~30代が占めた。
 スポーツ賭博を含むオンラインカジノの相談は全体の20%に達した。闇バイトに勧誘されるなど犯罪絡みの相談も増えている。
 特別法がある競馬やサッカーくじなどを除けば、日本ではそもそも賭博は違法である。海外で合法的に運営されているオンラインカジノも、日本から利用すると犯罪に当たる。若い世代に正確な知識を届ける工夫が要る。
 ネット上にはオンラインカジノの広告があふれている。政府は規制に乗り出すべきだ。
 ギャンブル依存症の治療と支援の拡充も欠かせない。
 まずは、本人と家族が抱え込まずに相談できるかが鍵になる。精神保健福祉センター医療機関などの窓口の周知を進めたい。
 大阪市でカジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)の計画が進んでいる。依存症患者のいっそうの増加が懸念される。
 18年にギャンブル依存症対策基本法が施行されたものの、人材育成などの取り組みは十分とは言えない。政府と自治体は、オンラインカジノの実態も踏まえて対策を練り直すべきだ。
 
海自ヘリ墜落/原因究明と再発防止急げ(2024年4月23日『神戸新聞』-「社説」)
 
 伊豆諸島の鳥島東方海域で20日深夜、潜水艦を探知する訓練中だった海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が墜落した。搭乗していた計8人のうち1人が死亡、7人が行方不明となった。現場は水深が約5500メートルあり捜索は難航している。海自と海上保安庁が連携し、一刻も早い救助に全力を挙げてほしい。
 訓練にはヘリ6機と艦艇8隻が参加し、海自護衛艦隊部隊のトップが隊員の技量を確認する「訓練査閲」を実施していた。夜間でもあり訓練の難易度は高かったという。
 事故当時は大村(長崎県)、小松島徳島県)の両航空基地などに所属する3機が飛行していたが、先に大村基地のヘリの通信が途絶し、その後、小松島基地のヘリも連絡が取れない状態であることが分かった。
 海自は両機のフライトレコーダー(飛行記録装置)と機体の一部などを一帯から回収した。両機の近接を示すデータもあることから、木原稔防衛相は「両機が衝突した可能性が高い」との見方を示した。受信した緊急信号は一つだったが、近い場所から2機が同時に発すると一つに聞こえる可能性があるという。
 機体の異常を示すデータは確認されていないが、海自は同型機の訓練飛行を当面見合わせるとともに、事故調査委員会を設置した。原因を徹底的に究明して万全の再発防止策を講じなければならない。
 海自哨戒ヘリによる夜間訓練中の事故は相次いでいる。2017年には青森県の竜飛崎(たっぴざき)沖で1機が墜落、21年にも鹿児島県の奄美大島東方沖で2機が接触した。
 21年の事故後、海自は複数の航空機が展開する現場では、高度差を取るよう管制が指示するなどの再発防止策を打ち出した。海自トップの酒井良・海上幕僚長は会見で「再発防止策をしっかり守っていたら衝突は起こらない」との認識を示した。
 今回、なぜ高度を分離する対策が取られなかったのか、接近を知らせるアラートは作動しなかったのか、など詳しい検証が急がれる。
 対潜水艦の訓練を巡っては近年、中国船などによる領海侵入の多発で出動に追われ、十分な時間が割けないと指摘する声もある。背景も分析し、対策に生かす必要がある。
 訓練中以外にも事故が続く。23年4月には沖縄県宮古島付近で陸上自衛隊UH60JAが墜落し、乗員10人全員が死亡した。制御系の異常で出力が低下する「ロールバック」が起きたと推定されたが、原因を特定できないまま飛行を再開した。
 
ハンセン病差別 依然として深刻 指摘重い(2024年4月23日『山陽新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
 
 先月公開され、岡山市でも上映されたドキュメンタリー映画「かづゑ的」は、瀬戸内市国立ハンセン病療養所「長島愛生園」に入所する元患者の宮崎かづゑさん(96)の半生を描いたものだ。
 同じ入所者と結婚し、仲むつまじい。78歳でパソコンの使い方を覚え、エッセーを出版した。みずみずしい筆致が多くの人を引きつける。
 「患者は絶望なんかしてない。らい(ハンセン病)に負けてなんかいませんよ」。映画で語った言葉は前向きである。だが、そうした元患者の姿や思いは広く知られているとは言い難い。
 ハンセン病問題について厚生労働省が初めて実施した全国意識調査の報告書が公表された。調査は昨春、施策検討会が提言したのを受け、インターネットで約2万1千人から回答を得た。
 ハンセン病は「らい菌」による感染症で感染力は弱い。薬の開発で治療法も確立されている。にもかかわらず、元患者や家族との関わりについて「とても」「やや」を合わせ「抵抗を感じる」割合は、「ホテルなどで同じ浴場を利用」「元患者の家族と自分の家族が結婚する」で20%前後に上った=グラフ。
 報告書が、ハンセン病の知識は十分浸透しておらず、偏見や差別は依然として深刻な状況にあると指摘したことを重く受け止める必要がある。
 元患者だけでなく、家族も苦しんでいる。最大180万円を家族に支給する補償法を巡り、今年11月までの申請期限を5年間延長する改正法案を、超党派の議員団が今国会に提出する方針を固めた。
 施行から4年半たつが、申請済みの人が約8400人と、国の想定の3分の1ほどにとどまることが一因だ。「身内に患者がいたことを知られるのを恐れて申請できない人も多い」との指摘もある。
 岡山県は長島愛生園に加えて、邑久光明園(瀬戸内市)があり、ハンセン病問題は地域の課題である。両園の関係者らが先月、岡山市で開いた県ハンセン病問題対策協議会で、県は昨年度、県内の10小中高でハンセン病問題の講演会を行ったと報告した。
 今回の報告書は、啓発活動が市民に届いていない可能性があることも指摘した。取り組みをさらに工夫したい。
 責任が大きいのはやはり国だ。医学的根拠もなく、患者の隔離を始め、治療法の確立後も患者の断種・中絶の強要といった人権侵害を続けた。
 強制隔離は1996年のらい予防法廃止まで続いた。偏見や差別の解消を粘り強く進めねばならない。
 
見直し進む名札(2024年4月23日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 飲食店でスマートフォンを使ったアンケートに答えた。店の雰囲気や料理の感想を入力し「接客の良かったスタッフの名前」を尋ねられて手が止まった
▼数回利用しただけの店なので顔は覚えていても名前までは知らない。胸の名札を確認すると、平仮名で名字を書いていた
▼名札の表記を巡る動きが接客業などで急だ。多くがフルネームから名字、イニシャルに切り替え、そもそも着用をやめた店もある。名札から個人情報を検索されたり、SNS(交流サイト)で氏名をさらされたりするのを防ぐ狙いという。客からの不当な要求や行為「カスタマーハラスメント」対策の一環である
▼バスやタクシーの車内に乗務員の氏名を掲示する義務は昨年8月に廃止された。薬局で働く薬剤師や登録販売者の名札は、名字のみでも差し支えなくなった
自治体も見直しに動く。岡山市は昨年10月、職員の名札を名字のみに変更した。窓口で応対した来庁者から「SNSで名前をさらす」と言われた職員の訴えなどがきっかけという
▼名札には相手に身分を伝え、仕事に責任を持たせるといった効果がある。客、市民との距離感を縮め、コミュニケーションを円滑にもできよう。一方、SNSの普及で氏名を明かすことがリスクにもなる。良質なサービス提供とプライバシー保護。両立が難しい時代である。
 
海自哨戒ヘリ墜落 訓練の安全策、再確認せよ(2024年4月23日『中国新聞』-「社説」)
 
 海上自衛隊の哨戒ヘリコプター2機が20日深夜、伊豆諸島の鳥島東方海域に墜落した。潜水艦探知の夜間訓練中に起きた事故で墜落は2機がほぼ同時と見られている。
 
 搭乗していた8人全員が死亡、行方不明になった事態は極めて重大だ。不明者の救助をとにかく急いでほしい。
 夜間とはいえ、荒れた天候でもなかったようだ。飛行中の機体に異常を示すデータも確認されていない。木原稔防衛相は2機が衝突した可能性が高いとしている。フライトレコーダー(飛行記録装置)も回収している。捜索とともに、徹底的に原因を究明しなければならない。
 海に囲まれた日本は中国の海洋進出などを念頭に潜水艦に対する防御を重ねてきた。敵に見立てた海自の潜水艦を哨戒ヘリが2、3機で探知し、つり下げ式の水中音波探知機(ソナー)を海中に落として追い込む対潜哨戒は「海自のお家芸」とされる。
 訓練中の事故だけに海自関係者のショックは計り知れない。事故当時は海自第4護衛隊群(広島県呉市)などの練度を確認する「訓練査閲」中だったという。
 哨戒ヘリの事故は今回以外にも近年、2件起きている。2017年には青森県の竜飛崎沖で夜間訓練中に1機が墜落し、2人が死亡した。計器を修正している際の人為ミスとされている。2021年には鹿児島県の奄美大島沖で2機が空中接触した。幸いにも死者は出なかったが、見張りや連携の不十分が原因とされる。
 海自トップである酒井良海上幕僚長は、今回の事故後の会見で「過去の事故の教訓から導かれる安全対策を講じていれば事故は起きない」と説明したようだ。しかし、墜落した2機が接近しているデータがあることも認めている。安全対策が徹底できていないとすればその原因は何なのか。海自は組織を挙げて問い直す責任があるはずだ。
 自衛官の人数は約22万8千人。定員より約1万9千人も少ない定員割れが続く。ただでさえ人員が足りないのに、中国や北朝鮮への対応に追われ、安全確保に必要な訓練が十分積めていないのではないか。機体同士が接近すれば警報が作動するシステムも搭載されていたはずなのに、実際には作動していなかったという指摘もある。
 事故はヒューマンエラーという見方が現時点では強いものの、なぜそうした状況が起こりえたのか。十分な分析と検討が必要だ。そうでなければ残された隊員たちも安心して訓練できるはずもない。
 沖縄県宮古島沖に陸自ヘリが墜落し、師団長以下10人全員が死亡した昨年4月の事故も記憶に新しい。事故を招いたとされるエンジン2基の出力低下の原因を明確に特定もしないまま「この先一人の犠牲者も出さない」と飛行を全面再開させる方針を発表してまだ1カ月である。
 過去の失敗を教訓にできているのか、極めて疑わしいと言わざるを得ない。今回の事故を契機に、海自は隊員の生命を最優先する、安全対策を再確認してもらいたい。
 
春と修羅100年(2024年4月23日『中国新聞』-「天風録」)
 
 相当に無理して自費出版したと聞く。100年前の4月、花巻農学校の教師だった宮沢賢治が世に出した生前唯一の詩集が「春と修羅」である。最愛の妹の臨終を描く「永訣(えいけつ)の朝」が教科書によく載るが、表題作も奥深い
▲岩手の自然に、心象風景を織り交ぜる。<いかりのにがさまた青さ/四月の気層のひかりの底を/唾(つばき)し はぎしりゆききする/おれはひとりの修羅なのだ>。難解な一節が妙に心に残る
▲修羅とは争いの絶えない世界を指す。命輝く4月に賢治は何に怒り、胸の底で闘っていたか。仏教の求道者としての心の揺れとも解釈できるというが、そこから離れても意味深だろう。怒りの感情は確かに苦くもある
▲名古屋大の研究チームが、学生50人の心理実験を英科学誌に報告した。わざと怒らせて気持ちを紙に書かせ、捨てさせると感情が鎮まったという。何かと歯ぎしりする日本の政治に当てはめると…。ごみ箱ならぬ投票箱に落とす、あの紙に思い至る
▲「まことのことばはうしなはれ」と詩の中で嘆いた賢治なら、今の世の言葉の軽さをどう思うだろう。「春と修羅」は初版千部の大半が戻された。だが推敲(すいこう)を重ね、紡いだ言葉は100年響き続ける。
 
海自ヘリ墜落 事故の背景も検証せよ(2024年4月23日『山陰中央新報』-「論説」)
 
 
 東京都・伊豆諸島の鳥島東方海域で、夜間対潜水艦戦の訓練中だった海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が墜落した。衝突したとみられ、乗員計8人は、死亡が確認されるか、行方不明になっている。
 まずは、捜索・救助に全力を挙げなければならない。
 海自は既に2機のフライトレコーダー(飛行記録装置)を回収し、これまでのところ機体の異常を示すデータは見つかっていないという。さらに解析を進めるなど原因究明を急ぐのは当然だが、それだけでは不十分だ。
 中国の海洋進出などを念頭に、政府が防衛力強化を高く掲げる中での事故である。対潜水艦戦は海自が「最重要」と位置付ける任務だ。
 「防衛力強化」のかけ声を受け、今回のような実戦的訓練や実任務に注力する一方で、安全を確保するための基本的訓練が、おろそかになっていることはないのか。そんな視点からも、事故の背景を徹底的に検証すべきだ。
 現場海域では、艦艇8隻とヘリ6機で、潜航する海自潜水艦を実際に探知、追尾する訓練をしていた。当時は、事故機2機を含むヘリ3機がそれぞれ護衛艦から発艦し、飛行していたという。
 一般的に哨戒ヘリによる潜水艦探知は、ホバリング中の機体からつり下げた水中音波探知機(ソナー)を海中に投入して行う。3機態勢なら三角形の位置関係を維持しながら移動し、潜水艦の位置を絞り込むそうだ。
 現場には月が出ておらず、リスクは高かったとされるが、それでもレーダーなどの計器があるし、衝突防止灯も目視できる。機内には周囲のヘリの位置を表示する機器が備え付けられ、接近すると警報が鳴る仕組みになっている。
 2021年にも夜間訓練で別々の護衛艦から発艦した哨戒ヘリ同士が接触する事故があり、海自は複数の航空機が展開する現場では、高度差を維持するなどの再発防止策も打ち出していた。
 これらが徹底されていれば、起こり得ない事故だったと言わざるを得ない。
 海自には事故の直接の原因を特定した上で、自衛隊を取り巻く環境による影響の有無を精査してもらいたい。既に海自内部では「実任務に追われ、基礎的な訓練が不足している」などの指摘も出ているという。
 もしそうなら、安全を確保する訓練こそ重視すべきだろう。実任務などと両立させる方策を検討しなければならない。
 昨春、陸上自衛隊のUH60JAヘリが沖縄県宮古島付近の海上で墜落し、10人が死亡する事故が起きたことは、記憶に新しい。
 この事故も政府が南西諸島の防衛力強化を打ち出す中で発生した。陸自幹部らが現場を上空から視察するために飛行していた。わずか1年で重大な自衛隊ヘリ事故が2件である。
 今回の事故機は、長崎県大村航空基地徳島県小松島航空基地の所属だった。これらの地元では、不安感を抱く住民らも少なくないだろう。
 海自は不安解消に努め、関連の情報を最大限公表しなければならない。21年の哨戒ヘリ接触事故では当初、「部隊運用に関わる」として、事故時の訓練内容を明らかにしなかったという。
 こうした対応は許されない。
 
プロジェクトX」の今昔(2024年4月23日『山陰中央新報』-「明窓」)
 
 
 NHKで人気番組だった「プロジェクトX」が今月、18年ぶりに復活した。目立たずともひたむきな人や事業に光を当て、新幹線や瀬戸大橋建設、温水洗浄便座の開発など、規模も中身も多彩に現場を追った。
 世相の違いがあり、また支持されるとは限らない。前の時は戦後の焼け野原から復興し、英知と技術で先進国の仲間入りを果たしたという歴史の共通認識があったと思う。先輩諸氏の血のにじむような努力が、現代日本の栄光につながっていると捉え共感した。今はどうか。
 特に国を支えた科学技術が衰え、証左でよく挙がるのが日本発の論文数だ。1980年代~2000年代初めは量が多く、世界2位の時期があったが23年の公表で5位。注目され数多く引用される論文に限ると近年、韓国やスペイン、イランに抜かれ過去最低の13位だった。
 理系離れ、足りぬ研究者に予算、目先の利益優先で軽視される基礎研究と良くない話が聞こえる。「失われた30年」とともに、消えそうな自信や誇りが番組の評判にどう影響するのか注視する。
 番組冒頭と終了時は前と同じ中島みゆきさんが歌い、曲も変わらない。優れたアートは回る時代に関係なく超越するということか。アートの語源はラテン語のアルスで、芸術というよりは身近な技術、知識、習慣の意味がある。くすぶっていても丁寧に生きれば、「地上の星」にいつの日かなれるかもしれない。(板)
 
【海自ヘリ墜落】捜索と原因究明を急げ(2024年4月23日『高知新聞』-「社説」)
 
 
 不明者の捜索を急ぎたい。墜落の衝撃は大きい。徹底検証し、再発防止に取り組む必要がある。
 伊豆諸島の鳥島東方海域で、夜間訓練中の海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が墜落した。搭乗していた計8人のうち1人の死亡が確認された。残る7人を海自や海上保安庁が捜索している。
 海自は事故調査委員会を設置し、同型機の訓練飛行を見合わせた。再開には原因究明が不可欠だ。
 訓練はヘリ6機と艦艇8隻で、潜水艦を探知する目的で行っていた。2機は別々の護衛艦から飛び立ち、午後10時38分ごろ1機の通信が途絶え、間もなくもう1機とも連絡が取れない状況だと分かった。
 周辺でヘリの回転翼のブレード(羽根)や機体の一部、ヘルメット数個が発見された。2機のフライトレコーダー(飛行記録装置)も回収されている。これまでの調べでは、飛行中の機体に異常を示すデータは得られていないという。状況から、2機は衝突した可能性が高いとみられている。
 潜水艦対処は海自の最重要任務に位置付けられる。潜ったまま航行する潜水艦は位置を把握することが難しい。敵潜水艦の脅威を排除するためには動向の把握が重要となる。
 このためSH60哨戒ヘリは、ホバリング中の機体からソナーを海中につり下げ、音波を出して潜水艦の位置を探る。正確な情報を得るため、護衛艦と連携しながら複数機で行うことになる。
 近接したヘリは互いに目視で位置を確認する。見通しが悪くなる夜間は、機体に取り付けられたライトでの判別を迫られる。機内には周囲のヘリの位置を表示し、接近を警報で知らせる機器も装備するが、操縦の難しさは格段に高まるという。
 実際、夜間訓練では同型ヘリの事故が相次ぐ。2017年8月には青森県沖の日本海で1機が墜落し、死者が出た。21年7月には鹿児島県・奄美大島沖で2機が接触する事故が起きている。
 海自は、複数の航空機が展開する現場では高度差を指示するなど再発防止策の徹底を打ち出してきた。高度を分離する措置がとられれば衝突の可能性は低くなるが、衝突したのであればそうした対応がとられていなかった疑いが強まる。当時の状況を明らかにすることが重要だ。
 日本周辺の安全保障環境が厳しさを増している。海洋進出を進める中国が潜水艦の増強を進め、台湾有事への警戒感も高まる。海自は日本の防衛への重要な任務に、対潜水艦戦の能力強化や周辺国の動向監視に取り組んでいる。
 ただ、中国への対処で任務が増加する中、訓練に十分な時間をかけられる状況にないとの指摘もある。それと事故との因果関係は明確ではないが、再発の防止にはこうした背景の分析も欠かせない。
 安保政策の転換や防衛費の大幅増額が、現場への過度の負担となっては防衛力に影響する。原因究明は多面的に進める必要がある。
 
根回し(2024年4月23日『高知新聞』-「小社会」)
 
 日本の企業文化といえる根回しは、海外のビジネスパーソンには不評らしい。労力を割いた企画が「聞いていない」の一言で「ちゃぶ台返し」に遭った経験でもあれば、反感も分からないではない。
 ただ、デメリットだけ、でもないだろう。合理性が求められる経済活動の中で、この慣習が残ったのにはそれなりの理由がある。元明治大学学長の故・山田雄一さんも著書「稟議(りんぎ)と根回し」で、「協働者という名の他人に対する配慮」と擁護した。
 確かに、根回しには手間と時間がかかりがちだ。それでも、相手の立場や感情を尊重することで上司や関係部署との無用な衝突は避けられる。物事を円滑に進めるための、日本人の知恵といえよう。
 そんなルールは社会全般に及ぶ。例えば原発再稼働。地元同意という前提条件には住民への根回し、というより正面からの説明が求められよう。だが、それさえかまっていられないほど焦っているのか。
 東京電力新潟県柏崎刈羽原発7号機に、地元の同意を得ないまま核燃料を装塡(そうてん)し始めた。作業を終えると制御棒を引き抜くだけで再稼働状態に。1月の能登半島地震で、自然災害と原発事故が重なった場合の避難に不安が高まっている。日本の文化には到底なじまない強引さである。
 たとえ県知事が最終的に同意しても、形のみの根回しに住民への配慮はうかがえない。海外のビジネスパーソンでなくとも眉をひそめよう。
 
パリ五輪参加問題 IOC方針は納得できぬ(2024年4月23日『西日本新聞』-「社説」)
 
 パリ五輪は開幕まで100日を切った。2022年2月にロシアがウクライナに軍事侵攻して以来、初めて開催される五輪となる。
 「平和の祭典」と呼べる状況ではない。ロシアと同盟国ベラルーシの選手の五輪参加を巡り、国際スポーツ界は混乱の渦中にある。
 原因は国際オリンピック委員会IOC)の一貫性を欠く対応だ。
 IOCは両国の選手が国の代表でなく、中立の個人として出場することを認めた。ウクライナ侵攻を積極的に支持せず、軍や治安機関に所属していないなど条件を付けた。
 侵攻直後は、両国の選手を国際大会から除外するよう国際競技連盟や大会主催者に勧告していた。その後は復帰を検討し、昨年3月に中立選手として世界選手権などへの参加を促した経緯がある。
 競技団体の足並みはそろっていない。陸上競技は両国の除外を継続している。
 一方、出場を認めた柔道ではウクライナが世界選手権をボイコットした。自国に多大な犠牲をもたらしている国の選手と対戦したくないのは当然だ。
 別の競技では、対戦した中立選手との握手を拒否する選手がいた。五輪に出場するロシアとベラルーシの選手は少数とみられるが、ウクライナ以外の選手も集中して競技に臨めないのではないか。
 いくら中立と称しても、五輪で活躍すれば国威発揚に利用される可能性がある。
 パリはウクライナと同じ欧州にあり、フランスはウクライナを軍事支援している。中立選手の出場への反発が、大会をボイコットする動きに発展する懸念は拭えない。
 五輪憲章はスポーツの政治的中立を掲げ、五輪の目的は「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進」と明確にうたっている。
 人間の尊厳を著しく傷つけるロシアとベラルーシの戦争行為が五輪憲章に反するのは明らかである。IOCの方針は納得できない。
 ウクライナ侵攻が始まった翌月に開催された北京冬季パラリンピックを思い起こしたい。国際パラリンピック委員会(IPC)は中立選手の出場をいったん認めたが、参加国や選手の強い抗議を受けて撤回した。
 大会の主役である選手の意向に沿った方針転換だった。IOCもロシアとベラルーシの選手の出場を考え直すべきではないか。
 もちろん、選手たちに罪はない。両国の選手が出場するのに必要なのは、ロシアが侵攻をやめることだ。
 パレスチナ自治区のガザではイスラム組織ハマスイスラエル軍の戦闘が続く。イランとイスラエルとの間でも衝突が起きている。
 国家間の緊張が五輪を揺るがす事態は避けなければならない。国連は改めて、パリ五輪期間中の休戦決議の順守を呼びかけるべきだ。
 
海自ヘリ2機墜落 原因究明と対策が急務だ(2024年4月23日『熊本日日新聞』-「社説」)
 
 海上自衛隊が「最重要任務」と位置付ける対潜水艦戦(対潜戦)訓練中に起きた重大事故だ。衝撃は大きい。墜落した2機の哨戒ヘリコプターには計8人が搭乗していた。死者が出たことは残念でならない。行方不明者が残されており、現場海域の捜索を急がなければならない。
 事故は20日深夜、伊豆諸島沖で起きた。海自によると、訓練にはヘリ6機と潜水艦や艦艇計9隻が参加していた。哨戒ヘリは機体からつり下げたソナーを海中に投入し、音波によって潜水艦の位置を探る。当時は墜落した2機のほか、もう1機が飛行していたという。2機は衝突して墜落したとみられている。
 同型ヘリは、2017年と21年にも夜間訓練中に事故を起こしている。青森県沖での17年の事故では1機が墜落し、死者が出た。海自は複数の航空機が活動する際は高度差を取るなどの再発防止策を講じていたが、教訓は生かされなかった。その事実を重く受け止めるべきだ。
 潜水艦を探知し、捜索する際にはヘリ同士が近づく場合もある。特に視認性が劣る夜間は難しく、熟練と相当な注意が必要とされる。木原稔防衛相は墜落した2機のフライトレコーダー(飛行記録装置)の解析を進めているとした上で「現時点で、飛行中の機体に異常を示すデータはなかった」と明らかにした。
 それならばなぜ、事故は起きたのか。原因究明と対策を急ぐ必要がある。周囲を海に囲まれた日本にとって、潜水艦への警戒監視や情報収集は防衛の要だ。冷戦期は旧ソ連の南下を抑え、近年は台湾有事を念頭に練度を高めていた。「世界トップクラス」と称される対潜戦能力の維持は、安全保障上の死活問題でもある。
 気がかりなのは、事故の背景に隊員の訓練不足を指摘する声があることだ。近年、日本近海では中国船による領海侵入が相次ぎ、北朝鮮によるミサイル発射も繰り返されている。実際の任務に追われる現場では、基礎的な訓練の不足を訴える隊員もいたという。
 それが事実であるならば、見過ごすことはできない。十分に基礎的な訓練ができない状況では再び事故を招き、隊員の命を危険にさらしかねない。有事の備えにもほころびが生じるだろう。
 政府は23年度から5年間で総額約43兆円の防衛費を投じて南西防衛を強化するとしているが、任務に対する人員や予算の配分は適正だったのか。自衛隊全体を見据えて再検証してもらいたい。
 相次ぐ自衛隊機や米軍機の事故は、国民にとっても大きな不安要素だ。昨年、陸自第8師団(司令部・熊本市北区)所属の10人が犠牲となったヘリ事故では、1年かけても墜落の原因が特定されなかった。米軍オスプレイの墜落事故でも、詳細な原因は明かされないまま飛行が再開された。
 自衛隊活動には、国民の信頼が不可欠だ。原因を明らかにし、不安解消に努めてもらいたい。
 
ルーツ(2024年4月23日『熊本日日新聞』-「新生面」)
 
 松本清張の『砂の器』は、東北弁が事件を解くカギになる。バーに来た2人組の客のうち片方が他殺体で発見される。「年輩[ねんぱい]の客が話していたのは、たしかにズーズー弁でした」。店員らは一様に証言する
▼犯人捜しの目はまっ先に東北へ向かうが、行き詰まる。捜査に展望が開けるのは、東北と同じようなしゃべり方をする土地が島根県の出雲地方にあると分かってからだ
▼そんな不思議な方言分布の解明につながるかもしれない。日本人の祖先に関する新たな研究成果が米科学誌に発表された。東北の人たちに多いゲノム(全遺伝情報)を調べたところ、4~5世紀頃の朝鮮半島の人や沖縄の古代日本人に近いことが分かった。出雲は地理的に朝鮮半島に近い
▼列島の北から南まで現代の約3200人のゲノムを分析したという結果の全体は、さらに興味深い。沖縄の人の多くは「縄文系」、関西の人は古代中国の黄河周辺にいた漢民族に近い「関西系」に分類できた。「東北系」と合わせ3系統である
▼これまでの有力仮説は2系統で、狩猟民族の縄文人と、大陸からの渡来人が混じった弥生人だった。3系統となればもっと入り組む。われわれの祖先はどこから来たのか
▼ルーツを考えるにつけ思い出す言葉がある。作家小田実さんの持論だった「人間みなチョボチョボや」。民族や国籍にこだわるのはくだらない。人間はみなちっぽけな存在で、対等、平等、自由なはずだという意味。小田節が胸に響くのは世界がそうなってはいないからである。
 
海自ヘリ墜落 事故の背景も検証せよ(2024年4月23日『佐賀新聞』-「論説」)
 
 東京都・伊豆諸島の鳥島東方海域で、夜間対潜水艦戦の訓練中だった海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が墜落した。衝突したとみられ、乗員計8人は、死亡が確認されるか、行方不明になっている。
 まずは、捜索・救助に全力を挙げなければならない。
 海自は既に2機のフライトレコーダー(飛行記録装置)を回収し、これまでのところ機体の異常を示すデータは見つかっていないという。さらに解析を進めるなど原因究明を急ぐのは当然だが、それだけでは不十分だ。
 中国の海洋進出などを念頭に、政府が防衛力強化を高く掲げる中での事故である。対潜水艦戦は海自が「最重要」と位置付ける任務だ。
 「防衛力強化」のかけ声を受け、今回のような実戦的訓練や実任務に注力する一方で、安全を確保するための基本的訓練が、おろそかになっていることはないのか。そんな視点からも、事故の背景を徹底的に検証すべきだ。
 現場海域では、艦艇8隻とヘリ6機で、潜航する海自潜水艦を実際に探知、追尾する訓練をしていた。当時は、事故機2機を含むヘリ3機がそれぞれ護衛艦から発艦し、飛行していたという。
 一般的に哨戒ヘリによる潜水艦探知は、ホバリング中の機体からつり下げた水中音波探知機(ソナー)を海中に投入して行う。3機態勢なら三角形の位置関係を維持しながら移動し、潜水艦の位置を絞り込むそうだ。
 現場には月が出ておらず、リスクは高かったとされるが、それでもレーダーなどの計器があるし、衝突防止灯も目視できる。機内には周囲のヘリの位置を表示する機器が備え付けられ、接近すると警報が鳴る仕組みになっている。
 2021年にも夜間訓練で別々の護衛艦から発艦した哨戒ヘリ同士が接触する事故があり、海自は複数の航空機が展開する現場では、高度差を維持するなどの再発防止策も打ち出していた。
 これらが徹底されていれば、起こり得ない事故だったと言わざるを得ない。
 海自には事故の直接の原因を特定した上で、自衛隊を取り巻く環境による影響の有無を精査してもらいたい。既に海自内部では「実任務に追われ、基礎的な訓練が不足している」などの指摘も出ているという。
 もしそうなら、安全を確保する訓練こそ重視すべきだろう。実任務などと両立させる方策を検討しなければならない。
 昨春、陸上自衛隊のUH60JAヘリが沖縄県宮古島付近の海上で墜落し、10人が死亡する事故が起きたことは、記憶に新しい。
 この事故も政府が南西諸島の防衛力強化を打ち出す中で発生した。陸自幹部らが現場を上空から視察するために飛行していた。わずか1年で重大な自衛隊ヘリ事故が2件である。
 今回の事故機は、長崎県大村航空基地徳島県小松島航空基地の所属だった。これらの地元では、不安感を抱く住民らも少なくないだろう。
 海自は不安解消に努め、関連の情報を最大限公表しなければならない。21年の哨戒ヘリ接触事故では当初、「部隊運用に関わる」として、事故時の訓練内容を明らかにしなかったという。
 こうした対応は許されない。(共同通信・出口修)
 
新潟水俣病訴訟判決 認定基準を見直し救済を(2024年4月23日『琉球新報』-「社説」)
 
 1956年5月1日の水俣病の公式確認から68年になろうとしているのに、今なお救済を求めて長期の裁判を強いられる事態が続く。2009年施行の水俣病被害者救済特別措置法で救済されなかった未認定患者による四つの訴訟で、昨年9月の大阪地裁、今年3月の熊本地裁に続き、18日の新潟地裁でも患者と認定する判決が出た。国の認定基準が司法によって繰り返し否定されている。
 原因企業側は控訴した。認定が47人中26人にとどまり、国の責任を認めなかったため、原告側も控訴しそうだ。どの訴訟も原告は高齢化している。国と企業はただちに和解協議に入り、認定基準を見直し救済を行うべきである。
 主な争点は三つあり、判断は3地裁でばらついた。賠償請求権の20年の除斥期間について、新潟地裁判決は画期的だった。「(申請期間中に)罹患(りかん)を認識できず、あるいはその可能性を認識したとしても、差別や偏見のために請求をちゅうちょするなどしていたもので、権利行使が困難となる事情があったというべきだ」「除斥期間の適用が著しく正義・公平の理念に反する」と原告に寄り添う判断を示した。大阪地裁と熊本地裁除斥期間の起点が異なり、大阪地裁は請求権を認めた。
 他の2点では新潟地裁は原告に厳しかった。患者認定で民間医師が作成した「共通診断書」に依拠できるかどうかについて、大阪地裁はこれを認め原告全員を認定した。新潟地裁熊本地裁は認めず、認定を限定した。
 国の責任について原告側は、1961年に各地の同種工場の排水から水銀が検出されたことから、国が規制権限を行使すべきだったと主張したが、新潟地裁だけが認めなかった。新潟水俣病の公式確認は65年である。国が対策を取っていれば被害はもっと小さかったのではないか。
 患者認定の審査は、国の通知に従って熊本・鹿児島・新潟県新潟市が行っている。77年の認定基準は、2004年と13年の最高裁判決が見直しを求めたのに、国は限定的な見直ししかしてこなかった。これ以上、患者を苦しめてはならない。
 国は、被害が発生した不知火海沿岸と阿賀野川流域での健康調査も実施すべきである。メチル水銀と症状の疫学的因果関係、被害の全容を解明しなければ、最終解決に至らないからだ。
 政府の調査や規制、救済への後ろ向きな姿勢は、有機フッ素化合物(PFAS)汚染や基地被害に苦しむ沖縄県民にとって全く人ごとではない。
 まず、健康被害の可能性を広く予測して調査を行い、被害を未然に防ぐこと。次に、被害が疑われたらすぐ実態を調べ、拡大を阻止すること。そして必要な補償・救済を迅速に行うことだ。差別や偏見が解決を遅らせていることも重要な教訓である。公害問題の原点に立ち戻るべきだ。
 
「無書店市町村」に生まれた古書店(2024年4月23日『琉球新報』-「金口木舌」)
 
 本屋が1軒もない市町村を「無書店市町村」と呼ぶらしい。2022年の出版文化産業振興財団の調査によると全国26%、沖縄は41市町村中23市町村(56・1%)が該当する
▼配送料を取らないネット書店の利用者増も影響している。フランスは書店文化を守るため、ネット書籍販売業者の無料配送を制限する法律を21年に制定した
▼書店業界の苦境が続く中、沖縄は古書店が元気だ。各地で魅力的な古書店が誕生する。「無書店市町村」の大宜味村で生まれた「山ブックス」。20日で開店から半年を迎えた
大宜味村で育った店主・崎山すなおさん(31)は広告業界勤務などを経て店を開いた。きっかけは廃校の小学校に残る本を救おうと配布イベントを企画したこと。SNSで発信すると中南部から客が訪れた
▼「本でやんばるに人が来てくれると実感した」と崎山さん。店には多くの沖縄本が並ぶ。書棚を貸し、本を売る「共同書店」の利用者も増えた。散歩がてらの地域住民、観光客と客層はさまざま。本屋が人と人をつなげ、新たな文化を育んでいる
 
海自ヘリ2機墜落 相次ぐ事故 背景に何が(2024年4月23日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 20日深夜、伊豆諸島の鳥島東方海域で海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が墜落した。
 事故はイージス艦護衛艦など9隻とヘリ6機が参加する大規模な訓練中に起きた。哨戒ヘリ1機の通信が午後10時38分ごろ途絶。同11時4分には別の1機とも連絡が取れないことが判明した。
 それぞれ4人ずつの計8人が搭乗していた。訓練に参加していた艦艇やヘリの捜索で1人が救助されたものの、死亡が確認された。
 自衛隊海上保安庁は捜索を続けるが、残る7人の行方は不明だ。何より人命救助に全力を注いでほしい。
 2機は海自が「最重要任務」と位置付ける対潜水艦戦(対潜戦)の訓練中だった。
 哨戒ヘリは海上ホバリングしながらつり下げたソナーを海中に入れ、音を出して潜水艦を探す。位置を正確に特定するため通常は2、3機で絞り込むという。
 海自は、その際に衝突した可能性が高いとみる。2機のフライトレコーダーには現時点で機体の異常を示すデータはないという。
 対潜戦の夜間訓練では度々事故が起きている。2017年には青森県沖で1機が墜落し死者が出た。21年にも奄美大島沖で2機が接触する事故が発生した。
 互いの機体が見えない夜間は特にリスクがある。3年前の事故で海自は、複数の航空機が展開する場合は高度差をつける指示を出し、僚機と接近しすぎた場合に警報が作動するシステムを搭載するなどの再発防止策を打ち出した。
 教訓は生かされたのか。詳しい原因究明が求められる。
■    ■
 中国の海洋進出などを念頭に、政府は防衛力強化を掲げる。今回の訓練の目的は、海自護衛艦隊部隊のトップが隊員の技量を確認する「訓練査閲」だった。
 一方、海自の現場部隊は中国への対処に追われ、基礎的な訓練が不足していると訴える隊員もいる。
 自衛隊では昨年4月にも、宮古島沖で陸上自衛隊のヘリが墜落して10人が死亡する事故が起きた。
 この事故も陸自幹部らが現場を上空から視察するために飛行していた最中に起きた。
 わずか1年後の大事故であり、「非常事態」と受け止めなければならない。
 パイロットなど搭乗員の熟練度は訓練内容に達していたか。防衛力強化を急ぐあまり、無理なスケジュールになっていないかとの視点からも検証が必要だ。
■    ■
 米軍基地が集中する県内でも訓練中の墜落事故が後を絶たない。16年には米軍普天間飛行場所属のオスプレイが夜間の給油訓練中、名護市安部の沖合に墜落した。現場は集落に近く一歩間違えれば住民を巻き込んだ惨事となる恐れもあった。
 県内では自衛隊の配備強化に伴い大規模な日米共同訓練も頻回に行われている。相次ぐ自衛隊機の重大事故に不安感を抱く県民は少なくない。
 海自は原因究明を急ぎ、再発防止策をまとめた上で、その情報について公開を徹底すべきだ。
 
衆院3補選の結果が出れば今後は茂木敏充の進退が焦点 自民党の瓦解で政治が動く(2024年4月23日『日刊スポーツ』-「政界地獄耳」)
 
★政界は28日投開票の衆院3補選の結果を固唾(かたず)をのんで待つ状況だ。自民党は島根1区に候補者を立てているが、2つの不戦敗も含めて、決して楽な選挙ではない。21日、全国ではさまざまな選挙が行われたが、任期満了に伴う東京都目黒区長選は無所属現職が票は減らしたものの当選。6選を果たした。無所属新人の元都議(国民民主党都民ファーストの会推薦)や立憲民主党推薦、社民党共産党支持、自民党推薦候補ら4人を破った。多選批判で関心は薄いかと思われたが、投票率は低投票率ながら、前回を2・88ポイント上回る36・21%だった。既成政党は現職に歯が立たなかったが、ことに都知事小池百合子が特別顧問を務める都民ファーストの敗北は、次期衆院選挙で同党が都内で複数候補を擁立するとの戦略を左右しかねない。
★愛知県碧南市議選は定数22に対して26人が立候補したが、作家・百田尚樹名古屋市長・河村たかしが共同代表を務める政治団体「日本保守党」の公認候補が、党公認の第1号当選者となった。日本維新の会NHK党(現・みんなでつくる党)も地方議会で議席を持ち、国政へ勢いをつけた。2大政党で政権交代をやりやすくするという選挙制度に変わってから約30年。制度ではなく、自民党の瓦解(がかい)という形で政治が動こうとしている。
★思えば先週、自民党総務会長・森山裕は「国民政党として選択を狭めてしまったことは重い責任だ。勝ち負けは別にして、信を問うべきだった」と、戦わずして負けを認めたことに強い不快感を示したが、背景には幹事長・茂木敏充への責任論があるという。自身にも“政治とカネ”に不透明な部分を抱える茂木は党議員の処分を決めたものの“政治とカネ”という不祥事全体への責任論もある。また派閥解体を首相(総裁)が言い出しても茂木派は存続させ、最近になって解体が決まったばかりだ。この動きは、既に総裁選挙が始まっているといえるだろう。今後は茂木の進退が政局の焦点に浮上する。(K)
 
離婚後共同親権(2024年4月23日『しんぶん赤旗』-「主張」)
 
高校無償化外しは許されない
 当事者から不安と怒りの声があがるなか、離婚後共同親権を導入する民法改定案が、自民・公明・立民・維新4党の共同提案による修正のうえ衆院を通過し、参院で審議入りしました。法案が新たな人権侵害を生みかねないという懸念に対し、修正の中身は全く不十分です。
 法案は、離婚時に共同親権か単独親権かを両親が協議し、合意できないときは家庭裁判所が判断するとします。
■さまざまな危惧
 法案には、▽離婚協議の際、DVや虐待から早く逃げたいなど不本意でも共同親権を選ばざるを得ないケースがでる▽裁判所がDVを適切に判断できないなど、不本意共同親権が裁判所によって強制される恐れがある▽子どもの意思を確認する体制が不十分―などの懸念があります。
 共同親権となった場合、子どもの医療・進学・転居などが単独で決められず、そのたびに協議が必要になります。父母間に真の合意がないまま共同親権となった場合、▽重要なことが速やかに決められない▽両親の争いが長期化し子どもにストレスを与える▽DV被害者が加害者から逃げられないなど別居親の干渉・支配を継続させる―など、子どもの福祉、権利を害する危険があります。
 そうした懸念を受け立民は当初、▽父母の合意がない場合、裁判所は共同親権を認めない▽子どもの教育や居所の指定を単独でできる「監護者」に父母の一方を定めることを義務付ける―などの修正案を示しました。当事者の不安に一定応えるものでした。
■新たな問題も判明
 しかし、その後、自民・公明・立民・維新4党が合意した修正案にそれらは入らず、▽監護について定める重要性の啓発▽親権者の決定が父母双方の真意によるものか確認する措置をとる▽施行後5年をめどに必要な見直しをする―などを付則に入れるのにとどまりました。これではあまりに不十分で、DV被害者らの危惧は解消されません。
 審議を通じて新たな問題も明らかになりました。日本共産党の本村伸子衆院議員の質問に、共同親権の場合、高校授業料無償化の所得認定で別居する両親の収入が合算され、無償化の対象から外れる事態が起きることを文科副大臣が認めました。こうした例が児童扶養手当など少なくとも28件あると判明しています。ひとり親支援制度などが使えなくなることがあってはなりません。
 父母が合意に至らず裁判所が共同親権を命じるなら、最低でも監護者の指定を必須とすべきです。
 法案に子どもの意見表明権を明記し、親権・監護者の決定や面会交流などあらゆる場面で子どもの意思・気持ちが尊重されることを明確にすべきです。
 親権という用語や概念を見直し、子どもが安全・安心に暮らせるための親の責務、社会による子どもの権利と福祉の保障を明確にする必要があります。
 立民の石川大我議員は19日の参院本会議で「法案には国民の理解が得られていない」とのべました。そうであれば、安易な修正で法案を通すことがあってはなりません。参院での徹底した審議が必要です。
 
(2024年4月23日『しんぶん赤旗』-「潮流」)
 
 この季節になると口ずさみたくなる歌があります。〽五月の若者が 五月の娘に赤い花ささげる 五月の花…
▼学生時代にキャンパスで耳にした女性コーラス。ゆるやかなメロディーとみずみずしい歌詞に、初夏の到来を感じたものです。歌集を見ると、作詞作曲が峯陽(みね・よう)と
▼50年代、東大音感合唱研究会に参加しうたごえ運動を主宰する井上頼豊、関忠良らに師事。後年「おばけなんてないさ」など子ども、幼児向けの作詞・作曲で知られ、NHK「みんなのうた」で30曲以上も放送されるほどに
▼この峯さんが、全国老地連(全国老後保障地域団体連絡会)の名称で知られる、たたかう高齢者運動のリーダーを担った上坪陽(かみつぼ・ひかり)さんだったとは。訃報記事を目にした筆者にとって、二重の驚きでした
▼その活躍がひときわ輝いたのが、2008年4月に強行実施された、75歳以上の高齢者を差別する後期高齢者医療制度の廃止・中止を求める運動でした。同年5月14日、降りしきる雨の中、600人を超す高齢者が厚労省包囲行動。「雨が降ろうが、風が吹こうが、今日の天気よりいまの政治の方がもっと悪い」。酷寒の年末、48時間の怒りの厚労省前座り込みでも「かけがえのない命と人生を守れ」と
▼運動に寄せる思いは日本高齢期運動連絡会のニュースに紹介された、第1回全国高齢者大会愛唱歌への上坪さんの応募作品にくっきりと。「長生きして良かったと だれもがいえる明日をめざして 歩きましょう あなたとともに…なかまとともに」