海自ヘリ墜落 捜索と原因究明に全力を(2024年4月22日『産経新聞』-「主張」)

キャプチャ
事故機と同型の哨戒ヘリコプターSH60K
 
 海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が20日深夜、伊豆諸島の鳥島東方海域で墜落した。搭乗していた隊員は計8人だった。収容された隊員の死亡が確認され、行方不明の隊員の捜索が続いている。
 木原稔防衛相は2機が衝突した可能性が高いとの見方を示した。
 2機は現場海域付近で護衛艦から飛び立ち、潜水艦探知の夜間訓練をしていた。
 日本と周辺の海を守る訓練中の事故である。殉職した隊員に哀悼の誠を捧(ささ)げたい。
海自と海上保安庁が残る搭乗員を捜索している。現場は水深が5500メートルもあり捜索に困難も伴うが、救助に全力を尽くしてほしい。
 昨年4月、陸上自衛隊第8師団のUH60JAヘリが沖縄県宮古島周辺海域で墜落し、視察のため搭乗していた同師団長ら隊員10人が殉職した。それに続く海自ヘリ2機の事故は衝撃が大きい。
 洋上で2機のフライトレコーダー(飛行記録装置)が回収された。近い場所で発見されたことから衝突の可能性が高いとみられている。海自は事故調査委員会を設置した。
 日本は海洋国家だ。先の大戦大東亜戦争)では米軍の潜水艦によって、日本の艦船や輸送船が沈められたり、海上交通路(シーレーン)や港湾付近に機雷を敷設されたりした経験がある。現代でも日本は、中国やロシアの潜水艦の脅威にさらされている。
 日本に脅威を及ぼす潜水艦を発見し、日本有事の際には撃沈する対潜水艦戦の能力を海自が磨くことは、極めて重要だ。
 SH60Kは米軍のヘリを母体に海自独自の対潜システムを加えたヘリだ。海自は事故機と同型のヘリの警戒監視のための運用は続け、訓練は停止する。
 深度や海流、水温などさまざまな条件の海で訓練しなければ潜水艦探知能力は高まらない。訓練停止が長引けば搭乗員の練度を保てず、抑止力と対処力は低下する。海自は事故原因の究明を急ぎ、再発防止策を講じた上で訓練を再開してほしい。
 有事に戦う組織である自衛隊の航空機は、民間であれば許されない厳しい条件下でも飛行する。それでも任務を遂行し、生還するために、適切な訓練が必要である。
 
尊い犠牲を胸に刻む、海自ヘリ墜落(2024年4月22日『産経新聞』-「産経抄」)
 
 
キャプチャ
海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリ
 
 年貢米を運ぶ土佐の船が、沖でしけに遭い難破した。乗組員の野村長平らは南の島に流れ着く。天明5(1785)年のことだという。黒褐色の岩、断崖絶壁が連なる海岸線。<島そのものが、巨大な岩石の塊のようにみえた>。
 史実に基づく吉村昭の小説『漂流』である。罪人が遠島された三宅島や八丈島のはるか南、漂着したのは伊豆諸島の鳥島だった。長平はアホウドリの肉で露命をつないだとされる。後から流れ着いた人々と船を造り、島を発(た)つのに十数年を要した。

 島全体が活火山にして、国の天然記念物に指定されてもいる。いまは無人島である。文字通りの「絶海の孤島」はしかし、わが国の領土として地図の上に刻まれ、周囲の海は平和が保たれている。その陰で日々、汗を流し続ける自衛隊の存在に思いを馳(は)せないわけにはいかない。
 無情の事故に言葉を失う。鳥島から東に約270キロの海域で20日深夜、海上自衛隊の哨戒ヘリコプター2機が墜落した。艦艇や航空機とともに潜水艦を探知する訓練に加わっていたという。状況から、2機は衝突した可能性が高いとみられている。
 搭乗していた計8人のうち、救助された隊員の死亡が確認された。墜落した哨戒ヘリには、夜間や悪天候の中でも安全に着艦できる装置が備わっていたと聞く。広い海で「なぜ」の思いは胸を去らないものの、過酷な環境下での訓練を抜きに国の安全が守れないのも事実だろう。
 陸自のヘリが沖縄県宮古島付近で墜落し、10人が亡くなった昨年4月の事故はまだ記憶に新しい。今回の訓練に臨んだ隊員も、遠く離れた郷土を守るため、任務を全うする一念だったろう。いまは尊い犠牲を胸に刻み、残る隊員の一刻も早い救助を切に願う。