自治体負担のはずが…「みなし仮設」入居者の7割超が家賃立て替え 「出費いつまで…」「早く返金を」(2024年4月22日『東京新聞』)

 
 能登半島地震で避難し「みなし仮設住宅」で暮らす石川県内の被災者から本紙に、「家賃を立て替えているが、いつごろ支払われるのか?」という声が届いた。県によると、本来は市町が負担する家賃を被災者が立て替えている事例が7割超に上る。避難先で始まった新生活で出費を余儀なくされる被災者からは、早期の支払いを望んでいる。(奥田哲平、広田和也、西浦梓司、西村理紗)
 
着の身着のまま「みなし仮設」に入居した被災者。電子レンジや冷蔵庫などの家電製品、食卓なども買いそろえなければならなかった=金沢市内で

着の身着のまま「みなし仮設」に入居した被災者。電子レンジや冷蔵庫などの家電製品、食卓なども買いそろえなければならなかった=金沢市内で

◆「ホテルにいた方が良かったかも」

 輪島市で被災した湊口由起美さん(56)は金沢市に避難し、2月上旬に家賃5万9000円の1LDKのアパートに入居した。契約の際に家賃2カ月分や礼金などで三十数万円を払い、4月分も家賃を立て替えた。「子どもの教育費もあり、すぐに動かせるお金を用意するのが難しい。これなら2次避難先のホテルにいた方が良かったのかも」
 みなし仮設は自治体が民間の賃貸住宅を借り上げ、被災者が最長2年住める。「住宅の被害認定調査で半壊以上」「ライフラインが途絶し、長期間居住できないと市町が認める人」などが対象。富山、福井、新潟各県への避難者を含め、15日時点で石川県内の被災者3155世帯が利用する。
 
 
 入居手順は、希望する被災者が住民票のある市町に申請後に県が書類を審査。県から決定通知が出てから、被災者と市町、物件の貸主の3者で賃貸契約を結んでから入居する。今回の地震では、罹災(りさい)証明書の発行前に被災者自らいち早く物件を探して入居を始めた事例が多い。
 その場合、一般的な民間賃貸と同じように貸主と入居者の2者契約になるが、後からさかのぼっての手続きも可能。罹災証明書などを提出した上で「みなし仮設」として3者契約に切り替え、被災者がそれまで支払った家賃や礼金なども返金されるはずだった。
 だが、3者契約の事務作業が遅れている。県が10日時点で集計した約2100世帯のうち、73%が2者契約のままだった。

◆公費支援品の購入費も申請できず

 輪島市の自宅が全壊し、1月下旬から金沢市内のアパートに暮らす70代の高齢者夫婦は、2月21日に3者契約のための書類を避難先の金沢市役所に提出した。だが、何の連絡もなく、家賃の支払いが続く。
 3者契約書がないため、公費で支援対象となる家電製品(テレビ、冷蔵庫、洗濯機)の購入費(上限13万円)の申請もできない状態だという。「リタイアした私たちは年金があり、少しの蓄えがある。若い人は仕事を失い、子どもの教育費もある。早く返金してあげてほしい」と望む。
 

◆入居審査の確認、スピード上がらず

 被災者による家賃の立て替えが続くのは、行政側による「3者契約」の事務作業が遅れているためだ。
 石川県によると、みなし仮設の入居申請は1日80〜90件。10人ほどで審査をしているが、内容確認で市町へ問い合わせることも多く、スピードが上がらない。
 審査を終えた県の決定通知は、被災元市町を通じて被災者に。仲介した不動産業者とともに被災者、貸主が契約書に記名押印し、改めて市町に送付。その市町が記名押印した時点で「3者契約」が成立する。

◆担当者「遅くなっても、安心して待って」

 この契約が成立した日の翌月末までに、立て替えた家賃がまとめて被災者に支払われる仕組み。2月1日に入居し、3月1日に契約が成立した場合は最長4月末まで待つ必要がある。
 輪島市の担当者は「遅くなっても、さかのぼって確実に支援が受けられるので、安心して待っていてほしい」と話した。