加齢性難聴 早期発見へ検診車派遣 岡山大病院など 専門医不在地域に(2024年4月14日『山陽新聞』)

加齢性難聴 早期発見へ検診車派遣 岡山大病院など 専門医不在地域に(2024年4月14日『山陽新聞』)

 
キックオフイベントでお披露目された検診車=13日、瀬戸内市中央公民館
キックオフイベントでお披露目された検診車=13日、瀬戸内市中央公民館
加齢性難聴 早期発見へ検診車派遣 岡山大病院など 専門医不在地域に
 
「加齢性難聴は早期発見が重要」と話す片岡准教授
「加齢性難聴は早期発見が重要」と話す片岡准教授
 
 岡山大病院聴覚支援センターと岡山県耳鼻咽喉科医会は、年齢とともに進行する「加齢性難聴」の早期発見プロジェクトを立ち上げた。全国的にも珍しい聴力検査専用の検診車を導入し、県内市町村のうち、専門医がいない、または少ない地域を巡回。簡易チェックで異常が見つかった人に対し、耳鼻科の受診や補聴器の使用を促していく。

 40代から徐々に進んでいく加齢性難聴は、老眼と異なり本人が大きな変化を感じにくく、周囲から指摘され初めて気付くケースが多い。さらに、聞こえづらいと認識しても「年のせい」と長年放置する人もいるという。

 プロジェクトは、県内自治体の中でも、専門医がいないなどの理由で受診機会が限られる20市町村に検診車を派遣する。タブレット端末を使って簡易検査を行い、高齢者自身に現時点の耳の状態を把握してもらうとともに、必要に応じて適切な医療につなげていく。具体的な巡回スケジュールについては、自治体からの要望も聞きながら計画する。

 検診車はキャンピングカーを改造したもので、聴覚検査用の防音環境を整えている。補聴器販売の新日本補聴器(三重県)が製造し、運行業務も同社が担当する。

 13日には、常勤の耳鼻科専門医が1人だけという瀬戸内市の中央公民館でキックオフイベントがあり、検診車がお披露目された。市民ら約60人が医師による講演を聞き、早期発見の重要性を学んだほか、実際に簡易検査を体験した。

聴力検査受ける習慣を

 プロジェクトを主導する岡山大病院聴覚支援センターの片岡祐子准教授に、加齢性難聴を巡る現状や取り組みの意義を聞いた。

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 加齢性難聴は音を感じる細胞が年齢とともに減少することで起こる。40代から衰え始め、70代になると約半数の人が難聴になっているといわれる。

 初期は自覚症状に乏しい。周囲が異変に気付くきっかけは、テレビの音を大きくする、会話で聞き返すことが増えた―といった行動がある。

 聞き取りにくい状態を放置しておくと症状は進む。コミュニケーションが取りづらくなるだけでなく、耳から入る音が減り、脳の働きが衰えていく。その結果、懸念されるのが認知症だ。予防可能な発症リスクの中でも、難聴は最大の危険因子といわれる。おかしいと思ったら専門医を受診し、補聴器の使用を始めるなど早めの対策を取る必要がある。

 しかし、問題なのは実際に医療機関を受診する人が少ないこと。日本補聴器工業会(東京)が2022年に行った全国調査によると、難聴と思っても6割もの人が診察を受けていなかった。「生活がちょっと不便になるくらいだから我慢しよう」と考える人もいれば、近所に耳鼻科医がおらず、遠くの病院に行くことに抵抗感を持つ人もいるとみられる。

 私たちが進めるプロジェクトは、住み慣れた地域で気軽に耳の状態がチェックできる取り組みだ。聴力検査を受ける習慣を身に付けるきっかけにしてほしい。