[検証 万博の現在地]<2>前進と足踏み 海外「二極化」…焦る協会 働きかけ強める(2024年4月10日『読売新聞』) 

 大阪・関西万博に自前のパビリオンを出展するスイスの政府代表、マヌエル・サルチリ(58)は3月21日、京都市左京区京都工芸繊維大学に足を運んだ。

 3日前に来日し、19日には万博会場の人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)で、パビリオンの起工式に臨んだ。大学を訪れたのは、万博閉幕後の部材の再利用のアイデアを聞くためだ。スイス人設計者がこの大学で建築を教えている縁があった。

 学生たちがカフェやベンチの設計図を披露すると、サルチリは熱心に眺め、「廃棄するのに比べて、二酸化炭素の排出量はどの程度減らせますか」などと質問を重ねた。

 着々と進む万博への参加準備。だが、ここに至る道のりは簡単ではなかった。昨年2月にデザインを公表した後、施工会社が辞退してしまったのだ。約30社に当たったが、金額が割に合わなかったり、外国とのビジネスに慣れていなかったりといった理由で敬遠され、新たに決まったのは8か月後の10月。サルチリが万博に関わるのは2005年の愛知万博以降、8回目だが、初めての事態という。

 サルチリは「万博に参加できないかもしれないと、ハラハラしていた。これからはパビリオンの中身を考えることに集中できる」と笑顔を見せた。

 大阪・関西万博には、愛知万博の120を上回る161か国・地域が参加を表明している。参加国が自前で建てる「タイプA」のパビリオンは「万博の華」とされ、53か国が予定しているが、建設資材の高騰や人手不足を背景に施工会社探しが難航した。今年1月に初めてシンガポールが着工し、起工式を行う国も出てきたが、ほとんどはまだ更地だ。タイプAで着工済みも12か国にとどまる。

 一方、17か国がなお施工会社と契約できていない。来年4月の開幕に向けて前に進む国と足踏みする国の「二極化」が進む。

 万博を運営する日本国際博覧会協会(万博協会)は昨年7月から、参加国からの相談にきめ細かく対応するため、担当者を割り当てる体制を敷いた。タイプAの担当職員は12人(今年3月時点)で、1人が5、6か国を受け持つ。

 国際局参加調整課参事の中村剛(55)は、国ごとの温度差が大きいと感じている。すでに起工式を行ったある国は、月に1回は協会とのミーティングを開き、準備に関する問い合わせを積極的にしてくるが、遅れている国は人員が乏しく、1人の職員が他の仕事と掛け持ちし、打ち合わせにもなかなか応じてもらえない。

 中村は「メールなどで対応を急ぐよう催促しているが、相手が別の仕事を抱えているのがわかると、強く言えない時もある」と打ち明ける。

 危機感を高めた万博協会や日本政府は、参加国への働きかけを強めている。

 「3月20日までに施工会社を見つけられなければ、タイプAでは出展できない」。ポーランドは3月上旬、日本大使館からそう警告された。早く建設してもらうため、日本がいったん期限を切って決断を迫ったのだ。

 ポーランドは、昨年12月の政権交代で作業が遅れた上、資材高騰で増額した予算の承認にも時間がかかり、ようやく施工会社と交渉に入っていたところだった。急いで書類を作成し、締め切りの2、3日前に契約をまとめたという。政府副代表のエリザ・クロノフスカ・シヴァク(46)は「本当にギリギリだった」と胸をなで下ろした。

 一方、期限内に建設開始のめどが立てられない国もある。こうした国に対し、日本側は、万博協会が建設を代行する簡易型の「タイプX」や、協会が建設し、複数の国・地域が共同利用する「タイプC」への移行を促している。タイプAからX、Cに移った国は計7か国ある。

 万博協会は、10月中旬までに建築工事を完了するよう求めている。この頃から会場全体の舗装工事を始めたい考えで、重機が入ると作業に支障が出るためだ。10月中旬まであと半年しかないが、建物のデザインによっては建設が間に合わないこともある。

 万博協会幹部は、焦りを募らせる。「どのタイプにするのかを参加国に委ねるのではなく、日本側で判断し、『この道しかない』と迫る。もう猶予はない」

(敬称略)

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