名古屋芸術大(愛知県北名古屋市)の来住尚彦学長(63)が、昨年8月に舞台稽古(けいこ)中の複数の女子学生にセクハラをしたと訴えられている問題は、学内の調査委員会の判断や来住氏の発言を巡り、ハラスメント問題などに詳しい専門家から疑問の声が上がっている。
この問題では、複数の学生がミュージカルの稽古中などに、来住氏から指導として頭をなでられたり、肩を組まれたりしたとするセクハラ被害があったと大学に申し立てた。大学側は運営法人の理事をトップに外部の弁護士2人を加えた調査委を設置したが、調査結果を受けて大学側は「処分するべきハラスメントが行われたとは認定できない」と結論付けた。
関係者によると、学生1人に対する来住氏の一部行為について調査委は「セクハラに該当し得る」と指摘する一方、身体的接触の程度は強くないとして重い処分は相当ではないと判断。
また、被害の申し出が半年後だったことなどを理由に「不快感を抱いた程度は大きくなかったことがうかがえる」とした。
他の学生に対する一部行為についても「不適切」と指摘しながら、やはり被害申し出が半年後だったことなどから不快の程度は低いとセクハラの認定はしなかった。
こうした判断について、性暴力被害に詳しい川本瑞紀弁護士(第一東京弁護士会)は「半年言えないのは普通で、それをもって不快感の程度が大きくないというのはおかしい。権威ある人からハラスメントを受けた場合、自分の感覚がおかしいのではないかと思ってしまう」と話し、被害者心理の理解が不足していると指摘する。
また、来住氏が調査委に対し、被害を訴えている学生について「そんなに嫌ならなぜ途中で言わなかったのか」と反論している点を「ノーと言えない関係性でノーと言わないのはイエスではない。言っていることがナンセンスで20年ほど前の古い感覚」と批判した。
今回の調査委は学内で設置した組織であり、大学から独立した専門家から構成される第三者委員会とは異なる。川本弁護士は「大学は第三者委員会を設置するなどして自浄作用を発揮すべきだ」と提案している。
一方、被害を訴える学生の一人は取材に「大学は都合の良い結論だけを公表していたことが分かりあきれた。大学への信頼はどんどんなくなっていく」と憤った。【川瀬慎一朗】
名古屋芸術大学 学長
來住 尚彦(きし なおひこ)
1985年 早稲田大学理工学部卒業後、東京放送(現TBS ホールディングス)入社。オーディオエンジニア、音楽番組制作を行う。96年T BSが経営するライブハウス「赤坂BLITZ」立上げ、支配人就任。全国ツアーコンサートのプロデュース、演出を行う。2008年エンターテインメントエリア「赤坂サカス」を立ち上げる。15年TBSホールディングスを退社し一般社団法人アート東京を設立。 東京、京都、大阪などでアートフェアを企画、プロデュースする。