「明日はヒノキになろう」(2024年4月10日『新潟日報』-「日報抄」)

 「明日はヒノキになろう」というのがアスナロの名の由来とされる。ヒノキは緻密で耐水性や防虫効果にすぐれた高級材だ。アスナロはヒノキより小ぶりなことが多く、ヒノキに劣るイメージを持たれることもある

▼しかし実際は強度も高く、ヒノキに匹敵する優良材だ。強い抗菌性と独特の芳香がある成分ヒノキチオールはヒノキより多く含まれ、枯死しても芯まで腐らないといわれる

アスナロの変種ヒノキアスナロは青森でヒバ、佐渡ではアテビと呼ぶ。漢字で書くと「当檜」。ヒノキの代わりに当てて良い材の意だ。風雪に耐え日陰や乾燥地でもよく育つ

▼江戸期は奉行が植林を奨励し、本県では大半が佐渡に分布する。戦後は建材用に伐採された。近年は保護を進めようと、有志による「アテビの会」が活動している。2005年には「佐渡の木」になった

佐渡では古くからカヤも多い。幕府直轄で管理した「御林」もあった。こちらも緻密で耐水性が高く、船や建材に用いられた。種子は食料になり、油は食用や灯火用に重宝された。明治以降は伐採が進んだが、樹齢600年の巨木が残る赤泊地区は今もカヤの実の菓子が特産だ

▼近頃は高校生がカヤを使った香水作りに挑戦している。香り成分のリモネンは甘酸っぱい香りで、リラックス効果があるとされる。ヒノキチオールもストレスを和らげるとか。佐渡は7割が森林で希少種も多い。アテビもカヤも豊かな森の象徴だ。芽吹きの季節、林に足を踏み入れて深呼吸したい。