入学式に関する社説・コラム(2024年4月8日)

ジャンパーが合理的(2024年4月8日『東奥日報』-「天地人」)

 

 きょうは県内の多くの小中学校で入学式が行われる。スーツスタイル、ワンピースにジャケット、真新しい制服。子も親もそれぞれ式典にふさわしい装いで、節目の一歩を踏み出すことだろう。

 服装を選ぶとき「TPOに応じて」と言われる。Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)への配慮のこと。派手すぎないか、季節外れではないか、何かと悩むことは多い。

 弘前市出身の建築学者今和次郎(こんわじろう)=1888~1973年=は、どこでもジャンパーを着続けた。人々の暮らしや風俗を記録、考察する「考現学」の創始者である。仕事柄ジャンパーが合理的だったことが始まりだが、入学式などの式典や冠婚葬祭もジャンパーで通した。必ずしも「形式的な装いをしなければという法はない」「心のもち方からしぜんに湧く表情と言葉だけですむはず」といった考えからだ。

 「皆がそうだから」という根拠があいまいな慣習をただ受け入れるのではなく、なぜそうするのか立ち止まってみては。自著「ジャンパーを着て四十年」にそんな問い掛けがある。

 堅いイメージの自治体職員が年間通じてノーネクタイなど軽装で勤務する動きが広がっている。県も今月から始めた。その心は「より働きやすく」「より親しみやすく」。どんな変化をもたらすのか。和次郎ならつぶさに観察するに違いない。

 

自分は何が好きで、どう生きたいか(2024年4月8日『秋田魁新報』-「北斗星」)

 

 夕飯の支度をしていて、テレビから聞こえてきた言葉が耳に留まった。若いお笑い芸人だったと思う。最近始めた1人暮らしが寂しいと嘆き「冷蔵庫の音ってこんなに大きかったんだと気付いた」といったことを話していた

▼筆者にも覚えがある。秋田市の高校を卒業して上京し、1人暮らしを始めた。初めのうちは部屋にぽつんといると孤独を感じ、冷蔵庫や外を走る車の音が妙に気になったものだ

秋田大学の入学式が先日あった。「1人暮らしになるのが心細かったが、新しい友達ができて学生生活が楽しみ」という岩手県出身の新入生の声を記事で目にした。事前の交流会で友達になったそうだ。この春、同じように不安と期待を胸に1人暮らしを始めた学生は多いだろう

▼何を食べるかは自分で決め、自分で用意することになる。床に就く前に「おやすみ」と直接声をかけ合う相手はいない。風邪をひいても対処するのは自分だ。1人の時間はぐんと長くなる

▼劇作家で演出家の鴻上尚史(こうかみしょうじ)さんは、孤独な時に人は自己対話が自然と深まるとし、学生に1人暮らしや1人旅を勧める。「『本当の孤独』は『自分が本当にしたいこと』へ導いてくれる」「人間は、一人でいる時に成長する」(「孤独と不安のレッスン」大和書房

▼孤独を無理に紛らわせなくていいのだと思えば少しは気も楽になるだろうか。自分は何が好きで、どう生きたいか。自分と向き合う1人の時間も、きっと学生生活の大切な一部になる。