日本赤十字社に入社した天皇、皇后両陛下の長女愛子さまは、入社の翌日、日赤を選んだ理由や結婚観などをつづった文章を公表した。天皇や皇族方が自身の意見を述べる機会は限られている。天皇家に仕えた元侍従は、そこには「ひと言ひと言に、想いと気配りを込める皇室の姿がある」と話す。
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「両親のようにお互いを思いやれる関係性は素敵だなと感じます」 自身の結婚観について、愛子さまは文書でこう答えた。2年前の成年の会見でも結婚感についてたずねられ、「一緒にいてお互いが笑顔になれるような関係が理想的」と答えたときと変わらないとしながらも、陛下と雅子さまの日常が目に浮かぶような表現を「追加」した。
この文書は、日赤を選んだ理由や、成年皇族として公務への抱負、結婚観、皇族が減少する皇室の将来など、4問の質問に答える形で愛子さまが考えをつづったものだ。
象徴天皇制を研究する名古屋大の河西秀哉准教授は、愛子さまの文書を読み、目配りの届いた文面に感心した、と話す。 「たとえば公務について述べた部分では、『両陛下や上皇、上皇后両陛下を始め、他の皇室の皆様のなさりようをお手本とさせていただき――』と表現されており、全方位に気配りと配慮の届いた満点に近い文面です。両陛下や上皇ご夫妻、皇族方や国民といった、いろいろな立場の人が読んでどう感じるか、といった部分までよく考えて文書を練っています」
もともとはもう少し早い時期に公表する予定の文書だった。しかし、愛子さまが忙しかったこともあり、入社のタイミングにずれこんだものだったらしい。
■深夜まで推敲を重ねることも
天皇陛下や皇族方は、報道各社からの質問や定期的に開催される式典でのあいさつなどのために文章をまとめることがある。
「天皇陛下や皇族方がそうした文章を作るとき、事務的に処理していると思われがちです。しかし、想像されるよりもずっと時間と神経を費やしておられます」 そう話すのは、平成の時代に天皇家に侍従として仕え、駐チュニジア、駐ラトビア特命全権大使などを歴任した多賀敏行・中京大学客員教授だ。侍従時代は、記者会見のための文章の英訳なども担当したことがあるという。
式典などのあいさつは、ある程度のひな型が決まっているという。主催者側から事前に提供される資料を参考に、お言葉に含めるべき単語やキーワードにご自身の想いを加えていくイメージだ。
「皇室から発信される言葉は、そのひとつひとつに影響力と責任が伴います。上皇さまなどは、文書を印字しては、適切な表現を考え抜くといった作業をなさっていました」
そうした作業が深夜に及ぶことも珍しくなく、お言葉を述べる直前、ギリギリの時間まで推敲することもあったという。
■愛子さまの「見えない努力」に陛下が言及
しかし、さらに大変なのが、愛子さまの成年にあたっての記者会見や今回のように、ご自身の人生の節目にあたっての文章だ。ひな型はなく、自身の想いを一から練り上げる必要がある。
「皇族が、自身の考えを発信する機会は、さほど多くはありません。なので、ご自身の人間性や考え方を国民に伝える貴重な機会でもあります。それを意識して工夫を凝らすと同時に、誰が読んでも配慮に欠ける表現がない文章を完成させねばなりません。大変な作業だと思います」
世間からは見えない、愛子さまの「努力」について、陛下が口にしたことがある。 昨年2月の誕生日にあたって、陛下は記者会見に向けて準備する愛子さまの様子について、こう触れている。 「私たちも、会見に向けて一生懸命準備をする様子を目にしていましたので、無事に会見を終えることができ、安堵いたしました」
そこからは、娘を見守る「父親」としてのあたたかな思いを感じることができる。
4月から愛子さまの仕事と公務の両立生活がスタートした。入社式の日、初出社に向かう愛子さまに陛下と雅子さまは、こう声をかけたという。 「頑張って行ってらっしゃい」
ご両親からあふれるほどの愛情に包まれてきた愛子さまは、素敵な社会人として成年皇族として、さらに成長されるにちがいない。
(AERA dot.編集部・永井貴子)
永井貴子
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