自民党は4日、派閥の政治資金問題の処分を決めた。一定のけじめはつけたものの事態解明からは遠く、問題の幕引きとはいいにくい。内閣支持率の低迷に加え、処分を巡る党内の混乱で政権運営はより難しくなる。外交や経済で懸案を抱える岸田政権にとって「政治とカネ」が重荷となる。
「離党勧告は重すぎる」「処分基準が曖昧だ」。4日夕に党本部で開いた党紀委員会では処分案への異論が噴出した。「委員長一任でいいか」との呼びかけに賛同の声は乏しかった。明確な合意に至らぬまま、39人の処遇を決める1時間半の議論は終わった。
党処分をめぐる調整は混乱続きだった。党総裁でもある岸田文雄首相が最後まで前面に出ざるを得なかったところに、いまの自民党のガバナンスの欠如がうかがえる。
首相が麻生、茂木両氏らとまとめた案をもって次の協議で別の幹部らの意見を聞き、持ち帰るという段取りだった。この案には二階派事務総長だった武田良太氏を党処分で離党勧告に次いで重い、党員資格停止とする内容を含んでいた。
2つ目の会合では渡海氏が「基準が明確ではない。きちんと説明できるようにしておかなければいけない」と指摘した。ほかの幹部も「二階派と組織的に還流して不記載だった安倍派では性質が異なる」と訴えた。
結局、武田氏は党員資格停止より3段階軽い党役職停止として決着したが、4日まで協議がもつれる一因となった。
武田氏はもともと麻生氏との関係が悪いとされる。加えてそもそも幹部全員で集まらなかったのは「食い合わせが悪いメンバーがいたからだ」と党幹部は解説する。
関口氏は参院側の処分対象者について茂木氏から事前に根回しがなかったと強く反発していた。首相が部屋を行き来して調整する姿には「まるで伝書バトだ」との声が出ていた。
年明け以降、首相が頭を悩ませていたのが処分問題だった。「若い連中は早く処分しろと言うが、そう簡単ではない。順番を追ってやるべき話だ」。周囲にこう漏らし、自ら関係議員から経緯を聞き取るなど手続きでも慎重を期した。
首相が「厳しい処分」を唱え、安倍派幹部は「不当に重すぎる処分を受けるのは納得がいかず、到底受け入れられない」と強く反発する。それでも世論の受け止めは冷ややかだ。
新型コロナウイルスの緊急事態宣言下で東京・銀座のクラブを訪れた自民党議員が離党勧告を受けたのと比べ、政治とカネの問題にもかかわらず、今回の処分は甘いとの見方は多い。
日本経済新聞の3月の世論調査で、関係議員の参考人招致や証人喚問が「必要だ」は78%に上った。政治資金問題を巡る実態解明はなお不十分との受け止めが大勢で対応への不満も根強い。
岸田政権を取り巻く内外の課題は山積している。
11月の米大統領選でトランプ前大統領が再び当選する可能性はある。ウクライナ支援の見直しなど国際秩序を揺るがす事態に直面しかねない。
3月の世論調査では首相に処理してほしい政策課題として「政治とカネ」が「経済全般」と並びトップだった。政治資金問題で信頼回復を急がなければ、経済政策などの推進力もそがれる。
4月28日投開票の3つの衆院補欠選挙は民意を見極める場となる。自民党は東京15区と長崎3区で独自候補を出さず、島根1区も厳しい選挙戦となりそうだ。国民の納得が得られなければ政権への逆風は止まらない。
9月には党総裁選を控える。
首相は世論をにらみ、塩谷立氏と世耕弘成氏を当初軸としていた非公認より厳しい処分に引き上げた。一方で萩生田光一前政調会長らを党役職停止にとどめた。総裁選を前に安倍派系の議員をすべて敵に回すわけにはいかないとの心情が透ける。
首相が再選を狙うには6月23日までの今国会で衆院を解散し、国民から信任を得るのが一つのシナリオだ。党内の流動化と内閣支持率の低迷が相まってその選択肢も心もとない。